13 / 25
デートとキスと、隠し子と……?
7
しおりを挟む
*
「こう言ったらなんだけど、善田さんがいないと沙月ちゃんがバリバリ働いてくれるから、すっごくみんな助かってるってー。善田さんの入院は、もう勘弁だね」
ナースステーションには、私と愛莉ちゃんしかいない。
前の勤務先に比べて、鬼のように忙しい毎日ではないものの、ナースステーションでゆっくりカルテチェックしてる時間が持てるのは、久しぶり。
愛莉ちゃんも夜勤メンバーへの申し送りの準備をしつつ、さっきからうわさ話に興じている。
「入院しなくて済むなら、そんないいことないね」
善田惣一のいない病院は、やや華やかさを失ったようだったが、そんなものはなくてもいい。お元気に過ごされてるなら、それが一番の喜びだ。
「善田さんに全然会ってないの?」
「退院されてから会ってないよ」
「陸斗さんは?」
「そう言えば、連絡ない。忙しいんじゃないかな?」
パソコンから顔を上げて、首をひねると、私よりもっと愛莉ちゃんは首を傾げてる。
「どれだけ会ってないの?」
「二週間ぐらいかな」
「善田さんが退院した日から会ってないの?」
「そうなるね」
愛莉ちゃんの大きな目が、言葉を発するたびに、どんどん見開かれていく。
「大丈夫? 沙月ちゃん」
「大丈夫って?」
「陸斗さんに浮気されてない?」
「えっ!」
浮気?
考えたこともない。仮に、私以外の女性と過ごしてたって、浮気にはならないし。
それに、会ってないと言っても、まだ二週間。ついこの間、会ったばっかりな気がしてた。
「沙月ちゃんには黙ってたけど、陸斗さん、すっごい美女とデートしてたみたいだよ」
今度は私が目を見開く番。浮気にはならないけど、そんなうわさがあるんだって知ったら、やっぱり驚く。
「やっぱり、沙月ちゃん知らないんだ? いつだったかなぁー、ほら、そこのビルの高級レストランで陸斗さん見かけたって、真由ちゃんが」
真由ちゃんは、愛莉ちゃんと仲良しの病棟看護師。私も仲良くさせてもらってるけど、そう言われてみると、最近の彼女は隠しごとしてるみたいによそよそしかった。
「高級レストラン……?」
私と一緒に行ったレストランだろうか。よく行くみたいだったし。
「うん、そう。真っ黒なドレス着た、スレンダー美女だったって」
「真っ黒なドレス?」
「背中が、ざーっくり開いてるのって。陸斗さん誘惑してます感が凄かったってー」
バッと、顔が真っ赤になる。
それって、私じゃないか。
「何、赤くなってるのーっ。照れるとこじゃないって。陸斗さんもベタベタ触っちゃってたらしいし、レストラン出た後は、ふたりでレジデンスに入ってったらしいよ。もー、絶対お持ち帰りされちゃったんだってー」
「……そ、そんなに触ってた?」
もちろんずっとエスコートしてくれてたけど、レストラン出る時も上着着るの忘れるぐらいお酒に酔ってて、彼がどうだったかなんてあんまり覚えてない。
外に出たら寒くて、すぐにトレンチコートを着せてもらい、そのまま着替えを取りに、彼の部屋まで行った。
彼はずっと紳士的だったし、着替えを済ませるタイミングに合わせてタクシーを呼んでくれ、私は無事に帰宅したのだ。
「真由ちゃんの彼氏も、絶対肉体関係あるねって言ってたらしいよ」
どうやら、真由ちゃんは彼氏と一緒に高級レストランへ出かけ、私たちと同じように、あの美味しい料理の数々を楽しんでいたのだ。
私たちは個室にいたし、帰るところを見かけて、勝手な想像をふくらませたのだろう。
「何かの見間違いじゃない? 美女じゃないと思うよ」
「えぇーっ、美女じゃないならいいって話じゃないでしょ? 陸斗さんってすごくモテるんだから、気をゆるめたらダメだよ」
「モテるのはわかるけど……」
途方にくれてしまう。
陸斗さんがスレンダー美女とデートしてたうわさはもう、病院中に広まってそうだ。私が知らなかっただけで。
かといって、あれは私なんだって宣言したって仕方ない。見苦しい言い訳だと思われても釈だ。
私と陸斗さんが真実を知ってたら、それでいい。きっと、それでいいと思う。
「ほんとに沙月ちゃんは欲がないんだからぁ。まあ、そういうとこが気に入られてるのかもだけどね」
「私が、RIKUZENのファンだからだよ。お客さんは無下にしないでしょ?」
惣一が私に目をつけたのは、あの展示場にいた中で、私が誰よりも熱心に商品を見ていたからだ。ただそれだけのこと。
「RIKUZENって、そんなにいいの?」
「うん、それはもう! 愛莉ちゃんはヨガとかしないの? この間ね、RIKUZENのヨガマットを手に入れたんだけど、これがほんとにもうねっ……」
「ちょ、沙月ちゃん、ストップ! そういうの、いいから」
両手のひらを私に向ける愛莉ちゃんは、ちょっと引いた目をして、私の暴走を止める。
RIKUZEN愛を楽しそうに聞いてくれるのは、陸斗さんだけかもしれない、なんて思う。
反省しつつ、パソコンに目を戻した時だった。ナースステーションに真由ちゃんが駆け込んできた。
「沙月ちゃん、大変っ! いま、園村さんが陸斗さん連れてきたのっ。陸斗さん、真っ青な顔してて、処置室に運ばれたよっ」
「こう言ったらなんだけど、善田さんがいないと沙月ちゃんがバリバリ働いてくれるから、すっごくみんな助かってるってー。善田さんの入院は、もう勘弁だね」
ナースステーションには、私と愛莉ちゃんしかいない。
前の勤務先に比べて、鬼のように忙しい毎日ではないものの、ナースステーションでゆっくりカルテチェックしてる時間が持てるのは、久しぶり。
愛莉ちゃんも夜勤メンバーへの申し送りの準備をしつつ、さっきからうわさ話に興じている。
「入院しなくて済むなら、そんないいことないね」
善田惣一のいない病院は、やや華やかさを失ったようだったが、そんなものはなくてもいい。お元気に過ごされてるなら、それが一番の喜びだ。
「善田さんに全然会ってないの?」
「退院されてから会ってないよ」
「陸斗さんは?」
「そう言えば、連絡ない。忙しいんじゃないかな?」
パソコンから顔を上げて、首をひねると、私よりもっと愛莉ちゃんは首を傾げてる。
「どれだけ会ってないの?」
「二週間ぐらいかな」
「善田さんが退院した日から会ってないの?」
「そうなるね」
愛莉ちゃんの大きな目が、言葉を発するたびに、どんどん見開かれていく。
「大丈夫? 沙月ちゃん」
「大丈夫って?」
「陸斗さんに浮気されてない?」
「えっ!」
浮気?
