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3 理由
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あれから一日過ごし、頭が冷えた。
昨日の事を思い返すと、自然とため息が漏れてしまう。
ああ、流石に言い過ぎた。けど、あの男も大概だ。
何故、あんなことを言い出したのか。
脳裏にあの事が過り、首を振ってかき消した。
一度大きく息を吸い込んで、吐く。
落ち着こう。
今日も彼は来ているのだろうか? あれだけ言えば少しは堪えてくれてるはず。
もし、来てなかったら?
―――いや、それは別に良いことだ。
物は考えよう。あれで愛想をつかして何処かに行ったというのであれば、それでいい。
また、あの時間が戻ってくるのだから。
自分は悪くない。そう、言い聞かせて図書室前。
来ているのであれば、開いている。
来ていないのであれば、締まっている。
答えはどちらか――――。
自分の肩に重いものがズシリとのしかかる。
気が重い。まぁ、どうせ寝てるだろうから、構わないか。
ゆっくりと扉を開け、中に入ると。
「あ、小宮さん」
起きてた。
まさかの起床。事態は昨日よりも悪化していた。
ニッコリ笑いながらこちらを見るその姿に、私の顔が引きつる。
(なんで起きてるのよ)
座っている位置もやはり、私のすぐ横。せめてそこは遠慮してほしかった。
昨日と同じように自分の指定席に座るが、椅子を引いて距離を離す。
向こうがこっちに近づこうとしたのが見えたので。
「それ以上、私に近づかないでください」
手で制止し、どろどろと怨念じみた声を出す。
「え? どうして」
「昨日柳君は自分がしでかした事を覚えてないんですか?」
指を唇にあてがい、彼はしばし思考する。
そして、何かを思い出したように手を打つ。
「隣で寝てたね」
「もっと違う事ありましたよね!」
「他に何かあった?」
くっ、この人……白々しい。
あえて言わないで、私に言わせようとしているのかしら?
毎回、毎回この人には調子を狂わされる。
「今日はなんで起きてるんですか? 何時も寝てるのに」
「うん、実はね、小宮さんの言う通り、寝てばかりだとあれだから今日は本を読もうと思って」
ああ、なるほど。私が原因だったのか。
勢いに任せて何でもかんでも口走った事が裏目に出てしまった。
昨日の読みかけた本を私は取り出し、席に着く。
栞が挟んでいたページを開き、順に読み進めていくが、彼が未だにこっちを見ている。
「本を読むんじゃなかったんですか?」
「そうなんだけど、どんな本を読んだら良いか分からなくて」
「……適当に読んだら良いんじゃないですか?」
「なんかさ、おススメの本とかある?」
こちらの顔を覗き込むようにして見てくる。本当にうっとおしい。
「どういう本が読みたいんですか?」
「絵があって、簡単に読める本が良いかな」
「だったらその辺に色々あるんで自分で探してください」
後ろにある本棚を適当に指差して、後は放置。
何か言いたそうではあったが、立ち上がって本棚の方へ彼は向かう。
やがて何冊かの本を手にして戻ってきた。
持ってきた本は、多種多様。一貫性がなく、低学年の児童が読む本から
かなり読むのが難しい小説なんかも入っていた。
それから彼の方を何度か確認したけど、やはり読むのが下手だった。
明らかに読み慣れてない感じがあり、ページの進みも遅い。
それに対してとやかく言う気はない。人それぞれのペースがある。
ただ、気になる。
「何でそんなに頑張るんですか?」
手に取っていた本を伏せ、彼に聞いた。
不思議だった。
昨日怒りはしたけど、本を読むことを強制したわけじゃない。
「無理して本を読んでも楽しくないですよ。どうしてそこまでして読むんですか?」
私の疑問に対して、彼は読んでいた本を伏せ、こっちを見る。
「そんなの決まってるよ」
「何ですか?」
「小宮さんに嫌われたくないから」
「――――――っ!」
伏せていた本を顔の前で開いて顔を隠す。
きっと、今私は変な顔している。また、なんでそういう事言うの、この人!
