28 / 47
28.研究内容1
しおりを挟む壊れることを前提に納品の早い家具を選んで、店を出る。細部にまでこだわらなかったので、思いのほか早く用事を済ませてしまった。
今日一日お休みをいただいているから、塔に戻ってフロランの手伝いをするのもおかしな話だ。どうしたものかと、青く晴れ渡った空を見上げる。
「そういえば、あなたはジルの弟子になってもうすぐ四年でしたよね」
不意に、ノエルから予想していなかった質問をされ、頷きながら目を瞬かせる。
王立学園の入学権をアニエスに譲った私は、ジルに誘われて彼の弟子になった。それが三年と少し前。もうすぐ、というにはあと半年以上あるので微妙なところだけど、まあ間違ってはいない。
「成果を得られそうな研究材料は見つかりましたか?」
それは、国が魔術師と認めるに値するほどの何かが見つかったか、という問いかけ。
三年という月日はけっして短いものではない。王立学園に入学し、卒業するのも三年だ。だが魔術師になるには、短すぎる。
私よりも長く魔術師の弟子をしているアンリ殿下も、成果を得てはいない。彼に関しては、そもそも王太子であって魔術師を目指しているわけではない、というのもあると思うけど。
「……一応、研究しているものはありますが……実用にはほど遠いです」
研究テーマは決まっている。だけど、実際に運用するには時間も工夫も材料も、何もかもが足りていない。
「もしよければ見せていただいても? 若輩ではありますが、助言ぐらいはできるかもしれないので」
「それは……もう少し研究が進んでからでもよろしいでしょうか。他の方に指示を仰いだとなると、ジルが拗ねそうですし」
私という素晴らしい師匠がいるのに何が不満なんだい? そう問い詰めてくるジルの姿が容易に想像できる。
苦笑を浮かべながら言うと、ノエルがなるほど、と頷いた。
「何を研究しているかぐらいは聞いてもいいですか?」
「それはもちろん……でも本当に、まだまだなので、聞いても呆れないでくださいね?」
「あなたのすることに呆れることはありませんよ」
「……魔物の探知、探索ができるものを作れないか、と色々調べています」
真顔で言うノエルに、少し悩みながら自身の研究テーマを口にする。
魔物は神出鬼没で、危ういとなればすぐ逃げる。しかも逃げた先で力をつけ、より強大になるかもしれないので、魔物を見つけられる装置を作れれば国に認められるだろう。
だけど、そんなものが本当に作れるのなら、すでに誰かが作っている。
「魔物は個体ごとに作りが違うので……何を基準にすればいいのか、模索している段階で……」
魔物が魔物と呼ばれるのは、普通の動物よりも多くの魔力を帯びているからだ。
だから最初は魔力に反応するように装置を作った。だけど、魔力は大なり小なりどこにでもある。人にも動物にも、魔道具にも。
その中から魔物だけを特定するのは難しく、なら魔力以外で何かないかと文献をあさったりしている段階だ。
「ジルに討伐した魔物を持って帰ってもらえないが頼んではみたのですが……さすがに肉片ではどうにもらなず……かといって繊細な仕事を頼むのも難しいですし」
魔物には尋常じゃない再生能力を持つ個体もいる。真っ二つ程度では死なない個体もいる。
だからジルは、とりあえず粉々にする。それで再生したり動かなければ死んだとみなすし、動いたらさらに燃やして灰にする。今のところ、灰から再生した魔物はいない。
理に適った行動ではあるので、もう少し丁寧にとお願いするのは難しい。丁寧にした結果、魔物が再生して被害が広がったら元も子もない。
「なるほど。たしかに……ジルが受ける依頼では難しいですね。自ら依頼を受ける気は?」
「魔術師の弟子に依頼する人はいませんよ」
アンリ殿下は調査に赴きはするけど、討伐までは担っていない。弱い個体であれば兵の派遣を促し、兵ではどうにもならなければ魔術の塔に依頼することを提案する。
領主もできる限り金をかけたくはないので、調査依頼からはじめ、必要であれば討伐も依頼してくる。
そこでわざわざ魔術師の弟子でもいいとする人はいない。討伐するのなら一度でさくっと終わらせて、余計な出費を控えたいと考える。
「それなら今度、僕が簡単な依頼を受けるので、一緒に行ってみますか?」
「一緒に、ですか?」
「はい。ジルの依頼に同伴するのは難しいでしょうし……恋人とはひと時も離れがたいのだと言えば、ジルも納得すると思いますよ」
それは嫌な納得のしかたのような気もするけど、悪い話ではない。
問題は、ついさっき、無理をしてほしくないとお願いしたばかりだということだ。
58
あなたにおすすめの小説
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
[完結]婚約破棄ですか? 困りましたね。え、別の方と婚約? どなたですか?
