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リーヴァ編
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「あっ、レオナさんではありませんか」
ルカはうれしげな声をあげる。バルターの裏切りを見て動揺した様子はまだ幼い子どもそのもので心配していたが、すっかり元気を取り戻した姿にほっとする。
それにしても、こんな夜中に何をしているのだろう。それも、ルームローブ姿で。危ないではないか。レオナは自身の姿も似たようなものだと気づいたが、今さら隠しようもなく、あきらめてルカに駆け寄る。
「どうされたのですか?」
「夜に咲く花ですよ」
ルカは得意げな表情をする。
「夜に……?」
「はい。ここの庭園には夜に咲く花があると、エリスが教えてくれました。今から見にいくところです」
なるほど。それで、エリスとフリントを従えているのだ。エリスはほんの少し後ろめたそうな顔をしている。まさか、すぐに見に行くと言い出すとは思っていなかったのだろう。
「そのようなお花があるのですね。リーヴァには異国の花もたくさんあるようです。珍しいお花なんでしょうね」
「そのようです。レオナさんも一緒に行きましょう」
「いいのですか?」
好奇心に負けて身を乗り出すと、後ろからオリビアのため息が聞こえた。
「もちろんです」
しかし、ルカは気にせず、エリスの誘導に従って、離れにある庭園へ向かって歩いていく。レオナも追いかけると、わずかに苦笑するフリントとともに、オリビアもしぶしぶついてきた。
「ルカ様、こちらです」
エリスの伸ばした手の先には、緑の茂みがある。どこに花があるのだろうと近づくルカは、エリスが差し出すルーペを茂みに近づける。近くのものを見るとき、彼はルーペを欠かさないのだろう。
「小さな花のようです。まだつぼみですが、たくさんあります」
熱心に眺めるその透き通った聡明な瞳には、そこにあるものを見ているだけではない幻想的な輝きがあった。
「ああ、すごい。咲いてきましたよ。レオナさん、見てください」
あちらこちらにルーペをかざし、興奮気味に話すルカへ、レオナは声をかける。
「いつもルーペを使っているのですね」
「よく見えるのです。レオナさんもどうぞ」
「よいのですか? お借りしますね」
いつのまにか、目の前では小ぶりの白い花がいくつも花開き、緑の茂みだと思っていた場所は、薄ぼんやりと白く光っていた。
レオナはそっとルーペを受け取ると、一輪の花の前へかざす。顔を近づけると、優しい香りがふわっと風に乗って流れてくる。
「とても甘い香りのする花なのですね」
「この花は書物で見たことがあります。花が開くとき、その香りを強く放つのは、遠くにいる虫たちにも居場所を知らせるためだと」
ルカが話し終えたとき、レオナはハッと振り返る。
「いま、何か物音が……」
そうつぶやいたときには、フリントとオリビアはすでにルカとレオナの前に立ち塞がっていた。
「レオナ様、ルカ様から離れませんよう」
闇をにらむオリビアが低い声を発したとき、レオナはルカの後ろへ下がっていくエリスの姿を視界の片隅にとらえた。エリスも怖がっているのだろう。バルターに襲われた恐怖は、すぐに消えるものではない。
レオナはエリスを気づかおうとした。しかし、彼女の思い詰めた目が気になった。エリスはじっとルカだけを見ている。ルカはオリビアの視線の先を気にしていて、エリスに気づいていない。
エリスが不自然にルカの背後に回り込む。そのときだった。エリスが両手につかんだナイフを顔の前に持ち上げた。
「何を……っ」
レオナはとっさにルカの手を引いた。ルカは地面に倒れ込み、レオナはあわてた。ルカを抱き起こそうとするが、後ろから回ってきた腕に羽交締めにされ、首もとに押し当てられるひんやりと固いものがナイフだと気づき、息を飲んだ。
「レオナ様っ!」
オリビアが叫び、フリントがルカを引き起こす。
「動かないでっ」
切迫感漂うエリスの声が耳もとで響く。彼女の声は震えていた。しかし、レオナを解放する気はなく、身体を締め付ける腕にはますます力が入った。
「エリス、これはどういうことだ」
オリビアの声が夜の闇に轟く。
「私の要求はただ一つです」
「なんだそれはっ」
「バルター王子殿下を解放してくださいっ」
「バルターだと? まさか、おまえが……」
オリビアは悔しそうにギリギリと下唇をかむ。エリスはバルターに襲われていた。バルターの仲間だと、どうして疑えただろうか。
「はやく、はやく伝えてっ!」
エリスは叫ぶが、緊張しているのか、ごくりと唾を飲み込んだ。
レオナはじっと息をひそめる。本当にエリスはバルターの仲間なのだろうか。信じられない。ルカが常に信頼してそばに置いていたメイドだ。なぜ、そんな彼女がルカの命を狙う男に加担できるというのか。
