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王都編
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まぶしい光が消え去り、視界が開けた途端、どよめきが上がった。司祭服を着た男たちが一様に、目を見開いてこちらを見ている。すると、その中のひとり、中年の司祭が冷静を取り戻しつつ、話しかけてくる。
「これはこれは、セリオス王子殿下。物音が聞こえて来てみましたら……。いったいどうなされたのですか」
「ユーラスから帰った。ここは……サンクタ・ポルタ大聖堂で間違いないな?」
美しい天井画をぐるりと見回したセリオスは、司祭の男に尋ねた。
「さようでございます。しかし、ユーラスですと? ステラの門をお通りになられたのですか」
「サンクタ・ポルタにステラの門があるとは知らなかったがな」
「こちらの扉がユーラスにつながるというのは、国王陛下、大司祭様をはじめ、ごく一部の司祭しか知らないことでございます。ステラの門は少なくとも数十年以上使われておりません。もはや、忘れ去られた存在になりつつあったのでございます」
背中合わせにそびえる大きな二枚の扉へ手のひらを向けた司祭は、ステラの門は過去の遺物だと説明すると、縄に縛られて座り込むバルターへ戸惑いの目を向ける。
セリオスはバルターの手を縛る縄をつかむと、うっすら笑んで彼を引き起こす。
「これには少々事情があってな。エゼル大司祭はいるか?」
「大司祭様は宮殿へお出かけです。明後日にはストークス伯爵家の皆様がご到着になられるということで、御葬儀の準備に忙しくされておられます」
「まあ、そうだな。では、フロストとロデリックも宮殿にいるだろう。ふたりをただちに呼んでほしい。頼めるか?」
「お伝えしてみます。殿下はどうされますか?」
そう言いながら、司祭はレオナとベリウスに視線を移す。唐突に訪れた客人の対応に困っているようだ。
「悪いが、彼らとともにここで待たせてもらう」
「かしこまりました。すぐに宮殿へ使いを向かわせます」
腰を曲げて頭をさげる司祭が部屋を出ていこうとするのを引き止めるように、セリオスは声をかける。
「……ああ、それと。ロデリックには、早急に馬車を二台、準備するようにと伝えてくれ」
司祭はふたたび一礼すると、足早に部屋を出ていった。
レオナたちは別の司祭によって静かな礼拝堂に案内された。修道士たちが水やパンなど、軽い食事を用意しようとするのを、セリオスは「気遣いなく」とやんわり断ると、ひたすら椅子に座ってフロストが来るのを待った。
レオナは黙って、腕を組むセリオスのそばに控えていた。ベリウスはアレスやイリスを外に連れ出したきり、戻ってこない。それからしばらくして、しびれを切らしたバルターがひとりごとのような小言を言うのを聞き流していると、ひとりの司祭がようやく礼拝堂に姿を見せた。
「ベネット公爵閣下と、宰相閣下の使者がおいでになりました」
セリオスはスッと立ち上がる。
「ここへ案内してくれ」
「少々お待ちください」
礼拝堂を出ていった司祭は、すぐにベネット公爵と若い青年騎士を連れて戻ってきた。ふたりがセリオスに挨拶をすませた途端、レオナは矢も盾もたまらず、飛び出していた。
「お父さまっ」
「おお、レオナ。無事であったか」
公爵はレオナの肩にそっと手を置くと、安堵の息をつき、セリオスへと目を移す。
「我が娘、レオナをお守りくださり、ありがとうございます」
「頼まれたから守ってきたのではない」
セリオスはぶっきらぼうに言う。その様子を、公爵が愉快そうに目尻をさげて見守る中、セリオスは若い騎士に歩み寄る。
「フロストに伝言を頼みたい。宮殿に着き次第、バルターを地下牢へ。亡き陛下の葬儀への参加は、民への不安を考慮し、厳重な管理のもと、許可する」
「承知しました。では早速、バルター殿下を馬車へお連れしますが、よろしいですか?」
「頼む」
セリオスがバルターを縛り付ける縄をつかむと、彼は身をよじって抵抗する。
「なぜ、俺が牢屋へ入らねばならないのだ」
「己の罪を振り返ってもそう言えるのか」
「俺は何もしてない」
「寝言は寝てから言え。ルカの暗殺未遂。エリスやその両親への仕打ち。レオナの誘拐。はては、フィリス教皇を利用し、エルアルムを我がものにしようと企てたのではないか。おまえの罪は重い」
「ふんっ。俺は誰も殺してはいない」
吐き捨てるように言うバルターに、セリオスはあきれたようだが、つかんだ縄ごと彼を騎士へ差し出す。
「枢密院のやつらにはもう、フロストを介してバルターの悪行は知れ渡っているはず。迷わず牢へ入れろ。そして、すべては葬儀が無事に執り行われてから決める。そう、フロストに伝えろ」
「殿下もご一緒に戻られますか? たいそう、閣下がご心配されております」
「もちろん。少しロデリックと話がしたい。バルターを馬車に乗せ、待機していてくれ」
若い騎士は敬礼すると、抵抗するバルターを連れて礼拝堂を出ていく。その後ろ姿を見送ったあと、セリオスはベネット公爵に言う。
「レオナには亡き陛下の葬儀に参列してもらいたいところだが、俺との結婚はまだ公になっていない。喪が明けるまで、レオナをクレストルにある公爵邸で過ごさせてほしい」
まぶしい光が消え去り、視界が開けた途端、どよめきが上がった。司祭服を着た男たちが一様に、目を見開いてこちらを見ている。すると、その中のひとり、中年の司祭が冷静を取り戻しつつ、話しかけてくる。
「これはこれは、セリオス王子殿下。物音が聞こえて来てみましたら……。いったいどうなされたのですか」
「ユーラスから帰った。ここは……サンクタ・ポルタ大聖堂で間違いないな?」
美しい天井画をぐるりと見回したセリオスは、司祭の男に尋ねた。
「さようでございます。しかし、ユーラスですと? ステラの門をお通りになられたのですか」
「サンクタ・ポルタにステラの門があるとは知らなかったがな」
「こちらの扉がユーラスにつながるというのは、国王陛下、大司祭様をはじめ、ごく一部の司祭しか知らないことでございます。ステラの門は少なくとも数十年以上使われておりません。もはや、忘れ去られた存在になりつつあったのでございます」
背中合わせにそびえる大きな二枚の扉へ手のひらを向けた司祭は、ステラの門は過去の遺物だと説明すると、縄に縛られて座り込むバルターへ戸惑いの目を向ける。
セリオスはバルターの手を縛る縄をつかむと、うっすら笑んで彼を引き起こす。
「これには少々事情があってな。エゼル大司祭はいるか?」
「大司祭様は宮殿へお出かけです。明後日にはストークス伯爵家の皆様がご到着になられるということで、御葬儀の準備に忙しくされておられます」
「まあ、そうだな。では、フロストとロデリックも宮殿にいるだろう。ふたりをただちに呼んでほしい。頼めるか?」
「お伝えしてみます。殿下はどうされますか?」
そう言いながら、司祭はレオナとベリウスに視線を移す。唐突に訪れた客人の対応に困っているようだ。
「悪いが、彼らとともにここで待たせてもらう」
「かしこまりました。すぐに宮殿へ使いを向かわせます」
腰を曲げて頭をさげる司祭が部屋を出ていこうとするのを引き止めるように、セリオスは声をかける。
「……ああ、それと。ロデリックには、早急に馬車を二台、準備するようにと伝えてくれ」
司祭はふたたび一礼すると、足早に部屋を出ていった。
レオナたちは別の司祭によって静かな礼拝堂に案内された。修道士たちが水やパンなど、軽い食事を用意しようとするのを、セリオスは「気遣いなく」とやんわり断ると、ひたすら椅子に座ってフロストが来るのを待った。
レオナは黙って、腕を組むセリオスのそばに控えていた。ベリウスはアレスやイリスを外に連れ出したきり、戻ってこない。それからしばらくして、しびれを切らしたバルターがひとりごとのような小言を言うのを聞き流していると、ひとりの司祭がようやく礼拝堂に姿を見せた。
「ベネット公爵閣下と、宰相閣下の使者がおいでになりました」
セリオスはスッと立ち上がる。
「ここへ案内してくれ」
「少々お待ちください」
礼拝堂を出ていった司祭は、すぐにベネット公爵と若い青年騎士を連れて戻ってきた。ふたりがセリオスに挨拶をすませた途端、レオナは矢も盾もたまらず、飛び出していた。
「お父さまっ」
「おお、レオナ。無事であったか」
公爵はレオナの肩にそっと手を置くと、安堵の息をつき、セリオスへと目を移す。
「我が娘、レオナをお守りくださり、ありがとうございます」
「頼まれたから守ってきたのではない」
セリオスはぶっきらぼうに言う。その様子を、公爵が愉快そうに目尻をさげて見守る中、セリオスは若い騎士に歩み寄る。
「フロストに伝言を頼みたい。宮殿に着き次第、バルターを地下牢へ。亡き陛下の葬儀への参加は、民への不安を考慮し、厳重な管理のもと、許可する」
「承知しました。では早速、バルター殿下を馬車へお連れしますが、よろしいですか?」
「頼む」
セリオスがバルターを縛り付ける縄をつかむと、彼は身をよじって抵抗する。
「なぜ、俺が牢屋へ入らねばならないのだ」
「己の罪を振り返ってもそう言えるのか」
「俺は何もしてない」
「寝言は寝てから言え。ルカの暗殺未遂。エリスやその両親への仕打ち。レオナの誘拐。はては、フィリス教皇を利用し、エルアルムを我がものにしようと企てたのではないか。おまえの罪は重い」
「ふんっ。俺は誰も殺してはいない」
吐き捨てるように言うバルターに、セリオスはあきれたようだが、つかんだ縄ごと彼を騎士へ差し出す。
「枢密院のやつらにはもう、フロストを介してバルターの悪行は知れ渡っているはず。迷わず牢へ入れろ。そして、すべては葬儀が無事に執り行われてから決める。そう、フロストに伝えろ」
「殿下もご一緒に戻られますか? たいそう、閣下がご心配されております」
「もちろん。少しロデリックと話がしたい。バルターを馬車に乗せ、待機していてくれ」
若い騎士は敬礼すると、抵抗するバルターを連れて礼拝堂を出ていく。その後ろ姿を見送ったあと、セリオスはベネット公爵に言う。
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