2 / 29
初恋との再会
2
しおりを挟む
***
高輪瑛士と再会してから一週間が経った。
新幹線では同じ駅で下車した。立ち去る際、じゃあね、と目配せしてきた彼とはそれっきりになった。
以前にもまして、彼のことを考える日は増えていた。
しかし、次はいつ会えるかもわからない過去の恋人のことを思う時間は、やはり学生時代とは比べものにならないほど、なかった。
淡い初恋は淡いままだ。
きっとそれでいいんだと思う。
ほんの少しの時間、瑛士の彼女でいられた。
けんか別れしたわけでもない。彼を嫌いになったわけでもない。
大学生だった彼と、高校生だった私には、すれ違う時間が多かった。ただそれだけのことだった。
むしろ、わだかまりもなく気さくに話しかけてくれた瑛士に感謝したらいいんだろう。
もうあの頃の恋は終わってるんだよ。
再会を機に、彼はそれを教えてくれた。
「花野井せんぱーいっ」
オフィスから地下鉄に向かう途中、声をかけられた。息を切らして駆けてきたのは、後輩の遠坂くんだ。
珍しい。彼が追いかけてくるなんて。
「遠坂くん、帰るの? 飲み会に誘われてなかった?」
オフィスを出る時、遠坂くんの同期が、「同期集めて飲みに行こうぜ」なんて話していたことを目撃していた。
「なーんで、珍しく残業しない先輩差し置いて、あいつらと飲みに行かなきゃなんないんですかー」
「私が残業しないのと、どんな関係があるの」
「大ありです。今日は金曜日ですよ。先輩、このあと用事あります?」
一瞬、眉をひそめてしまう。
社内恋愛には興味なくて、今までも男性とふたりきりで飲みに行くようなことはさけてきた。
恋愛に発展するとかしないとか、そういうことを差し引いても、誤解を招くような行為には気をつけてきたのだ。
「あー、そんな顔しないでくださいよー」
「ごめんね。今日はちょっと」
やんわり断って、そっと笑んでみせる。
遠坂くんは、わりと繊細だ。それだけで察してくれる。私に用事がないことも、彼に興味がないと伝えたことも。
「じゃあ、また今度誘います」
めげないところも彼らしい。私に好意があるなんて、正直なところわからないけど、それなりに慕ってくれていることはわかる。
うん、とあいまいにうなずいて、遠坂くんに手をふった。彼もまた、同期の誘いを保留にしていたのか、来た道を戻っていった。
遠坂くんの背中が人波の中に消えた頃、すれ違うようにして、その人波から見知った青年が現れた。
私はとっさに、かかとで地面を蹴った。
逃げようとした、というのが正しいかもしれない。
どうしてだろう。
好きな人を見つけると、どうしてこんなにも逃げ出したくなるんだろう。
「花野井さんっ」
不自然な動きをしてしまい、余計に目立ったのだろうか。
おそるおそる振り返ると、見知った青年はすぐ目の前に来ていた。あいかわらずのさわやかさで、私を見下ろしている。
「久しぶりって言っていいのかな」
「一週間ぶりですね」
そう答えると、瑛士はにこりとだけした。
「また会えるなんて思ってませんでした」
まるで会いたいと思ってたみたいな言い方になってしまって恥ずかしい。
ほかにかける言葉が見つからなくて口をつぐんでいると、瑛士が思いもよらないことを言う。
「勤務先聞いてたから、会えると思ってたよ。っていうか、俺の会社とオフィス近いし、会えるかなって半分待ち伏せしてた」
「待ち伏せ……って」
オフィスが近いのにも驚いたが、何より私を探していたことに驚いて、言葉がつまる。
そうだった。彼は学生時代から、少しばかり強引なところがあった。リーダーシップのある人に見えて、そういう強さが好きでもあった。
さらに、瑛士はマイペースにこう言った。
「念願叶って、今日は会えた。これから飲みに行かないか。花野井さんに久しぶりに会ってから、ゆっくり話したいなってずっと思ってたんだ」
高輪瑛士と再会してから一週間が経った。
