なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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5.気難しい魔術師の弟子

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 我らが師である魔術師ジルは塔でも随一の実力者ではあるが、人柄はあまりよろしくない。面倒くさがりなのに面白いことがあると首をつっこみ、面倒になると弟子に丸投げするような人だ。
 ジルによる被害届に対する書類をまとめたり、陳述書に目を通したりするのは弟子の仕事――つまり私やアンリ殿下が請け負っていた。
 そして書類関係は最終的に魔術師フロランのもとに集まる。被害に応じた修繕費の決算は彼に一任されているからだ。
 三年とはいえ、毎日のように書類に追われたら私もたいがい面倒になるわけで、間をすっ飛ばしてフロランに書類を届けるようになり――その繋がりで、彼の弟子と知り合った。

「えーと、今回は……ああ、湖のほとりを崩しただけなんですね。最近は落ち着いてきたようで、二人も弟子を持ったから責任感が備わったのかもしれませんね」

 落ち着いた声で自身の黒髪をいじるのは、フロランの弟子であるノエル。年の頃は私と同じか、少し上ぐらいだろう。
 長く伸ばした髪をひとつに結び、湖の水面を思わせる水色の瞳で書類を見ている。

「これで落ち着いた、になるんですか」
「湖を半壊させてもおかしくありませんから」

 湖の底に魔物が棲みつくようになったのでどうにかしてほしい。そんな依頼を受けた結果、湖が少し広がった。
 これで落ち着いたとみなされるのだから、おかしなものだ。四方から文句が飛んできてもおかしくないのに依頼が絶えないのは、それだけの実力がジルにあるからだろう。

「たしか……ノエルは五歳からフロラン様の弟子をしているんですよね」
「まあ、そうなりますね。途中何度かやめた時期を加味しなければ」

 ノエルは元々は孤児で、赤子の頃にフロランに拾われたらしい。フロランが保護者なので身元は確かだ。出生は不明だが、赤子の頃からフロランのそばで育ったのであればフロランの子と考えてもいいだろう。

「ちなみに、将来は何をされる予定ですか?」
「とくには考えていませんが……このままいけばフロランの後を継ぐことになるでしょうね」

 塔の雑務を請け負う人はほとんどいない。請け負いたい人がいないとでも言うべきか。
 魔術師はたいてい個人主義で、ジルのようなとんでもない被害を起こす人もいる。後始末がメインになるのだから、やりたくないと思う人が多いのはしかたないだろう。
 だからフロランの後を継ぐ――雑務を請け負い続けるのなら、将来は約束されているようなものだ。

「ご趣味は」
「本を読むのは好きですよ」
「好きな食べ物は」
「甘いものよりは辛いもののほうが」
「好きな音楽は」
「とくに考えたことはありませんが、落ち着いた音色は好ましく思います」
「恋人は」
「これといった出会いがないもので」
「妻は」
「妻はいるけど恋人はいないといった詭弁を使うほどひねくれていませんよ」

 魔術師が保護者で、安定した職が約束されていて、趣味や好きなものも無難で、特定の相手もいない。
 こうして話している間も書類を処理できる優秀さも持ち合わせている。

 やはりこの人だ。この人しかいない。

「私と結婚を前提にしたお付き合いをするつもりは」
「保留といたしましょう。それではこちらの書類をそちらの箱に入れてください。後でフロランが確認して、提出しますので。お疲れ様です」

 あっさりと流された。
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