摩天楼で敏腕社長と頼まれ婚

水城ひさぎ

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デートとキスと、隠し子と……?

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 鉄板焼が楽しめるレストラン結は、オフィスビルの54階にあった。

 漆喰の壁に、黒塗りのテーブル、ワインレッドのソファー。和と洋の融合する、おしゃれな個室は、高級レストランと呼ぶにふさわしい空間を演出していた。

 陸斗さんはよく訪れているらしい。
 私におすすめだというメニューを注文し、ソファーに並んで座る私の腰に手を回す。

 いつもこうやって、女性と過ごしてるんだろう。ひどく手慣れている。

「沙月はどうして看護師に?」

 ワインで乾杯して、鉄板焼きステーキを口に運ぶ。

 ちょうどいい焼き加減で、柔らかいお肉から旨味がジュワッと口の中に広がる。こんなにおいしいステーキを食べるのは、生まれて初めて。

 自然とほころぶほおを押さえながら、食事を進めていた時、陸斗さんはそう尋ねてきた。

「最初はスポーツトレーナーになりたかったんです。それで、理学療法士を目指そうかなぁって思ってたんですけど、結婚しても仕事続けるなら看護師の方がいいのかなって……あんまり大した理由じゃなくて……」

 入院した時に優しくしてくれた看護師に憧れて、とかそういう理由を期待してたかな? って思って、口ごもる。

 だけど、陸斗さんの興味は全然違うところにあるみたいだった。

「高校時代は結婚したかったわけだ?」
「結婚を諦めたことはないです」

 ちょっと心外だ。
 ムッとしたのが伝わったのか、陸斗さんはおかしそうに口もとをゆるめる。

「どういう男がいい?」
「それはもちろん、優しい人がいいです」
「俺は、優しいよ」

 目を細めた彼の腕がますます腰に絡みつく。

 顔が近づいてくる。至近距離で見つめられて、ほおが赤くなるのがわかる。からかって楽しんでるんだってわかってるのに、きれいな彼が近づいてきたらドキドキする。

「お、お肉食べたばっかりですっ」

 キスされるんじゃないかと思って、ハッと口に手を当てると、私の頭にほおを寄せて、彼は声を立てて笑った。

「そんなにガードが硬いと、男が離れてくよ」
「……別にいいです。どこかに、私の頑張りをちゃんと見てくれる人、いると思ってますから」
「確かに、きれいな身体してる」

 彼の指先に、スーッと背中をなぞられる。ずいぶん隙のあるドレスだったのを忘れてた。

「が、頑張りは、そういう頑張りじゃないです」
「ストイックな女は嫌いじゃないよ」
「陸斗さんほどじゃないと思います」
「俺はそれほどでもないよ」

 そうなの? と、彼を見上げる。
 RIKUZENの社長と言ったら、剛腕で有名で、誰よりもストイックなイメージがあった。だから、若くして、企業を急成長させてこれた。

「陸斗さんはどうして社長になろうと思ったんですか?」

 私は彼自身のことを何も知らない。肩書きと家柄しか、知らなかった。

「儲けたかったからだ。それだけだよ」
「シンプルなんですね。でも、どうしてフィットネス器具を?」
「園村がね、向いてるんじゃないかって言うからね」

 なぜか、陸斗さんは苦々しい表情をする。

「園村さん?」
「園村は見る目があるんだよ。自分のことは見えてないのにな」
「すごい才能ですね。RIKUZENがあるのは、陸斗さんと園村さんのおかげなんですね」

 わあ、と感動する。
 才能を見抜く力のある園村さんも、そのアドバイスに応えていける才能のある陸斗さんも、どちらも素晴らしくって。

「沙月は本当にRIKUZENが好きだね」
「はいっ。RIKUZENのマシン、ほんとにすごいんです。高性能はもちろんだけど、新商品もどんどん提案されるし、妥協がないっていうか……いいところを上げ出したら、ほんとにほんとにキリがないです」

 RIKUZENのことになると、熱くなる。
 身を乗り出して話す私に、陸斗さんの両腕が伸びてくる。

「沙月は、いい女だな」
「えっ!」

 鼻先が、陸斗さんのシャツにぶつかった。厚い胸板から、穏やかな心音が聞こえる。

 抱きしめられてると気付いた時には、さらに腕は強く締まっていた。

「まっすぐで、いい女だ」

 高く結い上げた髪が崩れるんじゃないかなんて、心のどこかで心配する余裕があるのは、彼とこうして身を寄せ合う時間に、居心地の良さを感じたからだろう。

 たくましい腕はこんなにも安心感を与えてくれるんだって。

 無意識にぎゅっと彼のシャツを握りしめていた。それに気づいて、「あ……っ」と手を離す。シワ一つないシャツだったのに、くしゃくしゃになってしまった。

 あわててシワを伸ばそうと、彼の胸に手のひらをあてると、手首をつかまれた。

「沙月……」

 顔をのぞき込む陸斗さんの目を見て、息を飲む。

 なんて、悲しい顔してるんだろう。

「陸斗さん……?」
「沙月が興味あるのは、RIKUZENか? 俺か?」

 静かに尋ねられた。

 どっち……? すぐに答えは出てこなかった。

「……」
「RIKUZENに決まってるか」

 陸斗さんはクスッと笑うと、ワインを口に運んだ。どことなくさみしげな横顔に、胸は締めつけられるようだった。
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