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デートとキスと、隠し子と……?

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 宝石店で買い物した後、和食料理店で食事をした。

 豪勢な御膳をぺろりと平らげる私を見て、陸斗さんは気持ちがいいと笑った。

 やっぱり私を、珍しい生き物として認識してるみたい。

 育て甲斐がある、なんて楽しむぐらいだから、そのうち玉虫色に光るんじゃないかなんて思ってるかもしれない。ちょっとした飼育だ。

 恋愛感情とか湧かなくて、ちょうどいい相手なんだろう。

 ランチの後は、ヘアサロンへやってきた。私たちを出迎えた、派手なメイクの中年女性は店長さんのようで、私を彼女に預けると、陸斗さんは一度帰ると言って、立ち去ってしまった。

 それからは大変だった。
 ヘアサロンとはいうけれど、トータルビューティーサロンのようで、髪はもちろん、私に似合うメイクやネイルまで提案してくれた。

 途中、陸斗さんがドレスを運んでくれたみたい。

 店長さんにフィッティングルームに呼ばれ、行ってみると、漆黒のロングドレスが私を待っていた。

「これ、私が着るんですか?」

 身体のラインがばっちり出そうなドレスに触れる。ライトの当たる角度によって、生地がキラキラと光る。

 派手じゃないか? とっても。

「ほかにどなたがお召しになるんですか」

 店長さんはおかしそうに、おほほと笑うと、ドレスをハンガーからはずす。

「細すぎません?」

 お腹に手を当てる。ランチを食べすぎた。大丈夫だろうか。日頃から腹筋を鍛えてるから、多少は抑えられてるとは思うけど。

「善田さまのお見立ては確かですよ」

 それはそう。陸斗さんを疑ってはいけない。

「あんまり素敵だから驚いてしまって」

 危ない。陸斗さんに恥をかかせるところだった。

 私もやんわりと微笑んで、ドレスを受け取る。

 バックスタイルを眺めて、ぎょっとする。背中が腰まで開いている。とんでもないドレスだ。

 目を見開く私を、店長さんがふしぎそうに眺めてくるから、すぐに笑顔を繕う。

 仕方ない。着るしかない。

 投げやりになりながら、ドレスに着替える。お腹はギリギリ大丈夫。やっぱり、毎日の腹筋が効いてる。

「ど、どうですか?」
「よくお似合いです。スタイルの良さが生かされてますよ。さすがですわ」

 鍛えるのが趣味なだけで、スタイルがいいなんて褒められたことがない。でも、鏡に映る自分を見て、お世辞じゃないのかもと思う。

 足がスラッと長く見えるし、袖のないドレスから伸びる腕が、いつもより長く見える。本当に素敵なドレスだった。

 陸斗さんは洋服選びのセンスもあって、一度抱きついただけの女性の身体つきまで暗記してしまう才能があるみたい。

 それにしても、背中はスースーする。秋のディナーには寒くないだろうか。

 背中を気にしながら、フィッティングルームを出ると、履いてきたパンプスは片付けられ、代わりにブラックのピンヒールが置かれた。

「お荷物は善田さまのご自宅へお届けしておきますね。どうぞ、楽しいひとときを」

 店長さんは大きな紙袋を持って、頭を下げる。

 どうやら、さっきまで着ていた洋服は紙袋にまとめられたらしい。陸斗さんの自宅に届くってことは、帰りは取りに行かなきゃいけないってことだ。

 大富豪とデートするのも大変。気が遠くなりそうだ。

 ヘアサロンを出ると、受付の前で陸斗さんが待っていた。

 彼も着替えてきたみたい。いつもより光沢のあるスーツに身を包んでいる。筋肉のつきすぎてない、程よく鍛えられた身体は、きっと何を着ても似合うだろう。

「すみません。お待たせしちゃって」

 ドレスのすそを上げ、慣れないピンヒールで駆け寄る。

「素材がいいと、こうも輝くものなんだな。磨けば光るもほどほどにね」

 きょとんとする私を見て苦笑しながら、彼は腕に下げていたトレンチコートを広げる。

「美しい姿を見るのは、俺だけにしておきたいね」

 そっと背中に回るコートに腕を通す。ちょっと寒かったからちょうどよかった。

「着替えは陸斗さんのお部屋に届くみたいです」
「俺がそう頼んだ」
「陸斗さんのおうちで着替えさせてもらってもいいんですか?」
「泊まっていってもかまわないが?」

 えっ、と声にならない声をあげると同時に、彼の腕が腰を抱く。

「泊まるのに、着替えはいらない」

 耳たぶに唇が触れる距離でささやかれる。

 これは、まずい。からかうにも程がある。

「あ、あしたはお仕事なので、はやく帰ります」
「そう、残念。うちに、ジムがあるんだけどね?」
「えっ、ジム?」
「最新機種はだいたいそろってるよ。興味ない?」
「……あります」

 ジッと彼を見上げる。

 あるに決まってる。陸斗さんと一緒にいる、唯一の利点ではないか。

「見たい?」
「見たいです」
「いつでも来ていいよ」

 彼の口もとは奇妙な形をしてゆるんでる。

「いつでも? ほんとですか?」
「沙月のお眼鏡にかなうマシンがあるといいけどね」
「あるに決まってます」

 こぶしにぎゅっと力を込めると、彼はおかしそうに声を立てて笑う。よく笑う人だ。笑顔もさわやかで、見惚れてしまった。
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