非才の催眠術師

水城ひさぎ

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まわり始める運命の時計

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「あの……、ありがとうございます」

 ショップを出るとすぐ、真咲さんに頭を下げた。流れで拒む間もなくプレゼントしてもらってしまった。

 短時間の買い物に関わらず、高級なものをプレゼントされた気がしている。それなのにひどく満足している自分がいることにも戸惑っている。

「いや、俺の気持ちだから。これから一緒に暮らすんです。親睦を深めるためでもあります」
「お兄ちゃんみたいなことしてくれようとしてるなら、……あんまり気は遣わなくても大丈夫ですから」
「そうですか……」
「でも、ワンピース、お気に入りだったので、古谷さんにワンピースはそのままでって言ってもらえて嬉しかったです」

 そう言うと、真咲さんはわずかに目を細めて微笑む。

「悠紀さんもお気に入りだったんですね。でもわかります。とても可憐ですから」
「あ……、気に入りってそういう……」

 私の気持ちを見透かしたのではなく、古谷さんが気に入ってくれていたのだと知り、私は恥ずかしさで赤くなりながら、うつむいて歩く。

「少しずつ、外出しましょう。もちろん、ミカドくんも一緒に」
「……気が向いたら」
「そうですね。気が向いた時にでも。ミカドくんを連れて公園に行くのもいいですね」
「ミカドと散歩? じゃあ、リードが必要ですね」

 自分でも不思議なぐらい前向きな発言をして困惑しつつも、ミカドと散歩できるなんて考えたこともなくて心が踊るように震える。

「見に行きましょうか。ここはペットグッズも充実してますから」
「ミカド、首輪もしたことないけど」
「ミカドくんも気に入りのものが見つかるといいですね」
「あ、その前に写真立てを」
「そうでした。せっかくですから、いろいろ見て回りましょう」

 真咲さんは慣れた様子でデパートの中を進んでいく。どの階に何があるのか知り尽くしているみたいだ。

 エスカレーターをいくつか上がり、正面にあるおしゃれな雑貨屋にも彼は物怖じすることなく進む。すべて計算されているみたいな動きに、戸惑いがないわけではない。

 私は彼の考えたデートプランに乗せられているのかもしれない。だとしたら、彼は前から私をデートに誘おうとしてくれていたのか。いや、そもそもこれはデートでもなんでもないかもしれない。

「これはどうですか?」

 真咲さんは奥の棚に並べられたフォトフレームを一つ手に取る。取り留めのないことを考えていた私はハッとする。彼が手にしていたのは、二つ折りのフォトフレームだ。

「写真は一枚だから」
「また増えますよ。遼に会えた時に」
「え……」
「会えますよ。遼が悠紀さんを忘れるはずはないんです」

 やけに断言するから、私もそんな気がしてきて小さくうなずく。少なくとも、真咲さんは私よりも兄の遼のことをよく知っている。だから私は素直に従う。

「じゃあ、写真が何枚か納められるものにします」

 結局最初に真咲さんが勧めてくれたフォトフレームを購入した。どうにも彼は私の趣味を熟知しているようだったし、人は最初に見せられたものをよく思うものかもしれない。

 それから屋上にあるペットショップへとやってきた。ショップの前にはドッグランがあり、その周囲では食事のできるガーデンがある。

 寒空の下に散歩をする客の姿は少ないが、ショーでもあるのだろう、特設ステージの建てられたブースの前にはまばらに客が集まっている。

「催眠術師のショーみたいですね。動物に催眠術でもかけるんでしょうか」

 真咲さんはショップの入り口に貼られたポスターを眺めながら、なんだか楽しげに口元をゆるめる。

やなぎさんもよくもまあ飽きもせず、次々とビジネスに挑戦される」
「知ってる人?」
「インチキ催眠術師として一時期有名でしたよ。テレビにも出演されてましたが、今はどこで何をされているのかと気にかかっていました」
「インチキなの?」
「何をインチキというのか。定義の問題かもしれませんね」
「じゃあ、ホンモノ?」
「ショービジネスとして成功している。そういう意味ではホンモノでしょうね」

 真咲さんは「お元気なら良かった」とそっと吐き出すと、私の持つペットキャリーに視線を落とす。

「ミカドくんは出てきても大丈夫ですよ。退屈してるのではないですか?」

 そう言って、真咲さんはペットキャリーのふたを開ける。待ってましたとばかりに顔を出すミカドだが、目の前にいる真咲さんに驚いて、すぐさま顔を引っ込める。

 そんなミカドの姿を微笑ましく見つめる真咲さんは、キャリーの持ち手をつかむ。

「キャリーは持ちますから、ミカドくんを」

 ミカドのことまで気にしてくれる真咲さんは優しい人だ。ミカドを抱き上げると、彼も興味津々に真咲さんを見上げている。

 彼がなついてくれるなら、悪い人ではないだろうと思うのは短絡的か。こうして一緒に出かけているのに悪い人かもしれないなんて思うのは今更か。

 私たちはペットショップの中へと進む。
 彼は辺りをゆっくりと見回して、目的もなく歩き出す。私はついていくだけだ。私も初めて来るペットショップだから、お目当てのものがどこにあるかわからない。

「悠紀さん、あの首輪はどうですか?」

 突然真咲さんは歩を速める。棚に貼られた小さなポスターを興味津々に眺め、その隣にある首輪を手に取る。

「アルファベットのパーツを並べて首輪につけられるようです」
「イニシャルを入れるんですか?」
「ミカドくん専用の首輪が出来ますね。お散歩の時だけなら、ミカドくんもストレスをあまり感じないでつけれるといいですが」
「わからないけど、お散歩に行くなら必要だから買ってみます」
「そうですね。おそろいのリードもあるようだし、ミカドくんに似合うものを選びましょう。悠紀さんは何色がいいですか?」
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