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元彼は記憶喪失
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拓海の部屋から理乃の部屋が確認できる。
彼の誘いは、理乃の行方を探す光莉にとって渡りに船だった。今日は思わぬ形で、理乃の不倫相手の存在を知ったが、それ以外は何もわかっていない。
もしかしたら、ほかにも誰か訪ねてくるかもしれないし、理乃が帰ってくるところを見つけられるかもしれない。
何度もアパートを訪ねたところで、理乃に会える確証のない光莉は、「じゃあ、ちょっとだけ」と拓海に言った。
拓海は酔いが覚めたみたいにひどく驚いた顔をしたが、誘ったときと同様、あたふたしながら光莉を部屋に案内した。
玄関を入ると、目の前には細長い廊下があった。その先にドアがある。拓海について廊下を進む。
ドアを開いた彼は、「あっ!」と声をあげ、ソファーの上に散らかった衣類をかき集めると、隣の部屋へ投げ込み、テーブルの上に雑然と乗る新聞やリモコン、ティッシュ、お菓子を、腕を使って一気にふちに寄せた。
それで片付けたつもりなのだろう。拓海はソファーの上を手ではらい、汚れがないのを確認すると、光莉に座るよう促す。
「汚くてごめん」
「急に来たのは、私だから。ねぇ、外見ていい?」
部屋の汚れより、興味はほかにある。光莉はソファーには座らず、テーブルの横を通って、ブルーのカーテンに近づいた。
「いいよ。正面に玄関が見えるはずだよ」
光莉はカーテンの割れ目に指を差し込み、隙間からそっと外をのぞいた。
拓海の言う通り、B棟の集合ポストの隣にある101号室のドアが正面に見える。102号室からその隣は、二階につながる階段のかげになっていてよく見えない。とすると、A棟の102号室からでは階段が邪魔をして、101号室のドアは見えないだろう。理乃の部屋が見えるのは、拓海の部屋からだけのようだ。
「見えるだろ?」
「うん。ここなら、誰か来たらわかりそうだね」
「って言ってもさ、ずっと見てるわけにもいかないよな。カメラ回しておくわけにもいかないしさ」
拓海は缶コーヒーを二つ、ローテーブルの上に置きながら、そう言った。
「それ、いいかも」
「いいかも?」
「三脚ない? スマホ用の」
一眼レフカメラは宿泊するホテルに置いてきてしまった。こんなことがあるなら持って来ればよかったと悔いながら、光莉はショルダーバッグからスマートフォンを取り出す。
「撮影する? だったら、俺の使えよ。……ああ、そうだ。パソコンにつないで、ここに座りながら見れるようにするか」
途中からひとりごとのようになって、拓海は衣類を放り込んだ隣の部屋へ入っていく。
シーツがくしゃくしゃになったベッドの周囲には、カメラの収納用らしきケースがいくつも置かれている。ベッドに座りながら、カメラいじりしている彼の姿が浮かぶ。カメラ以外のことに無頓着な性格はきっと変わらないのだろう。
「いくら、不倫相手の奥さんだって言ってもさ、殴るなんてひどいよな。被害届出してもいいぐらいだよ。何度も来られたら怖いしさ、証拠写真あるといいよな」
カメラを首から下げ、三脚とノートパソコンを手に、そう言いながら、拓海は部屋を出てくる。
「あ……、不倫相手とかって、いやな言い方だよな。ごめん。出会うタイミングが悪かっただけなのに」
「別にいいよ。気にしてない。それより、そのカメラ、動画撮影できるの?」
拓海の擁護にちょっとおかしくなってしまう。光莉は笑いをこらえてカメラをのぞき込む。
「ああ、うん。これ、最新のミラーレス一眼カメラ。長時間の動画撮影ができて、ライブ配信もできる。すごいやつなんだよ」
「さすが、拓海。新しいものには目がないね」
「新しいものだけじゃなくてさ、年代物もコレクションしてる。これ、設置したら見せるよ。光莉が羨ましがるカメラもきっとあるよ」
こうなったら、拓海は止まらないだろう。
あんなカメラオタク、どこがいいんだって、付き合い始めた当初、友人の美帆にからかわれたんだった。どんなことだろうと、何かに夢中になってる男の人はカッコいい。そう言ったらあきれられたが、今でも光莉の好みは変わっていない。
早速、拓海は窓の前に三脚を立てると、カーテンの隙間から外をのぞかせるようにカメラを設置して、モニターを確認する。
