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ずっと君に恋してる
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気づいたら、足が向いていた。
もしかしたら瑛士に会えるかも、なんて思って、無意識にビルの前にいる。
瑛士に連れてきてもらったバーが入るそのビルは、今日もおしゃれな佇まいで、来客を受け入れている。
それでも中に入る勇気まではなくて、すぐにその場を離れようとした。
すると、目の前に人影が立ち塞がる。
瑛士?と思って顔を上げたら、心配そうに私を見下ろす見慣れた青年がいた。
「遠坂くん……」
「先輩の姿が見えたんで、追いかけてきました」
すみません、と頭を下げた彼は、そのまま上げた顔をビルへ向けた。
「そこのバー、入りたかったんですか? 行きます?」
「ううん。ちょっと見てただけ。ファミレスで、お茶でも飲む?」
「いいですね。そうしましょう」
お酒が入らない方がいいと思ってくれた遠坂くんは、すぐに私の提案に賛成してくれた。
会社から遠いファミレスを検索しようとスマホを取り出す彼に、私は近くでいいのだと言った。
同僚に誤解されても、それが真実となるならそれでいい。そんな思いもあった。
地下鉄の駅近くにあるファミレスに、私たちは向かった。
数回、こうして遠坂くんと肩を並べて歩いたことがあるだけなのに、馴れ親しみを感じるようになっている。
違和感のないことを、どう受け止め、どう考えたらいいのだろうと思う。その答えを、遠坂くんなら一緒に考えてくれる。そう思った。
ファミレスに入り、禁煙席に案内された私はドリアを、彼はステーキを注文した。
料理が届くまでの間、私たちはなんとなく沈黙していた。
重苦しい沈黙ではない。仕事の疲れを分かち合うような、居心地のいい沈黙。
結婚は大変かもしれないけど、結婚できたら幸せだろう。毎日こうやって、癒される時間を持てるのだから。
「今日も疲れましたね。なんか部長、俺のことこき使ってません?」
ステーキにナイフを入れながら、遠坂くんはぼやく。
「期待してるんじゃない?」
「そうだといいんですけどね。それにしても仕事回しすぎです」
「どっちかというと、既婚者ははやく帰してくれる会社だものね」
「長い目で見たら、いい会社なんですけどねー。最近疲れがたまってます」
うーん、と伸びをする彼は、疲労の浮かぶ顔に笑顔を浮かべる。
「家に帰って、好きな人が待っててくれたら、こんな疲れ、なんともないんですけどね」
「そういうの、いいなって私も思う」
「やっぱり結婚っていいですよね」
「遠坂くんは若いから、彼女がいるだけでも違うと思うわ」
「彼女になってほしい女性がなかなか、うんって言ってくれないから、困ってます」
そう言って、彼は照れくさそうにステーキを頬張る。
「遠坂くんと結婚したら、幸せになれると思うの」
「先輩……」
私は伏し目がちになって、手の中のスプーンをぎゅっと握った。
「仕事もできて、面白くって。見た目だって悪くないし。最高の結婚相手だと思う」
「べた褒めじゃないですか」
目を丸くしながらも、うれしそうにする彼を、勇気を出して見つめる。
「遠坂くんがどれほど素晴らしいか、わかってるの」
ため息をつくように言う。だんだん焦点が合わなくなる。
心配そうに私を見つめる彼を、やはり直視できない。
「わかってるのに……。みんな、遠坂くんと結婚した方が幸せになれるって、言ってくれてるのに」
「先輩」
震える手を、遠坂くんは優しく握ってくれる。
「わかってるのにね、どんなアドバイスにもそぐわない人が好きなの」
「そんなに好きなんですね」
うんって、力なくうなずく。
「彼を好きでいることが幸せだって思って。無理にあきらめたりしたら、幸せが消えちゃう」
瑛士がいたから頑張れたことはたくさんあった。彼のおかげで今の私がある。
これからの私も、彼のために頑張れる。そんなこともあるんじゃないかって思う。
「彼が結婚するまでは、好きでいたいなって思うの」
「その人、先輩をふってくれないんですか?」
「ダメだよって何度も言ってる」
「ダメな理由があるってことですか?」
「ダメな理由は教えてくれないの」
不可解そうにする遠坂くんは、ようやく私の手を離すと、小さくため息をついた。
「俺には無責任に感じます」
「そう、よね」
だから、瑛士はキスができた。
私のこと、本気で考えてくれてるなら、あのキスは拒むべきだった。
無責任に抱けないと言った彼にとって、キスなんて大したことないからできただけなのに。
「おかしいでしょう。そんな人なのに、好きでいるなんて」
「それが、恋ですよね」
「遠坂くん……」
「好きでたまらない人がいる先輩を、あきらめもしないで好きでいる俺も、おかしいですよね。でも、好きだから仕方ないんです」
そこに理屈はない。
私たちはどこか似ていて、どこか不器用で。
「ふられてきてください、先輩」
「もう何度も……」