「…………嫌いになりませんから、別に読まなくても大丈夫です」
自分の声が上ずっているのが分かる。
彼がどういう顔でこっちを見ているのか、怖くて見れなかった。
「ありがとう。でも、ゆっくりでも読んでみるよ」
自分の顔を隠していた本を下ろす。
彼は既に本と向き合っていた。本当に、ゆっくりと。
その横顔が、なんとも言えず綺麗で言葉を失った。
いつの間にか、私は彼に見入っていた。
昨日の事を思い返すと、自然とため息が漏れてしまう。
ああ、流石に言い過ぎた。けど、あの男も大概だ。
何故、あんなことを言い出したのか。
脳裏にあの事が過り、首を振ってかき消した。
一度大きく息を吸い込んで、吐く。
落ち着こう。
今日も彼は来ているのだろうか? あれだけ言えば少しは堪えてくれてるはず。
もし、来てなかったら?
―――いや、それは別に良いことだ。
物は考えよう。あれで愛想をつかして何処かに行ったというのであれば、それでいい。
また、あの時間が戻ってくるのだから。
自分は悪くない。そう、言い聞かせて図書室前。
来ているのであれば、開いている。
来ていないのであれば、締まっている。
答えはどちらか――――。
自分の肩に重いものがズシリとのしかかる。
気が重い。まぁ、どうせ寝てるだろうから、構わないか。
ゆっくりと扉を開け、中に入ると。
「あ、小宮さん」
起きてた。
まさかの起床。事態は昨日よりも悪化していた。
ニッコリ笑いながらこちらを見るその姿に、私の顔が引きつる。
(なんで起きてるのよ)
座っている位置もやはり、私のすぐ横。せめてそこは遠慮してほしかった。
昨日と同じように自分の指定席に座るが、椅子を引いて距離を離す。
向こうがこっちに近づこうとしたのが見えたので。
「それ以上、私に近づかないでください」
手で制止し、どろどろと怨念じみた声を出す。
「え? どうして」
「昨日柳君は自分がしでかした事を覚えてないんですか?」
指を唇にあてがい、彼はしばし思考する。
そして、何かを思い出したように手を打つ。
「隣で寝てたね」
「もっと違う事ありましたよね!」
「他に何かあった?」
くっ、この人……白々しい。
あえて言わないで、私に言わせようとしているのかしら?
毎回、毎回この人には調子を狂わされる。
「今日はなんで起きてるんですか? 何時も寝てるのに」
「うん、実はね、小宮さんの言う通り、寝てばかりだとあれだから今日は本を読もうと思って」
ああ、なるほど。私が原因だったのか。
勢いに任せて何でもかんでも口走った事が裏目に出てしまった。
昨日の読みかけた本を私は取り出し、席に着く。
栞が挟んでいたページを開き、順に読み進めていくが、彼が未だにこっちを見ている。
「本を読むんじゃなかったんですか?」
「そうなんだけど、どんな本を読んだら良いか分からなくて」
「……適当に読んだら良いんじゃないですか?」
「なんかさ、おススメの本とかある?」
こちらの顔を覗き込むようにして見てくる。本当にうっとおしい。
「どういう本が読みたいんですか?」
「絵があって、簡単に読める本が良いかな」
「だったらその辺に色々あるんで自分で探してください」
後ろにある本棚を適当に指差して、後は放置。
何か言いたそうではあったが、立ち上がって本棚の方へ彼は向かう。
やがて何冊かの本を手にして戻ってきた。
持ってきた本は、多種多様。一貫性がなく、低学年の児童が読む本から
かなり読むのが難しい小説なんかも入っていた。
それから彼の方を何度か確認したけど、やはり読むのが下手だった。
明らかに読み慣れてない感じがあり、ページの進みも遅い。
それに対してとやかく言う気はない。人それぞれのペースがある。
ただ、気になる。
「何でそんなに頑張るんですか?」
手に取っていた本を伏せ、彼に聞いた。
不思議だった。
昨日怒りはしたけど、本を読むことを強制したわけじゃない。
「無理して本を読んでも楽しくないですよ。どうしてそこまでして読むんですか?」
私の疑問に対して、彼は読んでいた本を伏せ、こっちを見る。
「そんなの決まってるよ」
「何ですか?」
「小宮さんに嫌われたくないから」
「――――――っ!」
伏せていた本を顔の前で開いて顔を隠す。
きっと、今私は変な顔している。また、なんでそういう事言うの、この人!
「…………嫌いになりませんから、別に読まなくても大丈夫です」
自分の声が上ずっているのが分かる。
彼がどういう顔でこっちを見ているのか、怖くて見れなかった。
「ありがとう。でも、ゆっくりでも読んでみるよ」
自分の顔を隠していた本を下ろす。
彼は既に本と向き合っていた。本当に、ゆっくりと。
その横顔が、なんとも言えず綺麗で言葉を失った。
いつの間にか、私は彼に見入っていた。
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