摩天楼で敏腕社長と頼まれ婚

水城ひさぎ

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デートとキスと、隠し子と……?

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「沙月の指は白くて長いから、プラチナが似合うね。石は……普段使いだし、このぐらいのサイズがいいかな」

 私たちは早速、繁華街にある宝石店を訪れていた。高級ブランドの宝石店には一生無縁だと思っていたから、居心地が悪くて落ち着かない。

 店員の用意した指輪をいくつか眺めて、陸斗さんはプラチナリングを取り上げる。さっきから私の目は、点だ。

 普段使い?
 いったい、いつ、どこで、こんな高級品を使うっていうのだ。

 それより何より、想像してたお値段とは、ケタが違う。

「どう?」
「はあ……」

 いらないとは言えなくて、困ってしまう。

「気に入らない? はめてみると、また違うよ?」

 陸斗さんが私の手をそっと取る。彼の大きな手のひらに、私の指が重なる。

 どきどきする。彼が優しくほほえんで、私を見つめるから。

 婚約してるフリするだけなのに、豪華な小道具を買おうとしてるなんて、周囲の目には映らないだろう。

 陸斗さんは、夢なら見させてくれると言った。ちょっとぐらい、彼の恋人になれた幻想に、酔っていてもいいかもしれない。

「細くて、長くて、きれいだね」
「カサカサで……」
「ん、まあ。ちょっとはね。骨格がきれいだねって言ったら、喜ぶ?」

 おかしそうに肩を揺らして笑う。色気も何もない私は、彼の目には珍獣に見えてるんだろう。

 彼のつまみあげた指輪が、そっと指に通されていく。

 サイズはぴったり。プラチナの輝きは、私には豪華すぎる気がしたけれど。

「やっぱり、よく合うよ。今夜のために、買おうか」
「今夜のためっ?」

 ヒャッと身体が飛び跳ねる。
 タダより高いものはない。

「か、カラダで返すとか、無理ですから……」

 プラチナの輝きに勝る技術なんて、皆無。ましてや、手練手管にたけるだろう陸斗さんを楽しませるなんて、絶対、無理。

「何、誤解してるんだ? おかしいな、ほんとに。夜はレストランで食事をしようと思ってね」

 クックと笑う彼を見てたら、壮大な勘違いをしたんだって、真っ赤になる。恥ずかしくてたまらない。

「レストランって?」
「ホテルに会員制のラウンジがあるから」

 やっぱり、と目が泳ぐ。
 そこら辺にあるファミリーレストランとはわけが違う。

「ドレスもないし……、ご遠慮したいです」

 指輪も全部、何もかもご遠慮したい。

「そう言うと思ってね、ドレスは用意してある。サイズは心配いらないと思うよ。抱きしめた時にだいたいわかったから」
「はっ……。あ、あれは、抱きついたって言うんです」

 語弊があるって言うのに、陸斗さんは、どっちも変わらないよ、と笑って、私の真っ赤なほおを、親指でなでてくる。

「沙月なら、とてもきれいに着こなすと思う」
「自信がないです……」
「自信はついていくものだよ。指輪、これでいい?」

 本当に買ってくれるみたい。
 断るなら、今な気がする。このまま甘えてたら、どうなっちゃうんだろうって不安だ。夢から醒めた時、泣かずにいられる自信がない。

「あ、あの……」

 断ろう。そう思って口を開くが、断ったりしたら、陸斗さんに恥をかかせるのでは? と脳裏をよぎる。

 ショーケースの奥に視線を向けたら、店員が笑顔で控えている。

 指輪をプレゼントしたいという陸斗さんに、恥をかかせちゃいけない。そう思って、私はそのままうなずいていた。

「すごく嬉しいです」

 それは、本当の気持ちだった。

「そう。よく似合うから、何も心配はいらないよ」

 陸斗さんは穏やかな笑みを見せて、私の髪にそっと指を通す。

「次はヘアサロンに行こうか。磨けば光る玉っていうのは、磨き甲斐があるね」
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