記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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君を守りたくて

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***


「理乃の声じゃ、ない?」

 アパートを訪れた若村の説明に、光莉は驚きの声をあげた。

 日に日に冷え込みが増す10月下旬の朝、温かいものが食べたいねと、このところ自炊するようになった拓海と一緒に買い物へ出かける準備をしていた光莉には、寝耳に水の出来事だった。

 若村はぎょろりとした目で、こちらを注意深く観察する。パッと見、優男っぽい美男子だが、やはり警視庁捜査一課の敏腕刑事にふさわしい眼力のある眼差しをしている。

 敏腕な刑事らしいと聞いたのは、端山署の前山とやりとりがある拓海からだ。なんでも、若村と前山は学生時代、先輩後輩の仲で、公私ともに交流があるらしい。

 今日はその前山はいない。拓海の転落事故に関する捜査とは関係のない用事で若村が来たのだとすぐに察しはついたが、思いもよらぬ報告に光莉は衝撃を受けていた。

「詳しく申し上げますと、9月12日に松村さんらしき女性から丸山商事へ電話があったという事実は確認されました。直接電話を受けたのは経理部の社員で、赤村は報告を受けたのみです」
「じゃあ、赤村さんは理乃の声を直接聞いてないんですね?」
「ええ。社員は松村理乃だと名乗った声に違和感がなく、そのまま赤村に報告したと言ってます。しかし、確認した音声は松村さんのものではありませんでした。別の誰かが松村さんを装って電話をかけてきたというわけです」

 ということは、理乃は12日の朝には亡くなっていた可能性が高い。光莉に助けを求めるメールを送ってきたとき、彼女は命を奪われるほどの自体に遭遇していた。そう思うと胸が苦しくなる。

「確か……なんですよね」
「はい。松村さんのスマートフォンに残っていた音声通話にて確認済みです」
「電話が録音してあったってことですか?」
「赤村との会話を松村さんが録音していたものです。不倫の証拠として残していたのでしょう」

 思わず、理乃らしい、と光莉は納得してしまった。赤村との交際が終わる時、彼の妻に嫌がらせしたのはやはり彼女自身なのだろう。

「そういう証拠って、たくさんあるんですか?」

 何やら思いついたように、拓海が口を挟む。

「そういう証拠とは?」
「あー、前に松村には新しい恋人がいるって話してたじゃないですか。赤村の証拠はあって、新しい恋人のはないのかなって」

 ほんの少し関心したように若村がうなずく。

「鋭い質問です。それなんですが、まったくありません。松村さんは新しい恋人との関係を誰にも知られたくなかったのかもしれません」
「なんでだろう」
「それは我々にもわかりません」

 若村の鋭い視線に気づいて、拓海は肩をすくめる。

「あっ、すみません。変なこと聞いて。それで、今日はそれを伝えるためにここへ?」
「我々は松村理乃さん殺害の犯人はふたりいると思っています」

 若村は淡々と言う。

「ふたり?」

 光莉は拓海と顔を合わせる。

 誰だろう。真っ先に浮かぶのは、やはり赤村だが、確証があるわけじゃない。いま、間違いなく事件に関わってると考えられるのは、理乃を装って会社に電話してきた女性だろう。

「12日に丸山商事へ電話をかけてきた女を重要参考人として探しています。松村さんはキャリーバッグに入れられて、東京湾に遺棄されました。女ひとりの力では難しいでしょう。必ず、協力者がいるはずです」
「電話をかけてきた女が、主犯格か協力者のどちらかってことですか?」

 拓海の尋ねに、若村は大きくうなずく。

「間違いないと思っています。そこで今日は、本田光莉さんに捜査の協力をお願いしたくやってきました」
「それって……」

 拓海がこちらへ視線を向けてきたとき、若村が神妙に言う。

「本田さん、あなたの声を電話の声と照合させてください」
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