記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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君を守りたくて

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「警視庁の刑事さん?」

 拓海はけげんそうに若村という刑事をしげしげと眺めた。しかし、招かれざる客の扱いを受けるのは慣れているのだろう、男はまったく表情を変えないまま、こちらへ顔を向けた。光莉より年上に見えるが、若い男だ。

 形式的に頭を下げられ、光莉はドアをすり抜けて拓海の背中に歩み寄る。

「本田光莉さんですね? 本田陽介さんからこちらにいらっしゃるとうかがいました」
「……そうですけど、私に、何か?」

 拓海ではなくて、最初から光莉を訪ねてきたようだ。

「少しお尋ねしたいことがありまして。お時間よろしいですか?」
「理乃のことで?」
「ええ。松村理乃さんに関して、いくつか」

 若村は穏やかな笑みを浮かべてうなずく。そうやって、相手が気を許すのを待っているような笑みだ。好意的なようで、そうではない。どういうわけか、警戒心が高まる。

 光莉は拓海のシャツを無意識につかんでいた。彼もそれに気づいて、安心させるように背中に手を回してくる。

「俺も、話聞いていいですか?」
「かまいません。あなたは月島拓海さんですね。確認ですが、本田さんとは高校時代からのお付き合い?」
「そうですよ」
「はっきりと覚えていらっしゃる?」

 妙な言い方をするものだ。拓海もそう思ったのだろう。眉をひそめ、不快感をにじませる声音で言う。

「記憶喪失なんだから、覚えてるわけないって言いたそうですね。それなのに、光莉をここに住まわせてるのは何か意味があるんじゃないかって疑ってるんですか?」
「まあまあ、そう不機嫌にならないでくださいよ。あくまでも、確認です」

 若村はうっすらと笑みを浮かべて彼をなだめるが、どこか挑発的に見えるのは彼の性分だろうか。

「記憶喪失って言っても、覚えてることもあるんです」

 ぶっきらぼうに拓海はそう答える。

「それじゃあ、本田さんのことは覚えていらした? 高校時代のことは覚えていないと聞いていますが」
「そうですよ。俺だって全部忘れたって思ってたから驚いてるんです。……っていうか、その話、誰に聞いたんですか?」
前山まえやまっ」

 若村はいきなり振り返ると、ドアの後ろへ向かって誰かを呼びつける。

 現れたのは、白シャツと黒のスラックスの女の人だった。キリリとしたまなざしの、人を寄せ付けない雰囲気を持つ女の人だが、彼女を見るなり、拓海がすっとんきょうな声をあげた。

「端山署の前山さん?」
「元気そうですね、月島さん。あれから、特にお変わりなく?」

 前山は微笑する。彼女も警察官のようだ。

「拓海、お知り合い?」

 驚いて尋ねると、拓海は気を許した笑顔でうなずく。

「俺が川に落ちたときにお世話になったんだ」
「お世話にって?」
「俺、酒に酔って川に落ちただろ? 一応、事件性がないか調べてくれてさ」
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