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リーヴァ編
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「素晴らしいです。今のは、何という魔法なのですか?」
拍手をする小さな少年が、レオナの方を見ている。その茶色の瞳は透き通るように繊細で、どこか現実ではない何かを見ているような輝きを放っている。
「ルカ様……」
なぜ、中庭にいるのだろう。レオナは驚いて、歩み寄ってくる少年を見つめる。彼の後ろにはメイドらしき女の人が付き従っているが、ほかには誰もいないようだ。バルターが来ているというのにふたりで屋敷内を回っているのだろうか。
「レオナさんですね。母上からステラサンクタだと聞きました」
7歳とは思えないしっかりとした口調だが、好奇心の浮かぶ表情にはまだあどけなさがある。
「ステラサンクタをご存知なのですか?」
「もちろん。ですが、ステラサンクタの魔法を見たのは初めてです」
ルカは後ろへ向かって手を伸ばす。
「エリス、ルーペを」
メイドはエリスというらしい。黒髪で色白。物静かな雰囲気だが、レオナより少し年上に見える。彼女はエプロンのポケットから布を取り出すと、そこに包まれているレンズをルカに手渡す。
レオナは使ったことがなかったが、そのレンズが拡大鏡と呼ばれるルーペだというのはすぐにわかった。ベネット公爵が資料を読むときによく使っていたのを知っていたからだ。
何をするのだろう。見守っていると、ルカはルーペを噴水に向け、あちらこちらを眺めたあと、限りなく水面に近い場所に置き、中をのぞき込む。
探しても何か見つかるはずがない。レオナが見せたのは魔法だとわかっているはずなのに、彼はそこに何らかの秘密がないか確かめずにはいられない性格のようだ。
「何もないですね。少しは仕掛けがあると思ってました」
「仕掛けがあるとしたら、魔石の力でしょうか。私も魔法を習ったわけではありませんので、うまく説明できないのですけれど」
「そうなんですね。早速、魔石の本を読んでみます」
ルカは驚くほどに素直な勉強家のようだ。次期国王に選ばれてもふしぎのない聡明な少年なのだろう。
レオナは7歳のころの自分を思い浮かべてみた。言語の勉強をするための家庭教師はつけられていたが、好奇心を持ってさまざまな本を読むには至らなかったように思う。
「エリス、母上に頼んでみてください。王都まではまだ何日もかかると聞いています」
「かしこまりました。ルカ様、次はどこへ行かれますか?」
「ステラサンクタに興味があります。ここにいたいです」
好奇心を隠さずにルカが言うと、エリスがレオナに尋ねる。
「ルカ様がそうおっしゃっています。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「あっ、私はかまいません。もうそろそろ、セリオス様がいらっしゃるかもしれませんけれど」
「伯父さんとも話がしたいです。セシェ島の生活がどのようなものだったのか知りたいのです」
ルカの好奇心は果てることを知らないのかもしれない。
「座ってお話をしましょう」
レオナがルカをガゼボに案内すると、彼はすぐに魔石に興味を示した。ペンダントについた魔石を手のひらに乗せて差し出すと、彼はおそるおそる手に取り、やはり、ルーペを使って魔石の中をのぞき込んだ。
「魔石は透き通ってないのですね」
しばらくしてルカがそう言うと、思わずうなるレイヴンが口を開く。
「魔石の中には不純物があります。そちらの魔石は街の魔石屋が扱うにしては高価なものですから、不純物は少ない方なんですよ」
「高価なのですね。そのようなものとは知らずにいただいてよかったのですか?」
レオナは申し訳なさげに言うが、レイヴンは気にするなとばかりにそっとほほえんでうなずく。
「純度が高いものは魔力も強くなりますから」
「どのようにしたら、純度の高い魔石になるのですか?」
ルカが尋ねる。冷静な口調ではあるが、興味津々にレイヴンを見上げている。レイヴンがいてくれてよかった。質問攻めにされたら、レオナは困り果てるしかできなかっただろう。
「良い質問です。魔石は生物のように生きていて、内部で不純物の分解と吸収を繰り返し、純度を高めていくのですよ。かなりの年月を要しながら、高純度を得るのです」
「古い魔石ほど高価なのですか?」
「そうとも言えますね。まれに、新しいものでも高純度のものがあります。そういったものが掘り出し物として安く手に入ることもあるのですよ」
