17 / 75
理乃の行方
6
しおりを挟む
それは、親友の光莉以外には内緒だったのに、陽奈は理乃に話した。光莉にはそれがショックだった。
「違う……」
光莉は陽奈に向かって首を振った。だけど、とうとう陽奈は泣き出して、そこへ信がやってきて、理乃が言った。「光莉ちゃんが陽奈ちゃんにひどいことしたの」って。信は理乃を簡単に信じた。「お前、最低だな」って光莉を突き飛ばした。
お尻が地面にぶつかって、全身に悲鳴をあげるような痛みが走った。
光莉は悔しくて、初めて泣きながら家に帰った。専業主婦だった母は、毎日手作りのクッキーを用意して光莉の帰りを待っていた。いつも心配させないように笑顔でクッキーを食べていたけど、その日はダメだった。
汚れたスカートに気づいた母は、「何があったの?」と、泣きじゃくる光莉の返事を辛抱強く待った。
光莉はそのとき初めて、「理乃ちゃんが怖い」と告白した。あのときの母の険しい表情は今でも覚えている。
「理乃って?」
「松村理乃ちゃん。転校生だよ」
その名前を聞いたとき、母は真っ青になった。すぐにリビングにある電話に飛びついて、どこかへかけていた。
次の日、光莉は両親に連れられて学校へ行った。両親は光莉の置かれた状況を先生から聞くと、夏休み中に転校すると告げた。
光莉は負けたようで嫌だった。だけど、母が「どうにもならないこともあるから逃げよう。光莉は悪くないよ。戦っちゃいけない相手もいるの」と言った。そのときの母の言葉は印象的だった。
いつだったか、いつも穏やかな母と優しい父の口論を耳にしたことがある。
「でも、あなた、真理子さんがわざと光莉のいる小学校に理乃ちゃんを転校させたとしか思えない」
「まさか。そんな執着みたいなことあるわけがない」
「あなたっ、まだそんなこと言うの? 光莉がどんな目に遭ったか、あなたも聞いたでしょう? 真理子さんはそういう人よ。理乃ちゃんに吹き込んでるのよ。光莉は理乃ちゃんからお父さんを奪った娘だって!」
「考えすぎだ」
「考えすぎなんかじゃないわっ! 約束して。また光莉の前に理乃ちゃんが現れるようなことがあれば、必ず、光莉を守るって!」
「ああ、わかった。そのときは、真理子も理乃も決して簡単には来れない場所へ行こう。わかったからもう……、この話はしないでくれ」
中学生になり、光莉が学校に馴染めるようになった頃、父が「光莉と理乃は、お母さんの違う姉妹なんだよ」と教えてくれた。
子ども心に、理乃はお父さんを奪った私に嫌がらせしたんだ、と思った。そして、理乃はまた必ず、自分の前に現れる。そんな気もしていた。
だから、高校2年の夏休み明け、理乃が転校生として光莉の前に現れたとき、とうとうこの日が来たんだと思った。幸せだった高校生活が終わる日を覚悟したのだ。
「違う……」
光莉は陽奈に向かって首を振った。だけど、とうとう陽奈は泣き出して、そこへ信がやってきて、理乃が言った。「光莉ちゃんが陽奈ちゃんにひどいことしたの」って。信は理乃を簡単に信じた。「お前、最低だな」って光莉を突き飛ばした。
お尻が地面にぶつかって、全身に悲鳴をあげるような痛みが走った。
光莉は悔しくて、初めて泣きながら家に帰った。専業主婦だった母は、毎日手作りのクッキーを用意して光莉の帰りを待っていた。いつも心配させないように笑顔でクッキーを食べていたけど、その日はダメだった。
汚れたスカートに気づいた母は、「何があったの?」と、泣きじゃくる光莉の返事を辛抱強く待った。
光莉はそのとき初めて、「理乃ちゃんが怖い」と告白した。あのときの母の険しい表情は今でも覚えている。
「理乃って?」
「松村理乃ちゃん。転校生だよ」
その名前を聞いたとき、母は真っ青になった。すぐにリビングにある電話に飛びついて、どこかへかけていた。
次の日、光莉は両親に連れられて学校へ行った。両親は光莉の置かれた状況を先生から聞くと、夏休み中に転校すると告げた。
光莉は負けたようで嫌だった。だけど、母が「どうにもならないこともあるから逃げよう。光莉は悪くないよ。戦っちゃいけない相手もいるの」と言った。そのときの母の言葉は印象的だった。
いつだったか、いつも穏やかな母と優しい父の口論を耳にしたことがある。
「でも、あなた、真理子さんがわざと光莉のいる小学校に理乃ちゃんを転校させたとしか思えない」
「まさか。そんな執着みたいなことあるわけがない」
「あなたっ、まだそんなこと言うの? 光莉がどんな目に遭ったか、あなたも聞いたでしょう? 真理子さんはそういう人よ。理乃ちゃんに吹き込んでるのよ。光莉は理乃ちゃんからお父さんを奪った娘だって!」
「考えすぎだ」
「考えすぎなんかじゃないわっ! 約束して。また光莉の前に理乃ちゃんが現れるようなことがあれば、必ず、光莉を守るって!」
「ああ、わかった。そのときは、真理子も理乃も決して簡単には来れない場所へ行こう。わかったからもう……、この話はしないでくれ」
中学生になり、光莉が学校に馴染めるようになった頃、父が「光莉と理乃は、お母さんの違う姉妹なんだよ」と教えてくれた。
子ども心に、理乃はお父さんを奪った私に嫌がらせしたんだ、と思った。そして、理乃はまた必ず、自分の前に現れる。そんな気もしていた。
だから、高校2年の夏休み明け、理乃が転校生として光莉の前に現れたとき、とうとうこの日が来たんだと思った。幸せだった高校生活が終わる日を覚悟したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる