記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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君を守りたくて

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「今日はずいぶんと浮かない顔してるね。何か心配ごとでも?」

 お決まりのジントニックをひと口飲むなりため息をついた拓海に、基哉が気遣わしげにそう声をかけた。

「あ……、いや」

 拓海は首を振る。言いたいことはあるが、言えない。そんな態度でごまかす。刑事の若村が帰ってから、ずっとこの調子だ。

「話なら聞くよ」
「まあ、なんていうか……」

 煮え切らない態度の拓海を見かねて、光莉が口を開く。

「気になることがあるなら聞いてみたら?」

 彼がこちらをちらりと見る。何かを訴える目をしているが、それがなんなのかさっぱりわからなくて首をかしげる。すると、彼は大きなため息をつき、基哉に言いにくそうに尋ねる。

「その……、俺ってさ、いつも一人で来てた?」
「ここに? そうだね。一人だよ。それがどうかしたのかい?」

 基哉はきょとんとしてそう答える。たしか、光莉を連れてきた彼に、女の子を連れてくるのは初めてだと言っていたんだったか。

「もしかしたら、誰かと来てなかったかなって思ってさ」
「誰かって?」
「まあ……、彼女とか」

 気まずそうに拓海が目を伏せるから、基哉は「なるほど」と意味ありげに光莉や千華に目配せする。デリケートな話だから口を挟まないで、と言われたようだ。

 それに呼応するように、「チーズケーキ、食べます?」と、千華が聞いてくる。光莉は「食べるっ」と現金に身を乗り出しつつ、耳をそばだてる。

「正直言うと、女性関係で悩んでる感じはあったよ。相手の女性は知らない。拓海くんはいつも、一人でここへ来ていたからね」

 基哉がそう言うと、拓海は素直に驚いていた。自分のことだけれど、何も覚えていない彼にとって、寝耳に水の話だったようだ。

 しかし、特定の誰かとシオンに来ていたのかを知りたがったぐらいだ、多少は覚悟していたのだろう。さらに彼は興味深そうに尋ねた。

「付き合ってるって感じでした?」
「うーん、まあ、そうなのかな。最近付き合い始めたのか、いい雰囲気になってるって感じだったのか、そういう距離感なのかなって感じはしたよ」
「そっか。俺、悩んでたんですよね? 何に悩んでるか、基哉さんに話しました?」
「言っていいのかな?」
「この際」

 腹をくくったように彼はうなずく。開き直りと言った方がいいのか。

 それは基哉も同じようだ。「話すけど、傷つかないでくれよ」と前置きをして、気まずそうに言う。

「拓海くんさ、彼女に恋人がいるんじゃないかって悩んでたよ。まだ付き合いが浅いから、聞くに聞けないってよくこぼしてたな」
「そうだったんですか……」
「拓海くんがこんなことになっても、彼女が心配して様子見に来てくれてる感じもないから、やっぱりそうだったのかなって思って言えないでいたよ」

 申し訳なさそうに基哉は眉をさげる。拓海は本命の彼氏になれなかった。それを告げる彼もつらいだろう。店内にしんみりとした重い空気が漂う。
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