67 / 75
10年後の約束
15
しおりを挟む
「やっぱり……、そうなんですね」
光莉は息をつく。
理乃は新しい恋人の存在を隠していたようだけれど、基哉はそうではなかったのだろうか。それは、堂々とした交際であった証拠と信じていいだろうか。
「やっぱりですか。疑う何かがありましたか?」
「拓海の持ってた腕時計です。あの腕時計が拓海のものじゃないなら、誰がバッグに入れられるのか考えました。どう考えても、基哉さんしかいないと思いました」
「なるほど。だから、先日、開店前のシオンにひとりで行かれた?」
「確かめたかったんです。違うならそれでいいと思ってました」
むしろ、違っていてほしいと思っていた。基哉にはめられようとした事実を知ったら、彼を慕う拓海は必ず傷つく。
「佐伯は認めましたか?」
「理乃のことは知らないって言ってました。シオンに来たこともないと」
「佐伯はあなたに嘘をついたようですね。松村さんは今年に入って佐伯基哉とシオンで出会い、春ごろから本格的に交際を始めたようです。赤村とは、その前からぎくしゃくするようになっていました」
「じゃあ、赤村さんとうまくいってないときに基哉さんに出会って……って感じでしょうか」
シオンには疲れを癒せる雰囲気がある。なんでも話せる聞き上手で優しい基哉と、存在感を薄れさせるのが上手な物静かな千華。お酒が入ると、つい愚痴っぽいことも話してしまうだろう。それを咎めもせず、とことん話を聞いてくれる基哉に、赤村との不倫関係に疲れていた理乃が心惹かれてもおかしくない。
「……ちょっとすみません」
若村が電話口を塞いだようだ。話し声が遠くなる。それほど待たず、ふたたび、若村が電話に出る。
「前山がシオンに到着しましたが、臨時休業になっているようです。本田さんは、いまどこに?」
「私は……」
光莉は顔をあげ、振り返る。入り口の階段から上がってきた千華の姿が目に止まる。
千華は小さく頭を下げた。手には買い物袋をさげている。スーパーへ行った帰りだろうか。
「本田さん?」
若村がいぶかしむ。
「ああ、すみません。アパートにいます」
「わかりました。佐伯には松村理乃殺害容疑がかかっています。念のため、そのままアパートにいてください。また連絡します」
すぐに電話が切れると、光莉は千華に近づいた。
「お店は? もう開店の時間ですよね?」
何食わぬ顔で尋ねると、千華は買い物袋を持ち上げて見せる。
「兄の体調が良くないので、今日はお休みして、ちょっと買い出しに。本田さんの後ろ姿が見えたので、ついて来ちゃいました」
「体調、大丈夫ですか?」
「はい。少し休めば、よくなると思います。本田さんはどうしてここに?」
「もしかしたら、理乃はここで殺されたんじゃないかって思って」
「何か証拠でも見つかったんですか?」
「基哉さん、理乃と付き合っていたそうですね」
少しぐらい驚いてもよさそうなものなのに、千華は表情を変えず、落ち着き払っている。知っていたのだろう、彼女は。もちろん。あたりまえのように。
光莉は息をつく。
理乃は新しい恋人の存在を隠していたようだけれど、基哉はそうではなかったのだろうか。それは、堂々とした交際であった証拠と信じていいだろうか。
「やっぱりですか。疑う何かがありましたか?」
「拓海の持ってた腕時計です。あの腕時計が拓海のものじゃないなら、誰がバッグに入れられるのか考えました。どう考えても、基哉さんしかいないと思いました」
「なるほど。だから、先日、開店前のシオンにひとりで行かれた?」
「確かめたかったんです。違うならそれでいいと思ってました」
むしろ、違っていてほしいと思っていた。基哉にはめられようとした事実を知ったら、彼を慕う拓海は必ず傷つく。
「佐伯は認めましたか?」
「理乃のことは知らないって言ってました。シオンに来たこともないと」
「佐伯はあなたに嘘をついたようですね。松村さんは今年に入って佐伯基哉とシオンで出会い、春ごろから本格的に交際を始めたようです。赤村とは、その前からぎくしゃくするようになっていました」
「じゃあ、赤村さんとうまくいってないときに基哉さんに出会って……って感じでしょうか」
シオンには疲れを癒せる雰囲気がある。なんでも話せる聞き上手で優しい基哉と、存在感を薄れさせるのが上手な物静かな千華。お酒が入ると、つい愚痴っぽいことも話してしまうだろう。それを咎めもせず、とことん話を聞いてくれる基哉に、赤村との不倫関係に疲れていた理乃が心惹かれてもおかしくない。
「……ちょっとすみません」
若村が電話口を塞いだようだ。話し声が遠くなる。それほど待たず、ふたたび、若村が電話に出る。
「前山がシオンに到着しましたが、臨時休業になっているようです。本田さんは、いまどこに?」
「私は……」
光莉は顔をあげ、振り返る。入り口の階段から上がってきた千華の姿が目に止まる。
千華は小さく頭を下げた。手には買い物袋をさげている。スーパーへ行った帰りだろうか。
「本田さん?」
若村がいぶかしむ。
「ああ、すみません。アパートにいます」
「わかりました。佐伯には松村理乃殺害容疑がかかっています。念のため、そのままアパートにいてください。また連絡します」
すぐに電話が切れると、光莉は千華に近づいた。
「お店は? もう開店の時間ですよね?」
何食わぬ顔で尋ねると、千華は買い物袋を持ち上げて見せる。
「兄の体調が良くないので、今日はお休みして、ちょっと買い出しに。本田さんの後ろ姿が見えたので、ついて来ちゃいました」
「体調、大丈夫ですか?」
「はい。少し休めば、よくなると思います。本田さんはどうしてここに?」
「もしかしたら、理乃はここで殺されたんじゃないかって思って」
「何か証拠でも見つかったんですか?」
「基哉さん、理乃と付き合っていたそうですね」
少しぐらい驚いてもよさそうなものなのに、千華は表情を変えず、落ち着き払っている。知っていたのだろう、彼女は。もちろん。あたりまえのように。
0
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる