14 / 56
まわり始める運命の時計
14
しおりを挟む「あの……、ありがとうございます」
ショップを出るとすぐ、真咲さんに頭を下げた。流れで拒む間もなくプレゼントしてもらってしまった。
短時間の買い物に関わらず、高級なものをプレゼントされた気がしている。それなのにひどく満足している自分がいることにも戸惑っている。
「いや、俺の気持ちだから。これから一緒に暮らすんです。親睦を深めるためでもあります」
「お兄ちゃんみたいなことしてくれようとしてるなら、……あんまり気は遣わなくても大丈夫ですから」
「そうですか……」
「でも、ワンピース、お気に入りだったので、古谷さんにワンピースはそのままでって言ってもらえて嬉しかったです」
そう言うと、真咲さんはわずかに目を細めて微笑む。
「悠紀さんもお気に入りだったんですね。でもわかります。とても可憐ですから」
「あ……、気に入りってそういう……」
私の気持ちを見透かしたのではなく、古谷さんが気に入ってくれていたのだと知り、私は恥ずかしさで赤くなりながら、うつむいて歩く。
「少しずつ、外出しましょう。もちろん、ミカドくんも一緒に」
「……気が向いたら」
「そうですね。気が向いた時にでも。ミカドくんを連れて公園に行くのもいいですね」
「ミカドと散歩? じゃあ、リードが必要ですね」
自分でも不思議なぐらい前向きな発言をして困惑しつつも、ミカドと散歩できるなんて考えたこともなくて心が踊るように震える。
「見に行きましょうか。ここはペットグッズも充実してますから」
「ミカド、首輪もしたことないけど」
「ミカドくんも気に入りのものが見つかるといいですね」
「あ、その前に写真立てを」
「そうでした。せっかくですから、いろいろ見て回りましょう」
真咲さんは慣れた様子でデパートの中を進んでいく。どの階に何があるのか知り尽くしているみたいだ。
エスカレーターをいくつか上がり、正面にあるおしゃれな雑貨屋にも彼は物怖じすることなく進む。すべて計算されているみたいな動きに、戸惑いがないわけではない。
私は彼の考えたデートプランに乗せられているのかもしれない。だとしたら、彼は前から私をデートに誘おうとしてくれていたのか。いや、そもそもこれはデートでもなんでもないかもしれない。
「これはどうですか?」
真咲さんは奥の棚に並べられたフォトフレームを一つ手に取る。取り留めのないことを考えていた私はハッとする。彼が手にしていたのは、二つ折りのフォトフレームだ。
「写真は一枚だから」
「また増えますよ。遼に会えた時に」
「え……」
「会えますよ。遼が悠紀さんを忘れるはずはないんです」
やけに断言するから、私もそんな気がしてきて小さくうなずく。少なくとも、真咲さんは私よりも兄の遼のことをよく知っている。だから私は素直に従う。
「じゃあ、写真が何枚か納められるものにします」
結局最初に真咲さんが勧めてくれたフォトフレームを購入した。どうにも彼は私の趣味を熟知しているようだったし、人は最初に見せられたものをよく思うものかもしれない。
それから屋上にあるペットショップへとやってきた。ショップの前にはドッグランがあり、その周囲では食事のできるガーデンがある。
寒空の下に散歩をする客の姿は少ないが、ショーでもあるのだろう、特設ステージの建てられたブースの前にはまばらに客が集まっている。
「催眠術師のショーみたいですね。動物に催眠術でもかけるんでしょうか」
真咲さんはショップの入り口に貼られたポスターを眺めながら、なんだか楽しげに口元をゆるめる。
「柳さんもよくもまあ飽きもせず、次々とビジネスに挑戦される」
「知ってる人?」
「インチキ催眠術師として一時期有名でしたよ。テレビにも出演されてましたが、今はどこで何をされているのかと気にかかっていました」
「インチキなの?」
「何をインチキというのか。定義の問題かもしれませんね」
「じゃあ、ホンモノ?」
「ショービジネスとして成功している。そういう意味ではホンモノでしょうね」
真咲さんは「お元気なら良かった」とそっと吐き出すと、私の持つペットキャリーに視線を落とす。
「ミカドくんは出てきても大丈夫ですよ。退屈してるのではないですか?」
そう言って、真咲さんはペットキャリーのふたを開ける。待ってましたとばかりに顔を出すミカドだが、目の前にいる真咲さんに驚いて、すぐさま顔を引っ込める。
そんなミカドの姿を微笑ましく見つめる真咲さんは、キャリーの持ち手をつかむ。
「キャリーは持ちますから、ミカドくんを」
ミカドのことまで気にしてくれる真咲さんは優しい人だ。ミカドを抱き上げると、彼も興味津々に真咲さんを見上げている。
彼がなついてくれるなら、悪い人ではないだろうと思うのは短絡的か。こうして一緒に出かけているのに悪い人かもしれないなんて思うのは今更か。
私たちはペットショップの中へと進む。
彼は辺りをゆっくりと見回して、目的もなく歩き出す。私はついていくだけだ。私も初めて来るペットショップだから、お目当てのものがどこにあるかわからない。
「悠紀さん、あの首輪はどうですか?」
突然真咲さんは歩を速める。棚に貼られた小さなポスターを興味津々に眺め、その隣にある首輪を手に取る。
「アルファベットのパーツを並べて首輪につけられるようです」
「イニシャルを入れるんですか?」
「ミカドくん専用の首輪が出来ますね。お散歩の時だけなら、ミカドくんもストレスをあまり感じないでつけれるといいですが」
「わからないけど、お散歩に行くなら必要だから買ってみます」
「そうですね。おそろいのリードもあるようだし、ミカドくんに似合うものを選びましょう。悠紀さんは何色がいいですか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる