砂色のステラ

水城ひさぎ

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リーヴァ編

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「レイヴンはなんでも知ってるのですね」

 レオナが感心すると、レイヴンは苦笑いする。

「魔法使いであれば、当たり前に知っている知識ですよ。感覚だけで能力を発揮するレオナさんは特殊です。やはり、ステラサンクタは未知の能力を秘めておられるのでしょう」
「私は……何もできません」
「そう思っているだけです。しかし、正しい知識があれば、少ない力で高い能力を発揮できるでしょう。レオナさんのためにも知識はつけた方がいいです」
「でも、どうやって勉強したらいいかもわかりません」
「王都には優秀な神官や魔法使いがたくさんいると思います。書物だって豊富なはずです。いくらでも学べますよ」

 王宮には最高の学問を学べる場所があるだろう。しかし、彼らがレオナに力を貸してくれるかどうかはわからない。

「セリオス様に頼んでみたらいいですよね?」
「それがいいですね。セリオス殿も頼られたらうれしいでしょうから」

 茶化すように言われて、レオナのほおは赤くなる。レイヴンは心配してくれているのだ。セリオスの愛を疑うレオナを励まそうとしてくれたのかもしれない。

「エリス、いろいろな純度の魔石を見てみたいです」

 ルカは好奇心に忠実で、マイペースな性格のようだ。魔石に関する本の次は、魔石自体を要望する。そういったことも慣れているのか、後ろに控えていたエリスは、すぐにレイヴンへ目を向けた。

「魔石の違いは純度だけなのでしょうか?」

 どのようなものを用意したらいいのか知りたくて、エリスは尋ねたようだ。

「魔法には属性がありますから、説明しきれないほど、豊富な種類の魔石があります。伯爵殿ならご存知でしょうから、ルカ殿に最適な魔石を選ばれると思います」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 エリスはほっとしたような息をつき、ルカに話しかける。

「ルカ様から離れないよう、旦那様より仰せつかっています。旦那様にお願いするのはお部屋へ戻ってからでもよいですか?」
「僕はレオナさんたちとここにいます。エリスは父上のところへ行ってください」

 エリスは戸惑うように瞳を泳がせた。ルカの願いは叶えたいが、アランの命令には逆らえないのだろう。

「一緒に戻らないと、旦那様が心配なさりますから」
「父上はいつも心配ばかりしています」

 ルカはほんの少しむくれた。子ども扱いされているのを面白くないと思っているようだが、そんな姿が年相応に見えてほほえましい。

「魔石はあとでもいいのではありませんか? セリオス様がお見えになるまで、おふたりともここにいらっしゃるといいですよ」

 レオナはエリスに助け船を出した。アランがルカをひとりにしないようにとエリスに命じたのは、バルターを警戒しているからだ。バルターが屋敷に姿を現した以上、ルカを守れるのはフォルフェス騎士団しかいないだろう。

 しかし、ルカが一向に警戒する様子を見せていないのは、アランがルカに身の危険を知らせていないからだ。しっかりしているとはいえ、まだ幼い少年だ。血縁者であるバルターに命を狙われているという事実を知らせなくてもいいならそうしたいと思うのは親心だろう。

「レオナさんの言う通りにします。エリス、あなたもここにいてください。僕はまだまだレオナさんの魔法を見てみたいです」

 それは困った。ルカはレオナがなんでもできると勘違いしたようだ。レオナが助けを求めてレイヴンを見ると、彼はくすりと笑い、ルカに申し出る。

「私は火を得意とする魔法使いですが、私でよければお付き合いしますよ」
「あなたも魔法使いなのですね」
「申し遅れました。私の名はレイヴン・カーライル。ノクシスからやってきました魔法使いです」

 レイヴンは丁寧に頭をさげた。その姿にレオナは少なからず驚いた。アランやアメリアには、名乗るどころか近づきもしなかったが、ルカを気に入ったのかもしれない。

「ノクシス? 異国の人ですか? エルアルム語が堪能ですね」

 ルカの指摘をレイヴンはどこか楽しむように答える。

「はい。父がエルアルム、母がノクシス出身で、家の中ではエルアルム語とノクシス語が飛び交っていましたから」
「それは面白いです。ノクシスの魔法は、エルアルムの魔法と同じなのですか?」
「魔法の起源はすべて楽園ユーラスにあります。全世界へ広がりながら形を変えたものはあるでしょうが、基本的には同じです。中でも、ステラサンクタは……」

 レイヴンがとうとうと話し始めると、ルカは色素の薄い茶色の瞳に生き生きとした輝きを見せ、彼の話に聞き入った。
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