「目利きがきくといいのですね」
「そういうことです」
レイヴンは満足そうにうなずく。優秀な生徒に教えるのを楽しむようだ。
拍手をする小さな少年が、レオナの方を見ている。その茶色の瞳は透き通るように繊細で、どこか現実ではない何かを見ているような輝きを放っている。
「ルカ様……」
なぜ、中庭にいるのだろう。レオナは驚いて、歩み寄ってくる少年を見つめる。彼の後ろにはメイドらしき女の人が付き従っているが、ほかには誰もいないようだ。バルターが来ているというのにふたりで屋敷内を回っているのだろうか。
「レオナさんですね。母上からステラサンクタだと聞きました」
7歳とは思えないしっかりとした口調だが、好奇心の浮かぶ表情にはまだあどけなさがある。
「ステラサンクタをご存知なのですか?」
「もちろん。ですが、ステラサンクタの魔法を見たのは初めてです」
ルカは後ろへ向かって手を伸ばす。
「エリス、ルーペを」
メイドはエリスというらしい。黒髪で色白。物静かな雰囲気だが、レオナより少し年上に見える。彼女はエプロンのポケットから布を取り出すと、そこに包まれているレンズをルカに手渡す。
レオナは使ったことがなかったが、そのレンズが拡大鏡と呼ばれるルーペだというのはすぐにわかった。ベネット公爵が資料を読むときによく使っていたのを知っていたからだ。
何をするのだろう。見守っていると、ルカはルーペを噴水に向け、あちらこちらを眺めたあと、限りなく水面に近い場所に置き、中をのぞき込む。
探しても何か見つかるはずがない。レオナが見せたのは魔法だとわかっているはずなのに、彼はそこに何らかの秘密がないか確かめずにはいられない性格のようだ。
「何もないですね。少しは仕掛けがあると思ってました」
「仕掛けがあるとしたら、魔石の力でしょうか。私も魔法を習ったわけではありませんので、うまく説明できないのですけれど」
「そうなんですね。早速、魔石の本を読んでみます」
ルカは驚くほどに素直な勉強家のようだ。次期国王に選ばれてもふしぎのない聡明な少年なのだろう。
レオナは7歳のころの自分を思い浮かべてみた。言語の勉強をするための家庭教師はつけられていたが、好奇心を持ってさまざまな本を読むには至らなかったように思う。
「エリス、母上に頼んでみてください。王都まではまだ何日もかかると聞いています」
「かしこまりました。ルカ様、次はどこへ行かれますか?」
「ステラサンクタに興味があります。ここにいたいです」
好奇心を隠さずにルカが言うと、エリスがレオナに尋ねる。
「ルカ様がそうおっしゃっています。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「あっ、私はかまいません。もうそろそろ、セリオス様がいらっしゃるかもしれませんけれど」
「伯父さんとも話がしたいです。セシェ島の生活がどのようなものだったのか知りたいのです」
ルカの好奇心は果てることを知らないのかもしれない。
「座ってお話をしましょう」
レオナがルカをガゼボに案内すると、彼はすぐに魔石に興味を示した。ペンダントについた魔石を手のひらに乗せて差し出すと、彼はおそるおそる手に取り、やはり、ルーペを使って魔石の中をのぞき込んだ。
「魔石は透き通ってないのですね」
しばらくしてルカがそう言うと、思わずうなるレイヴンが口を開く。
「魔石の中には不純物があります。そちらの魔石は街の魔石屋が扱うにしては高価なものですから、不純物は少ない方なんですよ」
「高価なのですね。そのようなものとは知らずにいただいてよかったのですか?」
レオナは申し訳なさげに言うが、レイヴンは気にするなとばかりにそっとほほえんでうなずく。
「純度が高いものは魔力も強くなりますから」
「どのようにしたら、純度の高い魔石になるのですか?」
ルカが尋ねる。冷静な口調ではあるが、興味津々にレイヴンを見上げている。レイヴンがいてくれてよかった。質問攻めにされたら、レオナは困り果てるしかできなかっただろう。
「良い質問です。魔石は生物のように生きていて、内部で不純物の分解と吸収を繰り返し、純度を高めていくのですよ。かなりの年月を要しながら、高純度を得るのです」
「古い魔石ほど高価なのですか?」
「そうとも言えますね。まれに、新しいものでも高純度のものがあります。そういったものが掘り出し物として安く手に入ることもあるのですよ」
「目利きがきくといいのですね」
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