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始まり

接触

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 仙人が出発して数時間が経過した頃、目的地にたどり着いた。そこは2階建てで駐車スペースがある和風の一軒家。                    

 表札には 暁月あかつき とある

 バイクに跨がったまま、2階のある部分を凝視する仙人。

(あそこか)

 確認した後、視線を駐車スペースに移す。車が駐まっているので、玄関横に駐め黒い鞄を持ちインターホンを押した。

『……どちら様ですか?』

 インターホン越しに聞こえる女性の声。

「初めまして。私は高身仙人と言います」

『どういったご用件でしょうか』

「単刀直入に言います。娘さんの件です」

『……そう言うことでしたら、結構です』

 うさんくさそうに感じている声が聞こえた。女性がインターホン切ろうとしていると

「今日の朝、健蔵さんから孫を助けてほしいと言われて来ました」

『……?!』

 インターホン越しに息をのむ音が聞こえる。

「いきなりこんな事を言われて、信じられないのも無理はないと思います。ですが、もう一刻の猶予も無いはずです」

『……』

「信じる信じないはお任せします。信じれないと言われるなら帰ります。でも、これが最後のチャンスです」

『……少し待って下さい』

 インターホンが切れ、暫くして玄関の扉が開く。40代とおぼしき女性が出てきた。顔を見ると疲弊しきった表情をしており、目の下にはうっすら隈が出来ている。

「どうぞ、お入りください」

 門扉の鍵を開けて仙人を家の中に招き入れた。

「お邪魔します」

 中に入ると60代頃と思われる女性が頭を下げてきた。先程の女性程ではないが、こちらも疲労がたまった顔をしている。

「初めまして、健蔵の妻の暁月登美子と申します」

「私は、浪江と言います」

「高身仙人です。」

「こんな所で、立ち話も何ですしどうぞお上がりください」

「ありがとうございます。お邪魔します」

 登美子に促され上がり、少し進んだ所にある部屋の扉の前で止まり扉越しに部屋を見る仙人。

「あの、どうかしました?」

 先程出迎えた浪江が不思議そうに聞くと

「いえ何でもありません。行きましょう」

 促して居間に案内される仙人。居間にある仏壇へ手を合わせている間に、お茶を用意して来た浪江。仙人が座ると、お茶を置き反対側に座ると早速、隣の登美子が切り出した。

「それで、主人に助けてほしいと言われたそうですが、その、主人は……」

「驚かれるのも無理はないと思います。ご主人は既にお亡くなりになられてますよね」

 言うと、2人同時に驚いた顔になり

「そうです。主人は既に亡くなっているのに、今日の朝話しをしたと言われて、何が何だか分からない状態なんです」

「私が話しを聞いたのは“夢”の中です。そこで、姉妹のお孫さんで妹さんを助けてくれと言われました」

 夢の中と言われますます訳が分からない表情になりお互いの顔を見る2人

「余り時間がありませんので、手短に説明させて頂きます」

 まず、自身に霊力が備わっていること、霊力の1つに夢で視る察知能力がある。ただ、夢に出て来これるのは“亡くなった者”だけであり、今回は祖父である健蔵が出て伝えてきたと。後は、お祓い等も出来ることも全て話した。
 黙って話しを聞いていた浪江は、徐に立ち上がり部屋の隅に置いていた、壺や御札を持ってきて仙人の前に並べた。

「この壺やお札をみて何か感じますか?」

 聞かれた仙人は、見て直ぐに答えた。

「まず、この壺や水晶それと絵には何も力はありません。こちらの、御札は神社やお寺から授かったものですね。力はありますが、祓い除けるだけの力はありません」

 言われてがっくりと肩を落とす2人。

「何てこと、御札はまだ良いとしても、やはり壺等は詐欺だったのね。ごめんなさい浪江さん」

「お義母さん謝らないで下さい。私達も信じていたんですから。でも、一向に良くならないから、もしやと思っていたんですが……そんな」

  2人の話しを聞いて、藁にもすがる思いだったんだと、感じる仙人。一瞬目を閉じ軽く呼吸を整えて、目を開くと同時に2人を見て

「それで、どうしますか。私なら娘さんの除霊を出来ると思います。」

 2人は顔を見合わせる。それぞれ決意をした表情になり、ゆっくり頷いて浪江が

「お願いします。どうか、娘を助けて下さい」

 登美子と一緒に頭を下げた。

「分かりました。ただ、除霊が始まったら何が起こるか分かりません。廻りに被害がでる時もあれば、無いときもあります。ですが、1つ言えることはあります」

「それは、何ですか」

「除霊が始まったら、娘さんに憑いている者が祓われまいと、娘さんの声色を使って止めさせようとしてきます。それは、決して娘さんが言ってはいないので騙されないで下さい。
私が、いいと言うまでは、娘さんに憑いている者が言っていると思って下さい」

 頷く2人。力強く頷き返した仙人は、立ち上がり

「すみませんが、一緒に用意して頂きたい物があります」

「用意……ですか。いったいなにを用意するのでしょうか」

「そんな難しい物ではありません。塩と水が入ったコップと薬缶それと洗面器です」

「えっと、それは、お祓いに使うものですか」

 何とも言えない表情で聞く浪江。

「はい、そうです。もっと仰々しいことを、想像されていたかもしれませんが、まずは、それらを使います。私を信じて下さい。後々、納得もされると思います」

 2人を真っ直ぐ見て言う仙人。言い終わり安心させる笑みを浮かべた。何とも言えない、表情をしていた浪江は登美子の顔を見て、静かに頷く。

「分かりました。台所に案内します。洗面器は浪江さんお願いね」

「はい、取って来ますね」

 登美子の案内の元、台所に向かいコップ等の用意をする仙人。用意が終わる頃、浪江が水を入れた洗面器とビデオカメラを持って、台所にきた。

「そのビデオカメラは?」
 
 ビデオカメラに視線を向ける仙人。すると、気まずそうな表情になり

「えっと、これは、主人と娘にこれから起きる事を説明する為です。それと、言いにくいのですが、前に来た人がお祓いと称して娘に、その……」

 言い淀む浪江の、伝えたいことが分かった仙人は

「分かりました。確かに、撮影された方が伝えやすいと思います。それと、祓う為に最低限、娘さんに触る必要があるかもしれません。その時は、許可を取ってからになりますが、構いませんか?」

 真剣な表情で言う仙人に

「ありがとうございます。分かりました。それでは、こちらです」

 頷きながらお礼を言う浪江。案内しようとすると仙人が

「場所はこの真上の部屋ですね」

 右手の人差し指で上を指す仙人。驚いてお互いの顔を見合わす浪江と登美子。

「部屋はお伝えしていないのに、それも夢で聞いたのでしょうか」

「聞いてはいません。だが、これだけ発していれば、嫌でも分かる」

 静かに上を見る仙人。その横顔を見る浪江は、不思議な言葉に出来ない何かを感じた。今までと違い今度こそ娘は助かると思えた。

 




 



 


 


 








 
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