ちょうど、B棟の住人が帰宅したようだ。隠し撮りして申し訳ないと言いながら、暗闇でもはっきりと顔が写るように調整し、それが終わると、ローテーブルに乗せたノートパソコンに映像をつなげた。
「このパソコン、仕事で使ってるんじゃないの?」
キーボードの下に、ドックスのロゴである犬のシールが貼ってあるのに気づいて尋ねると、拓海はあっさりとうなずく。
彼の誘いは、理乃の行方を探す光莉にとって渡りに船だった。今日は思わぬ形で、理乃の不倫相手の存在を知ったが、それ以外は何もわかっていない。
もしかしたら、ほかにも誰か訪ねてくるかもしれないし、理乃が帰ってくるところを見つけられるかもしれない。
何度もアパートを訪ねたところで、理乃に会える確証のない光莉は、「じゃあ、ちょっとだけ」と拓海に言った。
拓海は酔いが覚めたみたいにひどく驚いた顔をしたが、誘ったときと同様、あたふたしながら光莉を部屋に案内した。
玄関を入ると、目の前には細長い廊下があった。その先にドアがある。拓海について廊下を進む。
ドアを開いた彼は、「あっ!」と声をあげ、ソファーの上に散らかった衣類をかき集めると、隣の部屋へ投げ込み、テーブルの上に雑然と乗る新聞やリモコン、ティッシュ、お菓子を、腕を使って一気にふちに寄せた。
それで片付けたつもりなのだろう。拓海はソファーの上を手ではらい、汚れがないのを確認すると、光莉に座るよう促す。
「汚くてごめん」
「急に来たのは、私だから。ねぇ、外見ていい?」
部屋の汚れより、興味はほかにある。光莉はソファーには座らず、テーブルの横を通って、ブルーのカーテンに近づいた。
「いいよ。正面に玄関が見えるはずだよ」
光莉はカーテンの割れ目に指を差し込み、隙間からそっと外をのぞいた。
拓海の言う通り、B棟の集合ポストの隣にある101号室のドアが正面に見える。102号室からその隣は、二階につながる階段のかげになっていてよく見えない。とすると、A棟の102号室からでは階段が邪魔をして、101号室のドアは見えないだろう。理乃の部屋が見えるのは、拓海の部屋からだけのようだ。
「見えるだろ?」
「うん。ここなら、誰か来たらわかりそうだね」
「って言ってもさ、ずっと見てるわけにもいかないよな。カメラ回しておくわけにもいかないしさ」
拓海は缶コーヒーを二つ、ローテーブルの上に置きながら、そう言った。
「それ、いいかも」
「いいかも?」
「三脚ない? スマホ用の」
一眼レフカメラは宿泊するホテルに置いてきてしまった。こんなことがあるなら持って来ればよかったと悔いながら、光莉はショルダーバッグからスマートフォンを取り出す。
「撮影する? だったら、俺の使えよ。……ああ、そうだ。パソコンにつないで、ここに座りながら見れるようにするか」
途中からひとりごとのようになって、拓海は衣類を放り込んだ隣の部屋へ入っていく。
シーツがくしゃくしゃになったベッドの周囲には、カメラの収納用らしきケースがいくつも置かれている。ベッドに座りながら、カメラいじりしている彼の姿が浮かぶ。カメラ以外のことに無頓着な性格はきっと変わらないのだろう。
「いくら、不倫相手の奥さんだって言ってもさ、殴るなんてひどいよな。被害届出してもいいぐらいだよ。何度も来られたら怖いしさ、証拠写真あるといいよな」
カメラを首から下げ、三脚とノートパソコンを手に、そう言いながら、拓海は部屋を出てくる。
「あ……、不倫相手とかって、いやな言い方だよな。ごめん。出会うタイミングが悪かっただけなのに」
「別にいいよ。気にしてない。それより、そのカメラ、動画撮影できるの?」
拓海の擁護にちょっとおかしくなってしまう。光莉は笑いをこらえてカメラをのぞき込む。
「ああ、うん。これ、最新のミラーレス一眼カメラ。長時間の動画撮影ができて、ライブ配信もできる。すごいやつなんだよ」
「さすが、拓海。新しいものには目がないね」
「新しいものだけじゃなくてさ、年代物もコレクションしてる。これ、設置したら見せるよ。光莉が羨ましがるカメラもきっとあるよ」
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早速、拓海は窓の前に三脚を立てると、カーテンの隙間から外をのぞかせるようにカメラを設置して、モニターを確認する。
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