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デートとキスと、隠し子と……?
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「こう言ったらなんだけど、善田さんがいないと沙月ちゃんがバリバリ働いてくれるから、すっごくみんな助かってるってー。善田さんの入院は、もう勘弁だね」
ナースステーションには、私と愛莉ちゃんしかいない。
前の勤務先に比べて、鬼のように忙しい毎日ではないものの、ナースステーションでゆっくりカルテチェックしてる時間が持てるのは、久しぶり。
愛莉ちゃんも夜勤メンバーへの申し送りの準備をしつつ、さっきからうわさ話に興じている。
「入院しなくて済むなら、そんないいことないね」
善田惣一のいない病院は、やや華やかさを失ったようだったが、そんなものはなくてもいい。お元気に過ごされてるなら、それが一番の喜びだ。
「善田さんに全然会ってないの?」
「退院されてから会ってないよ」
「陸斗さんは?」
「そう言えば、連絡ない。忙しいんじゃないかな?」
パソコンから顔を上げて、首をひねると、私よりもっと愛莉ちゃんは首を傾げてる。
「どれだけ会ってないの?」
「二週間ぐらいかな」
「善田さんが退院した日から会ってないの?」
「そうなるね」
愛莉ちゃんの大きな目が、言葉を発するたびに、どんどん見開かれていく。
「大丈夫? 沙月ちゃん」
「大丈夫って?」
「陸斗さんに浮気されてない?」
「えっ!」
浮気?
考えたこともない。仮に、私以外の女性と過ごしてたって、浮気にはならないし。
それに、会ってないと言っても、まだ二週間。ついこの間、会ったばっかりな気がしてた。
「沙月ちゃんには黙ってたけど、陸斗さん、すっごい美女とデートしてたみたいだよ」
今度は私が目を見開く番。浮気にはならないけど、そんなうわさがあるんだって知ったら、やっぱり驚く。
「やっぱり、沙月ちゃん知らないんだ? いつだったかなぁー、ほら、そこのビルの高級レストランで陸斗さん見かけたって、真由ちゃんが」
真由ちゃんは、愛莉ちゃんと仲良しの病棟看護師。私も仲良くさせてもらってるけど、そう言われてみると、最近の彼女は隠しごとしてるみたいによそよそしかった。
「高級レストラン……?」
私と一緒に行ったレストランだろうか。よく行くみたいだったし。
「うん、そう。真っ黒なドレス着た、スレンダー美女だったって」
「真っ黒なドレス?」
「背中が、ざーっくり開いてるのって。陸斗さん誘惑してます感が凄かったってー」
バッと、顔が真っ赤になる。
それって、私じゃないか。
「何、赤くなってるのーっ。照れるとこじゃないって。陸斗さんもベタベタ触っちゃってたらしいし、レストラン出た後は、ふたりでレジデンスに入ってったらしいよ。もー、絶対お持ち帰りされちゃったんだってー」
「……そ、そんなに触ってた?」
もちろんずっとエスコートしてくれてたけど、レストラン出る時も上着着るの忘れるぐらいお酒に酔ってて、彼がどうだったかなんてあんまり覚えてない。
外に出たら寒くて、すぐにトレンチコートを着せてもらい、そのまま着替えを取りに、彼の部屋まで行った。
彼はずっと紳士的だったし、着替えを済ませるタイミングに合わせてタクシーを呼んでくれ、私は無事に帰宅したのだ。
「真由ちゃんの彼氏も、絶対肉体関係あるねって言ってたらしいよ」
どうやら、真由ちゃんは彼氏と一緒に高級レストランへ出かけ、私たちと同じように、あの美味しい料理の数々を楽しんでいたのだ。
私たちは個室にいたし、帰るところを見かけて、勝手な想像をふくらませたのだろう。
「何かの見間違いじゃない? 美女じゃないと思うよ」
「えぇーっ、美女じゃないならいいって話じゃないでしょ? 陸斗さんってすごくモテるんだから、気をゆるめたらダメだよ」
「モテるのはわかるけど……」
途方にくれてしまう。
陸斗さんがスレンダー美女とデートしてたうわさはもう、病院中に広まってそうだ。私が知らなかっただけで。
かといって、あれは私なんだって宣言したって仕方ない。見苦しい言い訳だと思われても釈だ。
私と陸斗さんが真実を知ってたら、それでいい。きっと、それでいいと思う。
「ほんとに沙月ちゃんは欲がないんだからぁ。まあ、そういうとこが気に入られてるのかもだけどね」
「私が、RIKUZENのファンだからだよ。お客さんは無下にしないでしょ?」
惣一が私に目をつけたのは、あの展示場にいた中で、私が誰よりも熱心に商品を見ていたからだ。ただそれだけのこと。
「RIKUZENって、そんなにいいの?」
「うん、それはもう! 愛莉ちゃんはヨガとかしないの? この間ね、RIKUZENのヨガマットを手に入れたんだけど、これがほんとにもうねっ……」
「ちょ、沙月ちゃん、ストップ! そういうの、いいから」
両手のひらを私に向ける愛莉ちゃんは、ちょっと引いた目をして、私の暴走を止める。
RIKUZEN愛を楽しそうに聞いてくれるのは、陸斗さんだけかもしれない、なんて思う。
反省しつつ、パソコンに目を戻した時だった。ナースステーションに真由ちゃんが駆け込んできた。
「沙月ちゃん、大変っ! いま、園村さんが陸斗さん連れてきたのっ。陸斗さん、真っ青な顔してて、処置室に運ばれたよっ」
「こう言ったらなんだけど、善田さんがいないと沙月ちゃんがバリバリ働いてくれるから、すっごくみんな助かってるってー。善田さんの入院は、もう勘弁だね」
ナースステーションには、私と愛莉ちゃんしかいない。
前の勤務先に比べて、鬼のように忙しい毎日ではないものの、ナースステーションでゆっくりカルテチェックしてる時間が持てるのは、久しぶり。
愛莉ちゃんも夜勤メンバーへの申し送りの準備をしつつ、さっきからうわさ話に興じている。
「入院しなくて済むなら、そんないいことないね」
善田惣一のいない病院は、やや華やかさを失ったようだったが、そんなものはなくてもいい。お元気に過ごされてるなら、それが一番の喜びだ。
「善田さんに全然会ってないの?」
「退院されてから会ってないよ」
「陸斗さんは?」
「そう言えば、連絡ない。忙しいんじゃないかな?」
パソコンから顔を上げて、首をひねると、私よりもっと愛莉ちゃんは首を傾げてる。
「どれだけ会ってないの?」
「二週間ぐらいかな」
「善田さんが退院した日から会ってないの?」
「そうなるね」
愛莉ちゃんの大きな目が、言葉を発するたびに、どんどん見開かれていく。
「大丈夫? 沙月ちゃん」
「大丈夫って?」
「陸斗さんに浮気されてない?」
「えっ!」
浮気?