新幹線では同じ駅で下車した。立ち去る際、じゃあね、と目配せしてきた彼とはそれっきりになった。
以前にもまして、彼のことを考える日は増えていた。
しかし、次はいつ会えるかもわからない過去の恋人のことを思う時間は、やはり学生時代とは比べものにならないほど、なかった。
淡い初恋は淡いままだ。
きっとそれでいいんだと思う。
ほんの少しの時間、瑛士の彼女でいられた。
けんか別れしたわけでもない。彼を嫌いになったわけでもない。
大学生だった彼と、高校生だった私には、すれ違う時間が多かった。ただそれだけのことだった。
むしろ、わだかまりもなく気さくに話しかけてくれた瑛士に感謝したらいいんだろう。
もうあの頃の恋は終わってるんだよ。
再会を機に、彼はそれを教えてくれた。
「花野井せんぱーいっ」
オフィスから地下鉄に向かう途中、声をかけられた。息を切らして駆けてきたのは、後輩の遠坂くんだ。
珍しい。彼が追いかけてくるなんて。
「遠坂くん、帰るの? 飲み会に誘われてなかった?」
オフィスを出る時、遠坂くんの同期が、「同期集めて飲みに行こうぜ」なんて話していたことを目撃していた。
「なーんで、珍しく残業しない先輩差し置いて、あいつらと飲みに行かなきゃなんないんですかー」
「私が残業しないのと、どんな関係があるの」
「大ありです。今日は金曜日ですよ。先輩、このあと用事あります?」
一瞬、眉をひそめてしまう。
社内恋愛には興味なくて、今までも男性とふたりきりで飲みに行くようなことはさけてきた。
恋愛に発展するとかしないとか、そういうことを差し引いても、誤解を招くような行為には気をつけてきたのだ。
「あー、そんな顔しないでくださいよー」
「ごめんね。今日はちょっと」
やんわり断って、そっと笑んでみせる。
遠坂くんは、わりと繊細だ。それだけで察してくれる。私に用事がないことも、彼に興味がないと伝えたことも。
「じゃあ、また今度誘います」
めげないところも彼らしい。私に好意があるなんて、正直なところわからないけど、それなりに慕ってくれていることはわかる。
うん、とあいまいにうなずいて、遠坂くんに手をふった。彼もまた、同期の誘いを保留にしていたのか、来た道を戻っていった。
遠坂くんの背中が人波の中に消えた頃、すれ違うようにして、その人波から見知った青年が現れた。
私はとっさに、かかとで地面を蹴った。
逃げようとした、というのが正しいかもしれない。
どうしてだろう。
好きな人を見つけると、どうしてこんなにも逃げ出したくなるんだろう。
「花野井さんっ」
不自然な動きをしてしまい、余計に目立ったのだろうか。
おそるおそる振り返ると、見知った青年はすぐ目の前に来ていた。あいかわらずのさわやかさで、私を見下ろしている。
「久しぶりって言っていいのかな」
「一週間ぶりですね」
そう答えると、瑛士はにこりとだけした。
「また会えるなんて思ってませんでした」
まるで会いたいと思ってたみたいな言い方になってしまって恥ずかしい。
ほかにかける言葉が見つからなくて口をつぐんでいると、瑛士が思いもよらないことを言う。
「勤務先聞いてたから、会えると思ってたよ。っていうか、俺の会社とオフィス近いし、会えるかなって半分待ち伏せしてた」
「待ち伏せ……って」
オフィスが近いのにも驚いたが、何より私を探していたことに驚いて、言葉がつまる。
そうだった。彼は学生時代から、少しばかり強引なところがあった。リーダーシップのある人に見えて、そういう強さが好きでもあった。
さらに、瑛士はマイペースにこう言った。
「念願叶って、今日は会えた。これから飲みに行かないか。花野井さんに久しぶりに会ってから、ゆっくり話したいなってずっと思ってたんだ」
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる