君の世界は森で華やぐ

水城ひさぎ

文字の大きさ
30 / 32
君の世界は森で華やぐ 〜2〜

空の秘密 1

しおりを挟む
***


「寛人さん、お昼食べましょう? ……何、書いてるの?」

 昼食の用意ができたからと、寛人さんを呼びに部屋へ行くと、彼は机に向かって下書きをしているところだった。

 後ろから、ひょこっとのぞき込むと、彼はくるりとスケッチブックをひっくり返し、私を仰ぎ見る。

「まだ完成じゃないから」
「途中でもいいのに」
「完成したら見せてあげるよ」
「どんなもの書いてるの?」

 隠すと余計に気になるじゃない、と下書きをのぞき込もうとする私を笑って、寛人さんは立ち上がるなり、私のほおに触れる。

「世界で一番好きなものだよ」
「世界で一番? じゃあ、力作ね」
「うん。部屋に飾ろうと思うよ」
「珍しい、飾るなんて。だったら、ギャラリーに置いてもらいましょうよ」

 寛人さんは自身の絵画を一つも家の中に飾っていない。それなのに、飾ってもいいぐらいの大作なら、よほど自信があるのだろう。

「必要ないよ」

 つないでくる彼の手を握り返す。

「そんなことない。寛人さんの絵画を、もっと多くの人に見てもらいたいの」

 寛人さんの作品は、明敬さんの手が加えられ、春宮建設の扱う建築物として、世の中にいくつも存在してる。

 だけど、それらの建築物が春宮寛人の作品だとは、誰も知らない。やっぱり、それではもったいないと思う。

「ほんとに、ゆかりちゃんはマネージャーみたいだね」

 空さんに誤解されたままの私がおかしいらしく、くすり、と彼は笑う。

「マネージャーでいいの。寛人さんの素晴らしさが世の中に伝わるなら」
「それじゃあ、秘書の仕事と変わらないよ」

 秘書が嫌だったから、春宮建設をやめたんじゃないの? とからかってるんだろう。

「全然違うから、いいの」
「ほかにしたいことないの?」
「それは考えないでもないんだけど」

 私に何ができるだろう。それは何度も考えた。だけど結局、何も浮かばないのだ。

「ゆかりちゃんは器用だけど、不器用そうだね」
「なーに、それ。でも、あたりかも。いろんな資格は持ってるけど、全然役立ててないの。今はね、寛人さんの側にずっといたい。だから、マネージャーになれるなら、それもいいかなって」
「マネージャーじゃなくても、ずっと一緒にいられるよ」
「あ……、うん」
「ここに住んだらいいのに。ずっと住んでていいんだよ」

 それは、プロポーズ?

 寛人さんを見上げると、彼は庭から望む大空を見上げていた。

「俺はいつでもここにいるから。有名になりたいなんて思わない。ずっと、ここにいたいんだ」

 そう言った彼の目には、自由に飛び回る鳥たちが見えていただろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...