「オリビアさん……、私は大丈夫です。セリオス様に伝えてください」
レオナがうなずくと、オリビアはフリントへ目で合図を送る。フリントはルカを連れたまま、素早く闇の中へ消え去った。
ルカはうれしげな声をあげる。バルターの裏切りを見て動揺した様子はまだ幼い子どもそのもので心配していたが、すっかり元気を取り戻した姿にほっとする。
それにしても、こんな夜中に何をしているのだろう。それも、ルームローブ姿で。危ないではないか。レオナは自身の姿も似たようなものだと気づいたが、今さら隠しようもなく、あきらめてルカに駆け寄る。
「どうされたのですか?」
「夜に咲く花ですよ」
ルカは得意げな表情をする。
「夜に……?」
「はい。ここの庭園には夜に咲く花があると、エリスが教えてくれました。今から見にいくところです」
なるほど。それで、エリスとフリントを従えているのだ。エリスはほんの少し後ろめたそうな顔をしている。まさか、すぐに見に行くと言い出すとは思っていなかったのだろう。
「そのようなお花があるのですね。リーヴァには異国の花もたくさんあるようです。珍しいお花なんでしょうね」
「そのようです。レオナさんも一緒に行きましょう」
「いいのですか?」
好奇心に負けて身を乗り出すと、後ろからオリビアのため息が聞こえた。
「もちろんです」
しかし、ルカは気にせず、エリスの誘導に従って、離れにある庭園へ向かって歩いていく。レオナも追いかけると、わずかに苦笑するフリントとともに、オリビアもしぶしぶついてきた。
「ルカ様、こちらです」
エリスの伸ばした手の先には、緑の茂みがある。どこに花があるのだろうと近づくルカは、エリスが差し出すルーペを茂みに近づける。近くのものを見るとき、彼はルーペを欠かさないのだろう。
「小さな花のようです。まだつぼみですが、たくさんあります」
熱心に眺めるその透き通った聡明な瞳には、そこにあるものを見ているだけではない幻想的な輝きがあった。
「ああ、すごい。咲いてきましたよ。レオナさん、見てください」
あちらこちらにルーペをかざし、興奮気味に話すルカへ、レオナは声をかける。
「いつもルーペを使っているのですね」
「よく見えるのです。レオナさんもどうぞ」
「よいのですか? お借りしますね」
いつのまにか、目の前では小ぶりの白い花がいくつも花開き、緑の茂みだと思っていた場所は、薄ぼんやりと白く光っていた。
レオナはそっとルーペを受け取ると、一輪の花の前へかざす。顔を近づけると、優しい香りがふわっと風に乗って流れてくる。
「とても甘い香りのする花なのですね」
「この花は書物で見たことがあります。花が開くとき、その香りを強く放つのは、遠くにいる虫たちにも居場所を知らせるためだと」
ルカが話し終えたとき、レオナはハッと振り返る。
「いま、何か物音が……」
そうつぶやいたときには、フリントとオリビアはすでにルカとレオナの前に立ち塞がっていた。
「レオナ様、ルカ様から離れませんよう」
闇をにらむオリビアが低い声を発したとき、レオナはルカの後ろへ下がっていくエリスの姿を視界の片隅にとらえた。エリスも怖がっているのだろう。バルターに襲われた恐怖は、すぐに消えるものではない。
レオナはエリスを気づかおうとした。しかし、彼女の思い詰めた目が気になった。エリスはじっとルカだけを見ている。ルカはオリビアの視線の先を気にしていて、エリスに気づいていない。
エリスが不自然にルカの背後に回り込む。そのときだった。エリスが両手につかんだナイフを顔の前に持ち上げた。
「何を……っ」
レオナはとっさにルカの手を引いた。ルカは地面に倒れ込み、レオナはあわてた。ルカを抱き起こそうとするが、後ろから回ってきた腕に羽交締めにされ、首もとに押し当てられるひんやりと固いものがナイフだと気づき、息を飲んだ。
「レオナ様っ!」
オリビアが叫び、フリントがルカを引き起こす。
「動かないでっ」
切迫感漂うエリスの声が耳もとで響く。彼女の声は震えていた。しかし、レオナを解放する気はなく、身体を締め付ける腕にはますます力が入った。
「エリス、これはどういうことだ」
オリビアの声が夜の闇に轟く。
「私の要求はただ一つです」
「なんだそれはっ」
「バルター王子殿下を解放してくださいっ」
「バルターだと? まさか、おまえが……」
オリビアは悔しそうにギリギリと下唇をかむ。エリスはバルターに襲われていた。バルターの仲間だと、どうして疑えただろうか。
「はやく、はやく伝えてっ!」
エリスは叫ぶが、緊張しているのか、ごくりと唾を飲み込んだ。
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「オリビアさん……、私は大丈夫です。セリオス様に伝えてください」
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