「はっきり、ふられてきてください。最初で最後のお願いです」
気づいたら、足が向いていた。
もしかしたら瑛士に会えるかも、なんて思って、無意識にビルの前にいる。
瑛士に連れてきてもらったバーが入るそのビルは、今日もおしゃれな佇まいで、来客を受け入れている。
それでも中に入る勇気まではなくて、すぐにその場を離れようとした。
すると、目の前に人影が立ち塞がる。
瑛士?と思って顔を上げたら、心配そうに私を見下ろす見慣れた青年がいた。
「遠坂くん……」
「先輩の姿が見えたんで、追いかけてきました」
すみません、と頭を下げた彼は、そのまま上げた顔をビルへ向けた。
「そこのバー、入りたかったんですか? 行きます?」
「ううん。ちょっと見てただけ。ファミレスで、お茶でも飲む?」
「いいですね。そうしましょう」
お酒が入らない方がいいと思ってくれた遠坂くんは、すぐに私の提案に賛成してくれた。
会社から遠いファミレスを検索しようとスマホを取り出す彼に、私は近くでいいのだと言った。
同僚に誤解されても、それが真実となるならそれでいい。そんな思いもあった。
地下鉄の駅近くにあるファミレスに、私たちは向かった。
数回、こうして遠坂くんと肩を並べて歩いたことがあるだけなのに、馴れ親しみを感じるようになっている。
違和感のないことを、どう受け止め、どう考えたらいいのだろうと思う。その答えを、遠坂くんなら一緒に考えてくれる。そう思った。
ファミレスに入り、禁煙席に案内された私はドリアを、彼はステーキを注文した。
料理が届くまでの間、私たちはなんとなく沈黙していた。
重苦しい沈黙ではない。仕事の疲れを分かち合うような、居心地のいい沈黙。
結婚は大変かもしれないけど、結婚できたら幸せだろう。毎日こうやって、癒される時間を持てるのだから。
「今日も疲れましたね。なんか部長、俺のことこき使ってません?」
ステーキにナイフを入れながら、遠坂くんはぼやく。
「期待してるんじゃない?」
「そうだといいんですけどね。それにしても仕事回しすぎです」
「どっちかというと、既婚者ははやく帰してくれる会社だものね」
「長い目で見たら、いい会社なんですけどねー。最近疲れがたまってます」
うーん、と伸びをする彼は、疲労の浮かぶ顔に笑顔を浮かべる。
「家に帰って、好きな人が待っててくれたら、こんな疲れ、なんともないんですけどね」
「そういうの、いいなって私も思う」
「やっぱり結婚っていいですよね」
「遠坂くんは若いから、彼女がいるだけでも違うと思うわ」
「彼女になってほしい女性がなかなか、うんって言ってくれないから、困ってます」
そう言って、彼は照れくさそうにステーキを頬張る。
「遠坂くんと結婚したら、幸せになれると思うの」
「先輩……」
私は伏し目がちになって、手の中のスプーンをぎゅっと握った。
「仕事もできて、面白くって。見た目だって悪くないし。最高の結婚相手だと思う」
「べた褒めじゃないですか」
目を丸くしながらも、うれしそうにする彼を、勇気を出して見つめる。
「遠坂くんがどれほど素晴らしいか、わかってるの」
ため息をつくように言う。だんだん焦点が合わなくなる。
心配そうに私を見つめる彼を、やはり直視できない。
「わかってるのに……。みんな、遠坂くんと結婚した方が幸せになれるって、言ってくれてるのに」
「先輩」
震える手を、遠坂くんは優しく握ってくれる。
「わかってるのにね、どんなアドバイスにもそぐわない人が好きなの」
「そんなに好きなんですね」
うんって、力なくうなずく。
「彼を好きでいることが幸せだって思って。無理にあきらめたりしたら、幸せが消えちゃう」
瑛士がいたから頑張れたことはたくさんあった。彼のおかげで今の私がある。
これからの私も、彼のために頑張れる。そんなこともあるんじゃないかって思う。
「彼が結婚するまでは、好きでいたいなって思うの」
「その人、先輩をふってくれないんですか?」
「ダメだよって何度も言ってる」
「ダメな理由があるってことですか?」
「ダメな理由は教えてくれないの」
不可解そうにする遠坂くんは、ようやく私の手を離すと、小さくため息をついた。
「俺には無責任に感じます」
「そう、よね」
だから、瑛士はキスができた。
私のこと、本気で考えてくれてるなら、あのキスは拒むべきだった。
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「おかしいでしょう。そんな人なのに、好きでいるなんて」
「それが、恋ですよね」
「遠坂くん……」
「好きでたまらない人がいる先輩を、あきらめもしないで好きでいる俺も、おかしいですよね。でも、好きだから仕方ないんです」
そこに理屈はない。
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「もう何度も……」
「はっきり、ふられてきてください。最初で最後のお願いです」
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