h.h
恋愛
未来の妃となるべく必死で努力してきたアリーシャ。
そんなアリーシャに婚約破棄が言い渡される。アリーシャが思ったのは、手にした知識をこれからどう活かしていけばいいのかということだった。困ったアリーシャに、国王はある提案をする。
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
再婚約ですか? 王子殿下がいるのでお断りしますね
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のレミュラは、公爵閣下と婚約関係にあったが、より位の高い令嬢と婚約しレミュラとは婚約破棄をした。
その事実を知ったヤンデレ気味の姉は、悲しみの渦中にあるレミュラに、クラレンス王子殿下を紹介する。それを可能にしているのは、ヤンデレ姉が大公殿下の婚約者だったからだ。
レミュラとクラレンス……二人の仲は徐々にだが、確実に前に進んでいくのだった。
ところでレミュラに対して婚約破棄をした公爵閣下は、新たな侯爵令嬢のわがままに耐えられなくなり、再びレミュラのところに戻って来るが……。
残念ながら、契約したので婚約破棄は絶対です~前の関係に戻るべきだと喚いても、戻すことは不可能ですよ~
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突き付けられたアンリエッタ。彼女は、公爵家の長男ランドリックとの結婚を間近に控えていた。
結婚日も決まっていた直前になって、婚約者のランドリックが婚約を破棄したいと言い出した。そんな彼は、本気で愛する相手が居ることを明かした。
婚約相手だったアンリエッタではなく、本気で愛している女性レイティアと一緒になりたいと口にする。
お前など愛していなかった、だから婚約を破棄するんだ。傲慢な態度で煽ってくるランドリック。その展開は、アンリエッタの予想通りだと気付かないまま。
婚約を破棄した後、愛する女性と必ず結婚することを誓う。そんな内容の契約書にサインを求めるアンリエッタ。内容をよく確認しないまま、ランドリックはサインをした。
こうして、婚約関係だった2人は簡単に取り消すことの出来ない、精霊の力を用いた特殊な契約を成立させるのだった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
ご要望通り幸せになりますね!
風見ゆうみ
恋愛
ロトス国の公爵令嬢である、レイア・プラウにはマシュー・ロマウ公爵令息という婚約者がいた。
従姉妹である第一王女のセレン様は他国の王太子であるディル殿下の元に嫁ぐ事になっていたけれど、ディル殿下は噂では仮面で顔を隠さないといけないほど醜い顔の上に訳ありの生い立ちの為、セレン様は私からマシュー様を奪い取り、私をディル殿下のところへ嫁がせようとする。
「僕はセレン様を幸せにする。君はディル殿下と幸せに」
「レイア、私はマシュー様と幸せになるから、あなたもディル殿下と幸せになってね」
マシュー様の腕の中で微笑むセレン様を見て心に決めた。
ええ、そうさせていただきます。
ご要望通りに、ディル殿下と幸せになってみせますね!
ところでセレン様…、ディル殿下って、実はあなたが一目惚れした方と同一人物ってわかっておられますか?
※7/11日完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観や話の流れとなっていますのでご了承ください。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる