椿の恋

nekuro

文字の大きさ
4 / 15

4 友達

しおりを挟む
 あの日以来、彼は本を読むようになった。
 ただ、それは毎日というわけではなく、寝ている事も多々ある。
 まぁ、彼らしいと言えば彼らしいので、そっとしている。
 不思議と、最近は寝顔を見るのも楽しんでいる自分がいた。
 今日も彼と一緒で図書室にいる。
 彼は起きて小説を読んでいた。

 沈黙。

 私の呼吸や、時計の針、本をめくる音が部屋を支配する。
 静かなこの時間が愛おしい、そう思っていた。なのに――何故だろう?
 この沈黙が、怖いと感じてしまっていた。

「あの……」

 たまりかねて、隣で本を読んでいた彼に話しかける。
 読書を邪魔した私の話しかけにたいして、嫌な顔一つせず彼は本を伏せてこちらを向いてくれる。
 何? と私の次の言葉を待つ彼。
 話題を考えず話しかけてしまった。
 取り繕う言葉を必死に探し、考えて咄嗟に出た言葉が。

「柳くんは、友達はいないんですか?」

 何て質問をしてしまったんだろう。
 愚かな自分を責めた。もしかしたら、どことなく自分を重ねてしまったのかもしれない。

「あ、いや! 別に興味があったとかそういうことじゃなくて!」
「小宮さんはどっちだと思う?」
「……私は、いる、と思ってます」

 図書室ここでは昼行燈ひるあんどんのような彼ではあるが、クラスでもそんな態度であるとは思えない。私が言うのもあれだけど、彼は容姿は悪くない。普通に接したとのであれば放っておく人間はいないだろう。
 人を惹きつける光がある。
 私も、もしかしたらその虫の一つなのかもしれない。

「一応、数は少ないけど友達と呼べる人はいるかな」
「そうですか……そうですよね」
「小宮さんは、どうなの?」

 逆に質問されてしまう。
 普通の会話で考えたら、この流れは至極当然だろう。
 もう少し、話題を考えるべきだったと後悔している。

「どう……思いますか?」
「僕はいると思ってる」
「根拠は、なんですか?」
「可愛いから」

 その世辞が今はつらい。
 今までそんな事を言った異性はおろか同姓にすらいない。
 聞くこともなければ、言われることもない。

「いません。一人も私には」

 明るい声で言った。
 それが辛いと思ったことはなかったし、今もそれでいいと思ってる。

「あれ? 一人も?」
「当たり前じゃないですか。友達がいるならこうしてこんなところにいますか?」
「いるよ、ここに」

 自分を指さす彼。

「柳君が特殊なだけです。なんでここにいるのか分からないですよ」
「違う、違う。そういう意味じゃなくて」
「? 何ですか?」
「友達。僕がいるじゃない。僕は小宮さんの事友達と思ってるよ」

 考えたこともなかった。

「……私と柳君は友達なんですかね?」
「僕は思ってるよ。小宮さんは思ってなかったの?」

 問いに対して小さく頷いた。
 友達を作れた試しなんてない。そもそも、友達はどうなったら友達なのか。
 その線引きが私には分からなかった。

「そっか、それじゃあ」

 柳君は体をこちらに向けて片手を胸に、片手を私に向けてくる。
 その姿勢はまるで、求愛する者のようにも見えた。

「小宮さん、僕と友達になってくれない?」
「えっ?」
「もちろん、小宮さんが良ければの話だけど」

 どう、返事をすれば良いか分からなかった。
 とりあえず、差し出された手の上に自分の手をそっと乗せる。

「はい……お願いします」

 恥ずかしかった。けど、喜ぶ彼の顔に私は救われた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...