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佐鳥姫の憂鬱 〜朝日を羨む夜の月〜
二番目の恋 8
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***
久しぶりに夜間瀬先生の部屋を訪れるのは、予想以上に緊張した。それは最後に会った日、彼が玄関に鍵をかけていて、私を拒絶するようだったからかもしれない。
最初から受け入れてもらえていたわけではないのだから傷つく必要などなかったのにと思いながら、ドアノブに手をかける。
ドアノブはゆっくりと回る。私の来訪は拒絶されていなかった。ホッと安堵した私は、次の瞬間には息を飲んでいた。
ドアを大きく開いてポーチに足を踏み込んだ私の目に赤いハイヒールが飛び込んでくる。
驚く必要はない。私だって出入りを許されているのだ。他の女性が同様な扱いを受けていても不思議じゃない。そう思うのに、心臓は破裂しそうなほどバクバクしている。
「大志、じゃあ帰るわ。また来るわね。あなたと過ごす時間は特別よ」
少し甲高い、通る声が玄関まで届く。
おかしいぐらい不安になる。先生のことを好きな女性はたくさんいて、どの女性も迫るから相手にするだけで。それだけなのに、恐怖に似た感情で複雑に胸がつまる。
彼が私を部屋に入れてくれるのは、特別だとでも思っていたのか。
「あら……」
リビングから出てきた女性が私を見つけて立ち止まる。
ゆるいウェーブを描く長い茶髪は艶やかで、茶色の瞳は強さと美しさを兼ね備えている。
聡明な人。先生が遊びで付き合うような女の子とは違う。綺麗な大人の女性。
「灯華?」
彼女の後ろに姿を見せたのは夜間瀬先生だ。彼もまた私を認めると、わずかに眉をひそめる。急激に襲われる疎外感に耐えきれず、玄関を飛び出そうとするが、足が震えて動けない。
それでも、帰らなきゃと身体を反転させようとした時、灯華と呼ばれた女性を押しのけた先生が走って私に向かってくる。
「佐鳥くんっ」
夜間瀬先生は私の手首をつかむ。まるで帰らなくていいと言われてるみたいで安堵したいのに震えがおさまらない。
「先生……」
「いいから」
先生はそう言って灯華さんを振り返る。
「用が済んだなら帰ってくれ」
「ふーん、佐鳥華南には甘いのね。あなたの夢を叶えるかもしれない御簾路のご令嬢だものね。利用価値がなくなるまでは優しくするわよね、当然」
彼女が挑戦的に冷ややかに言うと、私をつかむ彼の手に力がこもる。
痛い、と思ったけれど、殺気だった先生の背中を見たら声が出ない。
「余計なことばかり言ってないで帰るんだ」
「帰るわよ、もちろん。またデートしましょうね、大志」
灯華さんは魅惑的な笑みを浮かべたまま赤いハイヒールを履くと、私と先生の前を通り過ぎて帰っていく。
彼女が勢い良く押したドアが閉じた途端、先生は内鍵をかけ、私の手を引いた。
久しぶりに夜間瀬先生の部屋を訪れるのは、予想以上に緊張した。それは最後に会った日、彼が玄関に鍵をかけていて、私を拒絶するようだったからかもしれない。
最初から受け入れてもらえていたわけではないのだから傷つく必要などなかったのにと思いながら、ドアノブに手をかける。
ドアノブはゆっくりと回る。私の来訪は拒絶されていなかった。ホッと安堵した私は、次の瞬間には息を飲んでいた。
ドアを大きく開いてポーチに足を踏み込んだ私の目に赤いハイヒールが飛び込んでくる。
驚く必要はない。私だって出入りを許されているのだ。他の女性が同様な扱いを受けていても不思議じゃない。そう思うのに、心臓は破裂しそうなほどバクバクしている。
「大志、じゃあ帰るわ。また来るわね。あなたと過ごす時間は特別よ」
少し甲高い、通る声が玄関まで届く。
おかしいぐらい不安になる。先生のことを好きな女性はたくさんいて、どの女性も迫るから相手にするだけで。それだけなのに、恐怖に似た感情で複雑に胸がつまる。
彼が私を部屋に入れてくれるのは、特別だとでも思っていたのか。
「あら……」
リビングから出てきた女性が私を見つけて立ち止まる。
ゆるいウェーブを描く長い茶髪は艶やかで、茶色の瞳は強さと美しさを兼ね備えている。
聡明な人。先生が遊びで付き合うような女の子とは違う。綺麗な大人の女性。
「灯華?」
彼女の後ろに姿を見せたのは夜間瀬先生だ。彼もまた私を認めると、わずかに眉をひそめる。急激に襲われる疎外感に耐えきれず、玄関を飛び出そうとするが、足が震えて動けない。
それでも、帰らなきゃと身体を反転させようとした時、灯華と呼ばれた女性を押しのけた先生が走って私に向かってくる。
「佐鳥くんっ」
夜間瀬先生は私の手首をつかむ。まるで帰らなくていいと言われてるみたいで安堵したいのに震えがおさまらない。
「先生……」
「いいから」
先生はそう言って灯華さんを振り返る。
「用が済んだなら帰ってくれ」
「ふーん、佐鳥華南には甘いのね。あなたの夢を叶えるかもしれない御簾路のご令嬢だものね。利用価値がなくなるまでは優しくするわよね、当然」
彼女が挑戦的に冷ややかに言うと、私をつかむ彼の手に力がこもる。
痛い、と思ったけれど、殺気だった先生の背中を見たら声が出ない。
「余計なことばかり言ってないで帰るんだ」
「帰るわよ、もちろん。またデートしましょうね、大志」
灯華さんは魅惑的な笑みを浮かべたまま赤いハイヒールを履くと、私と先生の前を通り過ぎて帰っていく。
彼女が勢い良く押したドアが閉じた途端、先生は内鍵をかけ、私の手を引いた。
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