砂色のステラ

水城ひさぎ

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セシェ島編

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 真っ白な布に包まれて、レオナは寝椅子へ連れていかれた。セリオスは優しくレオナの長い髪の水気をふき取ると、布をはいでベッドへ移動した。

 レオナは覆いかぶさってくるセリオスをぼんやりと見上げた。身体が温まって、眠気に襲われていた。こうして素肌を重ねてくるセリオスが、今朝、初めて顔を合わせた男とは信じられないぐらい、濃密な一日だった。

 落としたまぶたに、セリオスは唇をつけた。その唇はこめかみに触れ、耳たぶに触れる。くすぐるような優しさを、浅くまどろみながら受け止めていると、それはやがて唇に触れた。その途端、セリオスがハッと短い息を吐き、ふたたび重ねてくると、息苦しいほどに深くなった。

「で、殿下……」

 レオナは驚いて、手をつきあげ、息を吸う。その手はセリオスのあごを押し上げており、彼は不満そうにこちらを見下ろしていた。

「ごめんなさい。あまりに驚いてしまって……」

 あわてて手を引っ込めて謝ると、セリオスは「怒ってなどいない」と、レオナの唇を指でなぞる。

「初めてはつらいだろうが、レオナが拒もうとも、儀式は行わねばならない。そうでなければ、俺たちの結婚が正式なものと見なされなくなるからだ」
「つらいのですか……?」

 恋人同士が口づけをすることぐらいは、本の中で知っている。苦しかったけれど、つらくはなかった。むしろ、柔らかな感触に安心していたように思う。

「怖がられようとも、俺はとめることができない。おまえはただ、痛みに耐えるだけかもしれないが、つらいのは今日限りだ。だから……」

 セリオスはレオナの耳に口をつけ、「許せ」とささやいた。そして、返事を待たずに口づけをした。

 何も怖くはなかった。湯の中で起きたことには驚いたが、つらくはなかった。彼の長い指が胸を何度か撫で、硬くなった先端に吸いつかれても、痛くなかった。しかし、次第に息を荒くしていく彼が、「泣くなとは言わない」とつぶやいたとき、レオナは驚きと困惑で混乱した。

 レオナだって何も知らなかったわけではない。しかし、その知識は浅かった。ゆっくりと広げられた足の間にセリオスは入ってきた。何をしているのかわからず、息を凝らしていると、さっき指でこすられた場所に硬いものがあたり、それはいきなり身体の中へ押し入ってきた。

 想像以上の痛みに襲われ、耐えられずにシーツを握りしめ、無意識に逃げ出そうと這い上がる身体を押さえつけられ、じんわりと涙が浮かぶ目で、やめて、と祈りを込めて見上げるのに、おびえるレオナを見下ろすセリオスは、己の妻を傷つけている罪悪感からか、耐えがたい苦しみの表情を見せているにも関わらず、その中に恍惚とした笑みを見せた。信じられなかった。この鋭い痛みと引き換えに、彼が喜びを見出しているのが。

 レオナはすすり泣いた。しかし、セリオスは手加減することなく、激しく揺れ動いた。大丈夫だと言いながらそれ引き抜き、荒々しい口づけをしたかと思うと、まだ終わらせたくないと、それを深く押し込んできては苦痛を与え続けた。

 初めて、セリオスを怖いと思った。これが結婚の儀式だというなら、神は無慈悲だとも。レオナは生きるためにセシェ島へ来た。死よりも恐ろしい思いをするためではなかった。

 セリオスが身体の上に伏せ、ひどく汗ばんだ腕を背中の下に差し込み、レオナの身体ごとたくましい腕の中に包み込んでも、レオナは泣き止むことができなかった。

 つらいのは今日限りと言ったのは、これが最初で最後の儀式だからだろうかと思ったぐらい、レオナは混乱していた。

「俺はまた、おまえを求めるだろう。そのときおまえは、天国を見るはずだ」

 それは、死を意味しているのかと誤解して震えあがるレオナを、セリオスはしっかりと抱きしめた。

「朝までこうして抱きしめていよう。おまえが少しでも、幸せな夢が見られるように」

 こうして監獄生活は始まり、その後、レオナは何度となくセリオスに求められ、そのたびに怖くない夜を過ごした。初夜のおぞましさが嘘であるかのような快楽に、レオナ自身が戸惑うほどだった。

 しかし、半年が経ち、長い冬があけ、国王崩御の知らせが舞い込んだとき、レオナの中に漠然とした不安がふくらんだ。

 セリオスはレオナを愛していて結婚したわけではない。レオナだって同じだ。王子に庇護を求めての結婚。監獄を出たら、セリオスはいくらでもレオナを放り出すことができる。だから、まさか、一緒に旅についてこいと言われるなんて想像もしていなかった。
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