あの日から恋してますか?

水城ひさぎ

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ずっと君に恋してる

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***


 その人の話をするとき、花野井先輩はいつも悲しそうだ。
 思いを告げても振り向かない彼を好きだという彼女は、それに気づいていないのだろうか。

 苦しい恋なんてやめてしまえばいいのに。本当に苦しい恋ならば。

 しゃれた看板のぶら下がる、黒塗りの扉を開ける。

「いらっしゃいませ」

 落ち着いた渋い声に迎えられ、薄暗い店内を進み、ソファー席へ座る。

「昨日と同じものを」
「かしこまりました」

 年の頃は50代だろうか。白髪混じりのマスターは、すぐにカクテルを作り始める。

 しばらくすると、店内に客が現れた。
 背の高い、ひどく整った顔をした若い男だ。
 マスターは「いらっしゃい」と、気安く男に声をかける。

「おすすめで」

 男はそう言うと、俺の後ろのカウンターに腰かけた。

「お待たせしました。ブランデーホーセズネックでございます」

 マスターが、らせんに剥かれたレモンの沈むカクテルを運んでくる。
 昨日も飲んだ。
 その前の日も。
 マスターの記憶に残るように、いつも同じカクテルを注文した。

 マスターの作るカクテルはとても美味しい。だけど、飲むのは今日で最後になるだろう。

「ありがとう。やっと会えた」

 そう言うと、マスターは目を細めて一礼し、立ち去る。

 ソファーにもたれ、グラスを傾けると同時に、後ろから低い男の声が聞こえてくる。

「やっぱりダメだったよ」
「意外と、臆病ですね」
「意外とは余分だよ。臆病だったことは、知ってるでしょう」
「言われてみれば、そうかもしれません」

 マスターと男が同時に、静かに笑う。
 
「何度もダメだって言ったんだけどね。それなのに、好きだって言ってくれるんだよ。おかしいよね」
「理屈じゃないのでしょう」
「そうだね。わかるよ」
「高輪さんも、同じ気持ちなのでしょう」

 男は少し沈黙する。そして、小さな息を吐き出す。

「どうだろうね」

 俺は振り返る。
 憂えた男の横顔は、何度見ても綺麗に整っている。男でさえ惚れてしまいそうなほどのイケメンだ。

 憎らしいまでに美しい男の背中に、声をかけずにはいられなかった。

「そうやって、ずっとはぐらかして来たんですか」
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