記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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理乃の行方

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 それは、親友の光莉以外には内緒だったのに、陽奈は理乃に話した。光莉にはそれがショックだった。

「違う……」

 光莉は陽奈に向かって首を振った。だけど、とうとう陽奈は泣き出して、そこへ信がやってきて、理乃が言った。「光莉ちゃんが陽奈ちゃんにひどいことしたの」って。信は理乃を簡単に信じた。「お前、最低だな」って光莉を突き飛ばした。

 お尻が地面にぶつかって、全身に悲鳴をあげるような痛みが走った。

 光莉は悔しくて、初めて泣きながら家に帰った。専業主婦だった母は、毎日手作りのクッキーを用意して光莉の帰りを待っていた。いつも心配させないように笑顔でクッキーを食べていたけど、その日はダメだった。

 汚れたスカートに気づいた母は、「何があったの?」と、泣きじゃくる光莉の返事を辛抱強く待った。

 光莉はそのとき初めて、「理乃ちゃんが怖い」と告白した。あのときの母の険しい表情は今でも覚えている。

「理乃って?」
「松村理乃ちゃん。転校生だよ」

 その名前を聞いたとき、母は真っ青になった。すぐにリビングにある電話に飛びついて、どこかへかけていた。

 次の日、光莉は両親に連れられて学校へ行った。両親は光莉の置かれた状況を先生から聞くと、夏休み中に転校すると告げた。

 光莉は負けたようで嫌だった。だけど、母が「どうにもならないこともあるから逃げよう。光莉は悪くないよ。戦っちゃいけない相手もいるの」と言った。そのときの母の言葉は印象的だった。

 いつだったか、いつも穏やかな母と優しい父の口論を耳にしたことがある。

「でも、あなた、真理子まりこさんがわざと光莉のいる小学校に理乃ちゃんを転校させたとしか思えない」
「まさか。そんな執着みたいなことあるわけがない」
「あなたっ、まだそんなこと言うの? 光莉がどんな目に遭ったか、あなたも聞いたでしょう? 真理子さんはそういう人よ。理乃ちゃんに吹き込んでるのよ。光莉は理乃ちゃんからお父さんを奪った娘だって!」
「考えすぎだ」
「考えすぎなんかじゃないわっ! 約束して。また光莉の前に理乃ちゃんが現れるようなことがあれば、必ず、光莉を守るって!」
「ああ、わかった。そのときは、真理子も理乃も決して簡単には来れない場所へ行こう。わかったからもう……、この話はしないでくれ」

 中学生になり、光莉が学校に馴染めるようになった頃、父が「光莉と理乃は、お母さんの違う姉妹なんだよ」と教えてくれた。

 子ども心に、理乃はお父さんを奪った私に嫌がらせしたんだ、と思った。そして、理乃はまた必ず、自分の前に現れる。そんな気もしていた。

 だから、高校2年の夏休み明け、理乃が転校生として光莉の前に現れたとき、とうとうこの日が来たんだと思った。幸せだった高校生活が終わる日を覚悟したのだ。
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