砂色のステラ

水城ひさぎ

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リーヴァ編

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 ストークス伯爵の部屋へ向かうため、二階につながる階段をあがっていくと、廊下でオリビアとルカの姿を見つけた。

「よかった。ルカ様はご無事ですね」

 レオナがほっと胸をなで下ろしてレイヴンに話しかけると、こちらに気づいたルカが、ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる。

「レオナさん、会いたかったです。部屋から出てはいけないと言われて困っていました」
「私も元気なお姿が見られてうれしいです」

 レオナがスカートをつまんで礼をすると、ルカは満足そうにうなずく。

「オリビア、レオナさんと一緒に中庭へ行きます。いいですね?」

 ルカが涼しい顔で有無を言わせない態度を見せると、オリビアは困り顔で腰に手を置く。

「明日には王都へ出発します。今日は一日、おとなしくしていてください」

 フォルフェス騎士団の団員とはいえ、ミラージュ侯爵の娘であるオリビアは、ルカに物を申せる立場にあるようだ。

「あと何日も馬車の旅が続きます。なおさら僕に外の空気を吸わせてください。危ないというなら、オリビアもついてこればいいのです」

 譲歩する気のないルカにあきれるオリビアは、仕方なさそうにため息をつく。

「フリント、すぐにベリウスを呼んでください。ふたりに伯爵両殿下は任せます」

 伯爵の部屋であろうドアの前にいるフリントは、穏やかな表情でうなずく。ルカに振り回されるオリビアを見て楽しんでいるようでもある。とはいえ、ルカにいらない心配をさせないため、緊迫した雰囲気を出さないようにしているのかもしれない。

「エリス、あなたも行きますよ」

 メイドは数人控えていたが、ルカの声かけによって呼ばれたのはエリスだけだった。どこへ行くにも連れていくメイドは彼女ひとりのようだ。

「レオナさんは朝食をいただきましたか? 僕は中庭で食べたいと思っています」
「私もまだです。ご一緒してもいいですか?」
「もちろんです。エリス、レオナさんたちの分もお願いします」

 ルカはエリスに命じると、意気揚々と歩き出す。

 途中、朝食を取りに行くエリスと別れ、レオナはルカ、オリビア、レイヴンとともに中庭へ向かった。通路には兵士たちが物々しく立ち並んでいたが、それはレオナの部屋周辺のみで、その他の場所はいつも通りの静けさだった。中庭に着くと、噴水の音が心地よく響き、ゆったりと朝食を楽しめそうだと感じる。レオナはルカとともにガゼボへ向かい、並んで腰を下ろした。

「レオナさんも一緒に王都へ行くんですよね。同じ馬車に乗れるよう、母上にお願いしています」

 ルカはにこにこしながら、レオナの顔をのぞき込む。ずいぶん、気に入られたようだ。戸惑ってオリビアを見上げるが、彼女は苦笑いしながら見守っている。ルカをいさめるような話ではないのかもしれない。

「セリオス様がお許しくださるなら、ぜひ」
「それはうれしいです。セリオス伯父さんの話もまだ聞いていません。僕が伯父さんの馬車に乗るのもいいですね」

 いいことを思いついたとばかりにルカが笑顔で言ったとき、エリスがトレイを持って姿を現す。

「あっ、バルター伯父さん」

 ルカがそう発した声に、中庭がピリついた。レオナが驚いて立ち上がると、レイヴンが守ってくれるように背後にぴたりと立つ。オリビアもまた、素早くルカの前に腕を伸ばした。

 エリスの後ろには、うすら笑いを浮かべるバルターがいた。レオナはエリスの様子がおかしいことに気づき、彼女の様子を注視した。

 少しずつこちらへ向かって歩いてくる彼女の顔は真っ青で、トレイをつかむ白い手はカタカタと震えている。そしてバルターは、エリスの背中に何かを押し付けているように、不自然に彼女に身を寄せている。

「これはこれはルカ殿、久しぶりであるな」

 かわいい甥に見せるにしては、気味が悪いほどに陽気な笑顔だが、ルカは何の抵抗も感じていないらしい。

「バルター伯父さんも来ていたんですね」

 無邪気にバルターへ近づこうとするルカの前にオリビアが出ると、ルカは不思議そうに彼女を見上げる。そのときだった。エリスが叫ぶ。

「ルカ様っ、お逃げください!」
「エリス?」

 事態を飲み込めないルカが大人たちの顔を見回す。そうするうちに、舌打ちしたバルターがエリスの背中を突き倒し、手に持つナイフを彼女の首に押しつけた。

「さあ、ルカをこちらに渡してもらおうか」

 オリビアはルカを後ろ手に回す。ようやくただならない雰囲気に気づき、じっと息をひそめるルカが不安げにオリビアの手を握っている。

 とっさに、レオナはオリビアの前へと進み出る。足は震えていたが、おびえるルカの前で、引くわけにはいかなかった。

「オリビアさん、ルカ様を連れて逃げてください。バルター殿下とは私が話します」
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