考えたこともない。仮に、私以外の女性と過ごしてたって、浮気にはならないし。
それに、会ってないと言っても、まだ二週間。ついこの間、会ったばっかりな気がしてた。
「沙月ちゃんには黙ってたけど、陸斗さん、すっごい美女とデートしてたみたいだよ」
今度は私が目を見開く番。浮気にはならないけど、そんなうわさがあるんだって知ったら、やっぱり驚く。
「やっぱり、沙月ちゃん知らないんだ? いつだったかなぁー、ほら、そこのビルの高級レストランで陸斗さん見かけたって、真由ちゃんが」
真由ちゃんは、愛莉ちゃんと仲良しの病棟看護師。私も仲良くさせてもらってるけど、そう言われてみると、最近の彼女は隠しごとしてるみたいによそよそしかった。
「高級レストラン……?」
私と一緒に行ったレストランだろうか。よく行くみたいだったし。
「うん、そう。真っ黒なドレス着た、スレンダー美女だったって」
「真っ黒なドレス?」
「背中が、ざーっくり開いてるのって。陸斗さん誘惑してます感が凄かったってー」
バッと、顔が真っ赤になる。
それって、私じゃないか。
「何、赤くなってるのーっ。照れるとこじゃないって。陸斗さんもベタベタ触っちゃってたらしいし、レストラン出た後は、ふたりでレジデンスに入ってったらしいよ。もー、絶対お持ち帰りされちゃったんだってー」
「……そ、そんなに触ってた?」
もちろんずっとエスコートしてくれてたけど、レストラン出る時も上着着るの忘れるぐらいお酒に酔ってて、彼がどうだったかなんてあんまり覚えてない。
外に出たら寒くて、すぐにトレンチコートを着せてもらい、そのまま着替えを取りに、彼の部屋まで行った。
彼はずっと紳士的だったし、着替えを済ませるタイミングに合わせてタクシーを呼んでくれ、私は無事に帰宅したのだ。
「真由ちゃんの彼氏も、絶対肉体関係あるねって言ってたらしいよ」
どうやら、真由ちゃんは彼氏と一緒に高級レストランへ出かけ、私たちと同じように、あの美味しい料理の数々を楽しんでいたのだ。
私たちは個室にいたし、帰るところを見かけて、勝手な想像をふくらませたのだろう。
「何かの見間違いじゃない? 美女じゃないと思うよ」
「えぇーっ、美女じゃないならいいって話じゃないでしょ? 陸斗さんってすごくモテるんだから、気をゆるめたらダメだよ」
「モテるのはわかるけど……」
途方にくれてしまう。
陸斗さんがスレンダー美女とデートしてたうわさはもう、病院中に広まってそうだ。私が知らなかっただけで。
かといって、あれは私なんだって宣言したって仕方ない。見苦しい言い訳だと思われても釈だ。
私と陸斗さんが真実を知ってたら、それでいい。きっと、それでいいと思う。
「ほんとに沙月ちゃんは欲がないんだからぁ。まあ、そういうとこが気に入られてるのかもだけどね」
「私が、RIKUZENのファンだからだよ。お客さんは無下にしないでしょ?」
惣一が私に目をつけたのは、あの展示場にいた中で、私が誰よりも熱心に商品を見ていたからだ。ただそれだけのこと。
「RIKUZENって、そんなにいいの?」
「うん、それはもう! 愛莉ちゃんはヨガとかしないの? この間ね、RIKUZENのヨガマットを手に入れたんだけど、これがほんとにもうねっ……」
「ちょ、沙月ちゃん、ストップ! そういうの、いいから」
両手のひらを私に向ける愛莉ちゃんは、ちょっと引いた目をして、私の暴走を止める。
RIKUZEN愛を楽しそうに聞いてくれるのは、陸斗さんだけかもしれない、なんて思う。
反省しつつ、パソコンに目を戻した時だった。ナースステーションに真由ちゃんが駆け込んできた。
「沙月ちゃん、大変っ! いま、園村さんが陸斗さん連れてきたのっ。陸斗さん、真っ青な顔してて、処置室に運ばれたよっ」
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる