あなたと恋ができるまで

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理不尽な要求

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 彰さんからのメールに返事してないことを思い出したのは、日曜日の午後だった。

 しばらくスマホ画面を眺めて、ほおづえをつく。気の利いた返事が思い浮かばない。

 会わないで済むならこのままお別れを告げればいいし……、会って話したいことがあるなんて、重要な話だって言うなら無視もできない。

「うーん。大知くんに相談してみようかな……」

 彼はまだ、マッチングアプリを利用してることすら知らないだろう。

 一度は真っ暗になったスマホ画面が、ピカッと光る。うわさをすればじゃないけど、大知くんからメールが届く。

『兄と食事に行くことになったので、今日は行けそうにないです。来週また行きます』

 お兄さんと食事か……。じゃあ、仕方ない。

 ちょっとがっかりしてる私に気付いて、笑ってしまう。週末以外も会いたいんだって言う勇気もないのに。

『来週末は実家に行くの。大知くんも行く?』

 私の彼氏だって言える男になりたいと、さみしそうにした彼の顔が浮かんで、気づいたら誘っていた。

『えっ、いいんですかっ?』

 速攻で返信がある。

『兄夫婦も来ると思うけど』
『全然大丈夫です! 楽しみにしてます』
『じゃあ、土曜日の10時に待ち合わせしましょ』
『金曜日、泊まりに行きます。いろいろ楽しみです』

 にっこにこの大知くんが想像できて、恥ずかしくなってしまう。

『じゃあ、またね』
『はい。また』

 最後はあっさりした返事が返ってきた。ちょっと物足りなくも感じながら、ふたたび、彰さんのメールを開く。

 会って話したいことがある。という文字を何度も繰り返し読んで、散々悩んだ挙句、シンプルに尋ねてみた。

『話したいことって、なんですか?』
『会って話します。いつ会えますか?』

 思ったよりはやく、返信が来て、びっくりした。彼は、私のメールを待ってたのかもしれない。

『平日ぐらいしか、時間がないんです』
『じゃあ明日、鳴宮なるみや駅で待ち合わせしましょう』
『明日ですか?』

 気の早い話だ。よほどの重要な話だろうか。

『急ですか?』
『あ、いえ……』
『このところ、あなたのことばかり考えています。はやく会ってお話したいんです』

 前向きなメールに、後ろめたい気持ちになる。

『わかりました。じゃあ、鳴宮駅で19時に』

 そう返信しながら、やっぱりもう会えないって、はっきり言った方がいいかもしれない、なんて考えていた。
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