あの日から恋してますか?

水城ひさぎ

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どうして別れたんですか?

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「先輩っ、今日も『たちばな』のお弁当ですか?」

 休憩室の一角で、いつものようにひとりでお弁当を食べていると、遠坂くんが姿を見せた。

「前、空いてますよね?」

 と、私の向かいに彼は座り、お弁当を広げる。私と同じハンバーグ弁当。彼もまた、3日連続、たちばなのお弁当のようだ。

「遠坂くん、ひとり?」

 辺りを見回す。彼が仲良くしている同僚は、別の場所で食事をしている。

「まあ、察してくれるんで」

 彼はさらりとそう言って、私のお弁当に視線を移す。

「珍しいですね。いつも手作り弁当なのに」
「今日は作ってこようと思ったんだけど」
「あっ、もしかして俺のせいですか?」

 そうなの、と簡単に肯定できなくて、あいまいな笑みを浮かべる。すると、何を思ったのか、遠坂くんは申し訳なさそうにする。

「連日、書類のチェックしてもらってすみません。やっぱりなんか俺、花野井先輩のやり方が好きっていうか。それで、つい」
「そうじゃなくて、遠坂くん」

 頭を下げる彼に戸惑いながら、言おうかどうか迷って口をつぐむ。

「何がですか?」

 はっきりしないことが嫌いな彼は、私の気も知らないで、あっさりと尋ねてくる。

「何がって……」
「先輩?」

 いつもは察しのいい彼だが、こういうことには気が回らないのかもしれない。
 首をかしげる彼にだけ聞こえる程度の、小さな声で言う。

「今夜は遅くなりそうだから、お弁当箱洗わなくてもいいようにって思って」

 一瞬意味がわからないとばかりに遠坂くんはきょとんとしたが、私のほおが赤らんでいくのを見るや否や、彼もサッとほおを赤らめた。

「変な意味じゃないの。たまには飲みに行ってもいいかなって思っただけなの」
「変な意味でもいいです。……っていうか、マジですか。てっきり断られると思ってたんで、なんか、嬉しいな。マジかー」

 小さな声でぶつぶつつぶやく遠坂くんを見ていると、そんなことで喜んでくれる人がいるんだって、冷静になる私がいることに気づく。まるで、自分のことではないようだ。

「よしっ。残業にならないように頑張りますね、先輩」
「うん、頑張って」

 そう応援することで、彼とのデートを心待ちにしてると思ってるかのように誤解を与えたなんて気づきもしない。
 ただ素直に、笑顔を見せる頑張り屋の遠坂くんを応援したくなったのだ。

「マジで頑張ります」

 改めて気合いを入れる彼は、うなずく私を見て、照れくさそうに笑った。
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