あの日から恋してますか?

水城ひさぎ

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ずっと君に恋してる

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***


 公園のベンチで、お弁当を広げる。
 このところ、遠坂くんと顔を合わせづらくて、ここでひとりランチしてる。

 だけど、いつまでも彼をさけてるわけにはいかない。さけてることも、きっと彼なら察してる。

「昼間からなんて顔してるのー?」
「先輩……」

 ひょこっと顔を出したのは、田畑奈津美先輩。

「となり、いい?」
「はい」

 先輩はとなりへ腰を下ろすと、コンビニで購入したサンドイッチとコーヒーをひざの上に広げる。

「あ、今日もお弁当じゃないんだーって思った?」
「そんなこと思ってないです。お弁当作るのも大変ですよね」
「だんながねー、仕事休みの日は作らないことにしてるの。お互いに好きなもの食べましょって」

 奈津美先輩のご主人は平日休みが多いと聞いてる。すれ違いの生活だけど、極力子どもを保育園に預けなくていいからちょうどいいんだと言っていた。

「育児と仕事の両立は大変ですよね」
「うん、もうカラダぼろぼろ。復帰したばっかりで慣れないのもあるんだろうけど。仕事は好きだし、やめたくないなーって思うんだけどね、いつまで続くかなって思ってる」
「だんな様はなんて?」
「できる限り、子育ては分担していこうって。どちらかが仕事やめるとしたら、どうしても私になっちゃうけどね」
「そうですよね……」

 私もきっと、結婚して、子どもをもつことができたら、先輩と同じように悩む日が来るだろう。

 瑛士がダメだから遠坂くんと付き合うなんて、安易に選んだらいけないとは思う。
 だけど、遠坂くん以上の男性に今後出会える可能性なんてあるのかなって思ってもいる。

「つぐみちゃんは結婚したい?」
「それがよくわからなくて」

 結婚への憧れがあるのは確かだけど、いざ結婚となると、足踏みしてしまう。

「遠坂くん、すごく考えてるみたいよ」
「え?」
「遠坂くん見てればわかるわよ、つぐみちゃんのこと大好きよね」
「……付き合ってほしいとは言ってくれたんですけど、結局返事をしないままで」

 逃げてる。遠坂くんからずっと、不誠実なぐらい逃げてる。
 何もしないことで、私は彼に甘えてる。

「24歳で、あんなにしっかり将来のこと考えてる子、そうそういないんじゃない? つぐみちゃんが何か悩んでることあるなら、彼にぶつけてみたら?」
「わかってるんです。だから、ちゃんとけじめをつけなきゃって思ったのに、全然だめで……」

 瑛士と、キスをした。
 彼のことは忘れようと思って。あきらめようと思って。

 それなのに、全然ダメだった。
 前よりももっと、瑛士を想うようになった。

 キスをしてくれたから、もしかしたら、瑛士が私を好きになってくれるかもしれないって、期待までしてしまった。

「好きな人でもいるの?」
「お付き合いしたい人はいるんです。でも、全然振り向いてくれなくて」
「そっか。ステキな人よね?」
「同業なんです。だから抵抗があって。今でも大丈夫かなって気になるんですけど、それ以上に彼を諦めたくないって思うようになって」

 すんなりと胸のうちを吐き出した。私の悩みなんて、本当はちっぽけなもの。

「同業なの? 社内恋愛も悩んじゃうつぐみちゃんなら、考えちゃうわけよね。同業でも、悪くないと思うけどなー。悩みは共有できるし、話しちゃいけないことはわかるだろうから、お互いに聞かないだろうしね」
「そうですね。ほんとにそう……」

 瑛士が私の仕事に口出しすることは絶対ないだろう。むしろ、いいアドバイスをくれると思う。
 お互いの時間を大切にできるなら、良きパートナーになれる気もする。

 でもそれは、すべて願望。
 瑛士が、私のことなんて必要としてないのが現実なのだ。

「忘れられたらいいんですけど」

 それが一番簡単だろう。
 瑛士を忘れて、遠坂くんの胸に飛び込めばいい。

「簡単そうで簡単じゃないわよね、人の心って」
「遠坂くんに、相談してみます」

 自分でも本心かわからない言葉が口をついて出た。それでも、奈津美先輩は、それでいいんだって背中を押すように優しく笑む。

「彼、悪い子じゃないと思うわ」
「私も、それはわかってるつもりです」
「そうよね。つぐみちゃんの方が長い付き合いなんだもの。わかってるわよね。わかってるから、悩んでるんだものね」

 おせっかいしてごめんねって、奈津美先輩はそっと笑って、私の肩に腕を回す。

「つぐみちゃん、幸せになってね。私からはそれだけ」
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