考えたこともない。仮に、私以外の女性と過ごしてたって、浮気にはならないし。
それに、会ってないと言っても、まだ二週間。ついこの間、会ったばっかりな気がしてた。
「沙月ちゃんには黙ってたけど、陸斗さん、すっごい美女とデートしてたみたいだよ」
今度は私が目を見開く番。浮気にはならないけど、そんなうわさがあるんだって知ったら、やっぱり驚く。
「やっぱり、沙月ちゃん知らないんだ? いつだったかなぁー、ほら、そこのビルの高級レストランで陸斗さん見かけたって、真由ちゃんが」
真由ちゃんは、愛莉ちゃんと仲良しの病棟看護師。私も仲良くさせてもらってるけど、そう言われてみると、最近の彼女は隠しごとしてるみたいによそよそしかった。
「高級レストラン……?」
私と一緒に行ったレストランだろうか。よく行くみたいだったし。
「うん、そう。真っ黒なドレス着た、スレンダー美女だったって」
「真っ黒なドレス?」
「背中が、ざーっくり開いてるのって。陸斗さん誘惑してます感が凄かったってー」
バッと、顔が真っ赤になる。
それって、私じゃないか。
「何、赤くなってるのーっ。照れるとこじゃないって。陸斗さんもベタベタ触っちゃってたらしいし、レストラン出た後は、ふたりでレジデンスに入ってったらしいよ。もー、絶対お持ち帰りされちゃったんだってー」
「……そ、そんなに触ってた?」
もちろんずっとエスコートしてくれてたけど、レストラン出る時も上着着るの忘れるぐらいお酒に酔ってて、彼がどうだったかなんてあんまり覚えてない。
外に出たら寒くて、すぐにトレンチコートを着せてもらい、そのまま着替えを取りに、彼の部屋まで行った。
彼はずっと紳士的だったし、着替えを済ませるタイミングに合わせてタクシーを呼んでくれ、私は無事に帰宅したのだ。
「真由ちゃんの彼氏も、絶対肉体関係あるねって言ってたらしいよ」
どうやら、真由ちゃんは彼氏と一緒に高級レストランへ出かけ、私たちと同じように、あの美味しい料理の数々を楽しんでいたのだ。
私たちは個室にいたし、帰るところを見かけて、勝手な想像をふくらませたのだろう。
「何かの見間違いじゃない? 美女じゃないと思うよ」
「えぇーっ、美女じゃないならいいって話じゃないでしょ? 陸斗さんってすごくモテるんだから、気をゆるめたらダメだよ」
「モテるのはわかるけど……」
途方にくれてしまう。
陸斗さんがスレンダー美女とデートしてたうわさはもう、病院中に広まってそうだ。私が知らなかっただけで。
かといって、あれは私なんだって宣言したって仕方ない。見苦しい言い訳だと思われても釈だ。
私と陸斗さんが真実を知ってたら、それでいい。きっと、それでいいと思う。
「ほんとに沙月ちゃんは欲がないんだからぁ。まあ、そういうとこが気に入られてるのかもだけどね」
「私が、RIKUZENのファンだからだよ。お客さんは無下にしないでしょ?」
惣一が私に目をつけたのは、あの展示場にいた中で、私が誰よりも熱心に商品を見ていたからだ。ただそれだけのこと。
「RIKUZENって、そんなにいいの?」
「うん、それはもう! 愛莉ちゃんはヨガとかしないの? この間ね、RIKUZENのヨガマットを手に入れたんだけど、これがほんとにもうねっ……」
「ちょ、沙月ちゃん、ストップ! そういうの、いいから」
両手のひらを私に向ける愛莉ちゃんは、ちょっと引いた目をして、私の暴走を止める。
RIKUZEN愛を楽しそうに聞いてくれるのは、陸斗さんだけかもしれない、なんて思う。
反省しつつ、パソコンに目を戻した時だった。ナースステーションに真由ちゃんが駆け込んできた。
「沙月ちゃん、大変っ! いま、園村さんが陸斗さん連れてきたのっ。陸斗さん、真っ青な顔してて、処置室に運ばれたよっ」
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