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初恋との再会
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高輪瑛士と再会してから一週間が経った。
新幹線では同じ駅で下車した。立ち去る際、じゃあね、と目配せしてきた彼とはそれっきりになった。
以前にもまして、彼のことを考える日は増えていた。
しかし、次はいつ会えるかもわからない過去の恋人のことを思う時間は、やはり学生時代とは比べものにならないほど、なかった。
淡い初恋は淡いままだ。
きっとそれでいいんだと思う。
ほんの少しの時間、瑛士の彼女でいられた。
けんか別れしたわけでもない。彼を嫌いになったわけでもない。
大学生だった彼と、高校生だった私には、すれ違う時間が多かった。ただそれだけのことだった。
むしろ、わだかまりもなく気さくに話しかけてくれた瑛士に感謝したらいいんだろう。
もうあの頃の恋は終わってるんだよ。
再会を機に、彼はそれを教えてくれた。
「花野井せんぱーいっ」
オフィスから地下鉄に向かう途中、声をかけられた。息を切らして駆けてきたのは、後輩の遠坂くんだ。
珍しい。彼が追いかけてくるなんて。
「遠坂くん、帰るの? 飲み会に誘われてなかった?」
オフィスを出る時、遠坂くんの同期が、「同期集めて飲みに行こうぜ」なんて話していたことを目撃していた。
「なーんで、珍しく残業しない先輩差し置いて、あいつらと飲みに行かなきゃなんないんですかー」
「私が残業しないのと、どんな関係があるの」
「大ありです。今日は金曜日ですよ。先輩、このあと用事あります?」
一瞬、眉をひそめてしまう。
社内恋愛には興味なくて、今までも男性とふたりきりで飲みに行くようなことはさけてきた。
恋愛に発展するとかしないとか、そういうことを差し引いても、誤解を招くような行為には気をつけてきたのだ。
「あー、そんな顔しないでくださいよー」
「ごめんね。今日はちょっと」
やんわり断って、そっと笑んでみせる。
遠坂くんは、わりと繊細だ。それだけで察してくれる。私に用事がないことも、彼に興味がないと伝えたことも。
「じゃあ、また今度誘います」
めげないところも彼らしい。私に好意があるなんて、正直なところわからないけど、それなりに慕ってくれていることはわかる。
うん、とあいまいにうなずいて、遠坂くんに手をふった。彼もまた、同期の誘いを保留にしていたのか、来た道を戻っていった。
遠坂くんの背中が人波の中に消えた頃、すれ違うようにして、その人波から見知った青年が現れた。
私はとっさに、かかとで地面を蹴った。
逃げようとした、というのが正しいかもしれない。
どうしてだろう。
好きな人を見つけると、どうしてこんなにも逃げ出したくなるんだろう。
「花野井さんっ」
不自然な動きをしてしまい、余計に目立ったのだろうか。
おそるおそる振り返ると、見知った青年はすぐ目の前に来ていた。あいかわらずのさわやかさで、私を見下ろしている。
「久しぶりって言っていいのかな」
「一週間ぶりですね」
そう答えると、瑛士はにこりとだけした。
「また会えるなんて思ってませんでした」
まるで会いたいと思ってたみたいな言い方になってしまって恥ずかしい。
ほかにかける言葉が見つからなくて口をつぐんでいると、瑛士が思いもよらないことを言う。
「勤務先聞いてたから、会えると思ってたよ。っていうか、俺の会社とオフィス近いし、会えるかなって半分待ち伏せしてた」
「待ち伏せ……って」
オフィスが近いのにも驚いたが、何より私を探していたことに驚いて、言葉がつまる。
そうだった。彼は学生時代から、少しばかり強引なところがあった。リーダーシップのある人に見えて、そういう強さが好きでもあった。
さらに、瑛士はマイペースにこう言った。
「念願叶って、今日は会えた。これから飲みに行かないか。花野井さんに久しぶりに会ってから、ゆっくり話したいなってずっと思ってたんだ」
高輪瑛士と再会してから一週間が経った。
新幹線では同じ駅で下車した。立ち去る際、じゃあね、と目配せしてきた彼とはそれっきりになった。
以前にもまして、彼のことを考える日は増えていた。
しかし、次はいつ会えるかもわからない過去の恋人のことを思う時間は、やはり学生時代とは比べものにならないほど、なかった。
淡い初恋は淡いままだ。
きっとそれでいいんだと思う。
ほんの少しの時間、瑛士の彼女でいられた。
けんか別れしたわけでもない。彼を嫌いになったわけでもない。
大学生だった彼と、高校生だった私には、すれ違う時間が多かった。ただそれだけのことだった。
むしろ、わだかまりもなく気さくに話しかけてくれた瑛士に感謝したらいいんだろう。
もうあの頃の恋は終わってるんだよ。
再会を機に、彼はそれを教えてくれた。
「花野井せんぱーいっ」
オフィスから地下鉄に向かう途中、声をかけられた。息を切らして駆けてきたのは、後輩の遠坂くんだ。
珍しい。彼が追いかけてくるなんて。
「遠坂くん、帰るの? 飲み会に誘われてなかった?」
オフィスを出る時、遠坂くんの同期が、「同期集めて飲みに行こうぜ」なんて話していたことを目撃していた。
「なーんで、珍しく残業しない先輩差し置いて、あいつらと飲みに行かなきゃなんないんですかー」
「私が残業しないのと、どんな関係があるの」
「大ありです。今日は金曜日ですよ。先輩、このあと用事あります?」
一瞬、眉をひそめてしまう。
社内恋愛には興味なくて、今までも男性とふたりきりで飲みに行くようなことはさけてきた。
恋愛に発展するとかしないとか、そういうことを差し引いても、誤解を招くような行為には気をつけてきたのだ。
「あー、そんな顔しないでくださいよー」
「ごめんね。今日はちょっと」
やんわり断って、そっと笑んでみせる。
遠坂くんは、わりと繊細だ。それだけで察してくれる。私に用事がないことも、彼に興味がないと伝えたことも。
「じゃあ、また今度誘います」
めげないところも彼らしい。私に好意があるなんて、正直なところわからないけど、それなりに慕ってくれていることはわかる。
うん、とあいまいにうなずいて、遠坂くんに手をふった。彼もまた、同期の誘いを保留にしていたのか、来た道を戻っていった。
遠坂くんの背中が人波の中に消えた頃、すれ違うようにして、その人波から見知った青年が現れた。
私はとっさに、かかとで地面を蹴った。
逃げようとした、というのが正しいかもしれない。
どうしてだろう。
好きな人を見つけると、どうしてこんなにも逃げ出したくなるんだろう。
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おそるおそる振り返ると、見知った青年はすぐ目の前に来ていた。あいかわらずのさわやかさで、私を見下ろしている。
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ほかにかける言葉が見つからなくて口をつぐんでいると、瑛士が思いもよらないことを言う。
「勤務先聞いてたから、会えると思ってたよ。っていうか、俺の会社とオフィス近いし、会えるかなって半分待ち伏せしてた」
「待ち伏せ……って」
オフィスが近いのにも驚いたが、何より私を探していたことに驚いて、言葉がつまる。
そうだった。彼は学生時代から、少しばかり強引なところがあった。リーダーシップのある人に見えて、そういう強さが好きでもあった。
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