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かからない魔法とめざめる奇跡
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いくらでも待てる。
悠紀が笑顔を取り戻してくれる日が来るなら、俺はその日が来るのを、いくらでも待てる。
ハンドルの上で腕を組み、ため息を漏らす。
その日が来るまで、ただ漫然と待つつもりもなかった。共に支え合いながら、俺の手で悠紀を幸せにしたかったのに。彼女は俺を拒んだ。
俺が医師でなければいいということだったか。それとも、俺ではダメだったということか。
駐車場に停めた車の中で、悠紀はすっかり寝入っている。
俺に好意があることを知っているのに無防備だ。そんな警戒心がないところも好きかもしれない。前は捨てられた子猫のように警戒心むき出しだったのに、今はこんなにも俺に気を許してくれている。
それなのに、恋人となると別なのだ。俺はうぬぼれていただろうか。
「悠紀さん……、着きましたよ」
肩をそっと揺らす。小さくて細い肩がコートを通して伝わってくる。以前よりはいくらか肉づきも良くなったが、まだまだ細い。頼りない指先をそっと握りしめる。
諦めが悪い。悠紀にこのまま触れていたいと思うなんて。
「悠紀さん」
もう一度悠紀の名前を呼ぶ。指がかすかに動くが、起きる気配はない。
それほど酒を飲んだようでもなかったが、ずいぶんと酔ってるみたいだ。これでは朝まで目覚めないかもしれない。
喫茶店SIZUKUの前で車を停めれば良かっただろうか。駐車場から歩くには距離がある。
車を移動させようと、エンジンキーに手を伸ばした時、悠紀の指がビクッと跳ね、驚く俺の首に細い腕が絡みついてきた。
「悠紀さ……」
「けい……」
彼女の唇が薄く開く。瞳は閉じたまま上向きになり、ますます俺の首筋にすがりついてくる。
「けいた……」
ドクリと胸が音を立てた。耳に温かな息が届く。そして漏れ出る声は甘く……男の名を呼ぶ。
「けいた……行かないで……」
「悠紀さん……」
彼女を引き離し、両手で頬を包み込む。閉じたまぶたの隙間から涙がにじんでいる。
「……別れたくない。抱きしめて……」
夢を見ているのか、それも悪夢を。
小さな体が震えるから、抱きしめずにはいられない。彼女をこんな風にしたのは、ケイタという男か。彼女を支配する悪夢から守ってやりたい。
悠紀の細い指が俺の背中を抱きしめる。彼女が望むなら、俺はケイタという男の身代わりでもいいと思った。
「けいた……」
自然と顔を寄せ合う。うっすら開いた悠紀の瞳に映るのは俺だ。それでも彼女は俺をケイタと呼んだ。
唇を近づけたら、生温かいお互いの息が混ざり合う。俺は躊躇なくさらに唇を寄せた。彼女も瞳を閉じた。二人の息はそのまま静かに重なり、同時にぬくもりに満たされた。
目が覚めたら、悠紀は俺を拒むだろう。そして、俺は嫉妬するだろう。いまキスをしている相手は、彼女が愛するケイタだ。そのケイタに、俺はすでに敗北している。
悠紀をシートに寝かせ、彼女の髪をそっと撫でる。幸せそうに穏やかな表情で眠る彼女から目を離し、俺はもう一度エンジンをかけた。
いくらでも待てる。
悠紀が笑顔を取り戻してくれる日が来るなら、俺はその日が来るのを、いくらでも待てる。
ハンドルの上で腕を組み、ため息を漏らす。
その日が来るまで、ただ漫然と待つつもりもなかった。共に支え合いながら、俺の手で悠紀を幸せにしたかったのに。彼女は俺を拒んだ。
俺が医師でなければいいということだったか。それとも、俺ではダメだったということか。
駐車場に停めた車の中で、悠紀はすっかり寝入っている。
俺に好意があることを知っているのに無防備だ。そんな警戒心がないところも好きかもしれない。前は捨てられた子猫のように警戒心むき出しだったのに、今はこんなにも俺に気を許してくれている。
それなのに、恋人となると別なのだ。俺はうぬぼれていただろうか。
「悠紀さん……、着きましたよ」
肩をそっと揺らす。小さくて細い肩がコートを通して伝わってくる。以前よりはいくらか肉づきも良くなったが、まだまだ細い。頼りない指先をそっと握りしめる。
諦めが悪い。悠紀にこのまま触れていたいと思うなんて。
「悠紀さん」
もう一度悠紀の名前を呼ぶ。指がかすかに動くが、起きる気配はない。
それほど酒を飲んだようでもなかったが、ずいぶんと酔ってるみたいだ。これでは朝まで目覚めないかもしれない。
喫茶店SIZUKUの前で車を停めれば良かっただろうか。駐車場から歩くには距離がある。
車を移動させようと、エンジンキーに手を伸ばした時、悠紀の指がビクッと跳ね、驚く俺の首に細い腕が絡みついてきた。
「悠紀さ……」
「けい……」
彼女の唇が薄く開く。瞳は閉じたまま上向きになり、ますます俺の首筋にすがりついてくる。
「けいた……」
ドクリと胸が音を立てた。耳に温かな息が届く。そして漏れ出る声は甘く……男の名を呼ぶ。
「けいた……行かないで……」
「悠紀さん……」
彼女を引き離し、両手で頬を包み込む。閉じたまぶたの隙間から涙がにじんでいる。
「……別れたくない。抱きしめて……」
夢を見ているのか、それも悪夢を。
小さな体が震えるから、抱きしめずにはいられない。彼女をこんな風にしたのは、ケイタという男か。彼女を支配する悪夢から守ってやりたい。
悠紀の細い指が俺の背中を抱きしめる。彼女が望むなら、俺はケイタという男の身代わりでもいいと思った。
「けいた……」
自然と顔を寄せ合う。うっすら開いた悠紀の瞳に映るのは俺だ。それでも彼女は俺をケイタと呼んだ。
唇を近づけたら、生温かいお互いの息が混ざり合う。俺は躊躇なくさらに唇を寄せた。彼女も瞳を閉じた。二人の息はそのまま静かに重なり、同時にぬくもりに満たされた。
目が覚めたら、悠紀は俺を拒むだろう。そして、俺は嫉妬するだろう。いまキスをしている相手は、彼女が愛するケイタだ。そのケイタに、俺はすでに敗北している。
悠紀をシートに寝かせ、彼女の髪をそっと撫でる。幸せそうに穏やかな表情で眠る彼女から目を離し、俺はもう一度エンジンをかけた。
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