記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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君を守りたくて

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 失態を恥じるように彼は笑ってそう答えるが、光莉は笑う気になれない。

「事件?」
「ああ、いや。一応だよ、一応。結局、目撃者の通報通りってことになったんだよ」
「目撃した人がいたんだ」
「そうそう。女の人が川に落ちた人がいるって警察に通報してくれてさ。だから、すぐに見つけてもらえて、死なずに済んだっていうか」
「死なずにって……、そんな大けがしたの?」
「ああ、ごめん。死なずに、ってのは大げさ。川って言っても浅瀬でさ、石にぶつけて頭からちょっと血が出たぐらい」

 それでもけがをしたことに変わりはないし、記憶まで失ってるのだから、手放しでは喜べないが、光莉はほっと息をつく。本当に一歩間違えていたら、亡くなっていたかもしれないのだ。拓海が生きていてくれてよかった。心底そう思える自分がいる。

「通報してくれた人、まだ見つからないんですよね?」

 拓海がそう尋ねると、前山は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

「公衆電話からの通報で、目撃者も見つからず」
「前にもそう言ってましたよね。いや、いいんです。会えるなら、お礼が言いたいだけだから。それで、今日は捜査協力ですよね。もう知ってると思うけど、松村のことは覚えてないんですよ」
「わかってます。聞きたいのは、本田さんに」

 前山はそう言うと、若村に視線を向ける。すると、若村が胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

「本田さん、この男、ご存知ですよね?」

 差し出された写真には、一組の男女が写っていた。一人は理乃で、彼女の肩を抱くのは赤村だった。

 旅行へ出かけたときに撮影したものだろうか。紅葉が美しい山々を背景にした写真には、交際が順調だったことを示すかのような、笑顔のふたりがいた。

「赤村さんです」
「お会いしたことは?」
「先日、丸山商事の近くにあるクラウンホテルのレストランで会いました。確か、モーメントだったと思います」
「差し支えがなければおうかがいしたいのですが、どうしてお会いに?」

 若村は低姿勢だが、すべて調べ尽くしてから来ているのだろうと感じるほどの鋭敏な態度を崩さない。もとより、何も隠すつもりもないが、光莉は慎重に答える。

「父からお聞きになってると思いますが、私が日本へ来たのは、理乃を探すためです。アパートを何度か訪ねても会えなかったので、会社に電話をしました」
「そこで、赤村と会うことになった?」
「はい。理乃を探してると話したら、話がしたいと言われたんです。赤村さんにお会いしたのはそのときが初めてで、理乃とお付き合いしていたことも、そのときに知りました」

 赤村は妻の奇行を警察に知られたくないようだった。光莉と会うきっかけになった出来事は、詳細には話していないだろう。そう思って、光莉は赤村の妻には触れずに答えたが、若村が不自然に感じた様子はなかった。

「それで、赤村とはどんな話を?」
「理乃とは別れたって言ってました。だから、どこにいるかは知らないと」
「別れたのは、いつの話か聞きましたか?」
「はい。先月の……10日だって言っていたと思います。その2日後の12日に、退職するって理乃が一方的に電話をかけてきて困ってるとも言ってました」
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