恋の音色は星空と輝く

御子柴 流歌

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第5章: アストライアの動揺

5-3. 遠慮ってどういう意味?

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 ホームルーム後の教室から廊下へクラスメイトの雄叫びが飛び出していく。そのまま何人かは体育館へステージ発表の演目練習をしに飛び出していった。――しばらくしてから「廊下を走るな!」と叱られる声が響いてきたが、それはきっとご愛敬っていうモノだと思う。

「おつかれさま」

「まなみんちょこそおつかれさまだよ」

 例の臨時ホームルーム終了後、教壇のすぐ前の机にカラダを預けてぐったりとしていたアタシに、学級委員長の佐伯さえき真奈美まなみちゃん――委員長のマナミちゃんなので、組み合わせて『まなみんちょ』と呼んでいる――が声をかけてきた。ちなみに、彼女のことをそう呼ぶのはアタシだけだ。みんなも真似してくれていいのに。

「ぜーんぶ星凪せなちゃんに任せっきりしちゃって、ごめんね」

「何も気にすることなんてないってば。っていうか、今アタシぐったりしてるけど、なんでここまでぐったりしてるかよくわかんないや」

 あはは、と楽しそうに、でもそれ以上に心底から安堵したように笑うまなみんちょだった。

 ちょっと聞いてほしいの、と前置きして始めたホームルームのことは、正直言うと自分が何を話したのかハッキリとは思い出せていない。ただ、アストに何度も言われてきた『自分の言葉で真っ直ぐに伝える』ということだけ気を付けたつもりだった。あまり覚えていないからそれを出来ているかは定かじゃないけれど、ああして教室を出て行ったみんなの様子を見る限り、また今まで通りに――もしかすると今まで以上にまとまりのあるクラスになっていけるような気がしていた。

「これからはみんな、そこまで我慢しないで言いたいこと言えるんじゃないかな」

「ほんと、星凪ちゃんのおかげ」

「アタシだけじゃないからね」

 言い合いをしていたり仲違いをしていたりしていたところのそれぞれの言い分を聞いてくれたのは、実はアストだった。もめ事が起きたとき、アストも部活で不在だったタイミングだったらしく、アタシと似たような負い目を感じていたらしい。

 ちょっと意外だったのは臨時ホームルームのときに、ナミとフウマがまなみんちょといっしょになってアタシをサポートしてくれたこと。とくにフウマはいつもの軽いノリとはちょっと違う雰囲気で、熱く語ってくれたりなんかした。男子たちの意見が割れずに済んだのはフウマのおかげでもあった。

「そもそもアタシは、そこの『現場』に居られなかったわけだしさ」

「むしろそれが良かったのかもしんないけどね」

 にっこりと笑いながら、まなみんちょはアタシよりちょっと長いくらいの髪を揺らす。

「何て言うのかな。うまく言えないけど、どっちの意見もフラットに聴いて、それを理解してまとめてお互いに伝えてくれたから、仲直りできたっていうかさ。だから、それは間違いなく星凪ちゃんのおかげ。……ありがとね」

「……ぇへへ」

 思いっきりまっすぐに感謝を告げられると、弱い。どうしても照れてしまう。言われ慣れていないからだろうか。免疫というか耐性というか、そういうモノが絶対的にアタシには足りていないようだ。



    〇



 心の中の重石みたいなモノがひとつ無くなって、いくらかカラダも軽くなったような気がする。部活動を終えてから一度教室に戻って学祭準備を手伝ったところで、今日の予定はすべて終了。帰る準備を終えて生徒玄関前につながる階段を降りようとたところで、スマホが震えた。着信だけど通話ではなさそうなので、とりあえずは放置。スクールバスの中とかその後乗る電車の中でも充分だと思いながら、階段を降りる。

 足取りも軽く階段を降りていくと、1階の売店がある方からアストが歩いてくるのが見えた。

「アストー!」

 どこからアタシの声が聞こえてきたかわからなかったようで、一瞬だけきょろきょろとしていたアストだったが、アタシが近付いていくことでようやくわかったらしい。なんとなく小動物みたいな動きになっていて、ちょっとかわいかった。

「おつかれさま」

「あ、うん。セナもお疲れさま」

「ん? ……何か、ちょっとお疲れモード?」

 返事とかの反応が良いアストにしてはちょっと籠もったような言い方になっていて、少し気になる。部活の練習もハードさを増してくる頃合いだし、そのせいなのかもしれない。

「んー、そうかも」

「何か飲み物ある?」

「や、別に」

「おごったげる。アストにはお世話になりっぱなしだし」

 小さく「あ、別に」とか断るような言葉が背中側で聞こえてきたけれど、とりあえず無視。いつも元気をくれるアストにちょっと元気が足りていないのなら、こういうときにはその元気を分けてあげないといけない。今日もいろいろと支えてくれたのだし、それくらいはしないとダメだと思った。

 疲れているときはクエン酸、ってことでいつも通りのレモンティーを売店で買ってきて、アストに押しつけた。アストは薄い笑顔を貼り付けたみたいにアタシを見つめてくる。

「アスト? どしたの?」

 どう見てもいつもとは違うその様子がどうしても気になってしまって、思わず彼に訊く。

「ごめんね」

「……え?」

 不意に謝ってくるアスト。どこに謝られるようなことがあったのか全く解らなくて、ものすごく雑に訊き返してしまった。慌てて「何で?」と付け足してごまかす。

「前にボク、『フウマとナミは付き合い始めたみたい』って言ったじゃない?」

「あー……、そう、だっけ?」

 クローゼットに押し込んだままおぼろげになっている自分の記憶を引っ張り出そうとしてみる。言われてみればたしかに、ふたりがくっついたかどうかという話はふたりに訊いたわけじゃなく、アストから聞かされたような気がする。

「ホントはさ、今朝言ってたみたいに『くっついてなかった』わけでしょ」

「うん」

「だからさ」

 一瞬だけアストはアタシの目を見て、すぐにまた逸らして前を向いた。

「ボクがあんなこと言わなければ、セナはナミに対してそこまで遠慮しなくても済んだんじゃないかな、ってさ」

「……え?」

 後ろから頭を殴られたような衝撃、なんていう言い方をこういうときにする人がいるけれど、今アタシが感じた衝撃はまさにそれにそっくりだった。突然ガツンとカラダに響き渡るような音がして、何が何だかよくわからないけれどとりあえず痛い――みたいな。それくらい、アストが何を言ったのか理解ができなかった。

「え? ……ちょっと待って」

 なぜ謝られたかも解らないのに、追い打ちを掛けるみたいにおかしなことを言うアスト。

「遠慮って……、え? や、そもそも何でアストがそんなこと言う必要あるの?」

「だって、気になってたんでしょ? フウマのこと」

「そ……」

 1文字だけ言って、そのまま黙ってしまう。

 今アタシは、どっちを言おうとしたの?

 ――「そうだけど」? それとも「そうだったけど」? もしかすると「そんなことない」?

「ちょっと前にも言ったけど、セナはもっと自分に正直になった方が良いと思うんだ」

「そんなこと無いよ。アタシってほら、わがままだし、自分勝手だし」

「うん、絶対今そういう答えが返ってくるだろうなぁ、って思ってたよ」

 アストは変わらず正面を見たまま、薄らと微笑んだような雰囲気を見せた。

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