記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

文字の大きさ
30 / 75
君を守りたくて

11

しおりを挟む
「そうですか。わかりました。我々は、松村理乃さんが亡くなられたのは、最後に出社した9月8日以降と考えています。それ以降、松村さんの姿を見たのは赤村以外にいません」

 やはり、そうなのか。理乃が行方不明になる前の足取りを知るのは、赤村しかいないのだろう。しかし、警察は理乃が亡くなった日を12日以降とは考えていないのだ。

「赤村さんが嘘をついてるって言うんですか?」
「そんなことは言ってません。それとも、赤村が嘘をついてると思うような何かがありますか?」

 若村は慎重に光莉の顔色をうかがう。

「理乃は本当に12日に会社へ電話をかけているんでしょうか? 赤村さんを疑うわけじゃないんですけど」
「電話はなかった、とお考えですか?」
「……わかりません」

 そう答えると、期待はずれだったのか、若村は息をつく。

「電話に関してですが、現在、録音を確認中です」
「録音があるんですか?」
「ええ。あのような会社では、トラブル対策がいくつも取られているんですよ」
「そうなんですね。よかった」

 光莉がほっと息をつくと、若村は前山と目配せするみたいにそっと目を合わせる。

 あんどしたのがそんなにおかしいのだろうかと思っていると、ふたたび、若村が尋ねてくる。

「あなたは9月8日以降、松村さんにお会いになっていませんか?」
「会ってないです」
「間違いないですか?」

 やけに念を押してくる。

「……もしかして、私を疑ってるんですか?」
「いえ、確認しているだけです。先月の8日から1週間、あなたは日本に滞在されてますね?」

 拓海が驚いたようにこちらを見たのがわかった。光莉にも、理乃を殺害できる時間があった。それを知って、彼は今、何を思うだろうか。

「仕事で来ていただけです。理乃に会いに来たわけじゃありません。理乃とは高校以来、ずっと会ってないんです」
「それなのに、父親と連絡が取れないと知って、日本に来られた?」
「それは……」
「それは?」
「父から聞いてますよね? 理乃からメールが来たんです。最初はいたずらか何かだと思ってたんですが、父から理乃と連絡が取れないと聞いて、メールを思い出しました。だから、理乃に何かあったんじゃないかって、気になって日本に来ることにしたんです」
「確かに、11日の夜、松村さんのスマートフォンからあなたのメールアドレスに、助けてという内容のメールが送信されています」
「じゃあ、やっぱりあのメールは理乃からのメールで間違いないんですね?」
「何者かが、松村さんが送ったかのように偽装したのでなければ」

 そう言って、若村は鋭い目で光莉を見つめた。

 警察は赤村か光莉が犯人じゃないかと疑っているのだろう。しかし、自分は理乃を殺していない。だとしたら、犯人はやはり赤村だろうか。

 理乃は赤村と別れた10日に殺害された。しかし、生きているように見せかけるため、11日に光莉にメールを送り、12日には会社へ電話があったと嘘をついている可能性がある。

「あなたのメールアドレスは仕事用ですよね? 松村さんには伝えていたのですか?」

 若村は質問を続ける。

「あ、いえ。メールアドレスは私が開設したホームページに載せてあるので、理乃はそれを見たのかもしれません」

 光莉は本名でフォトグラファーとして活動している。ホームページに顔写真は載せていないが、光莉にたどり着くのは難しくないだろう。いつか、ロサンゼルスに理乃がやってくるかもしれない。その覚悟はしていたが、意外にも彼女は現れなかった。日本で充実した日々を送っているのだろう。そう思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~

梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは 「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」 そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。 雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...