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初めてをもらってもらえませんか?
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「御園さん、さっきはありがとう。助かったわ」
個室に移動した私は、御園さんにホットコーヒーを差し出しながら、頭を下げた。
「嫌な思いしたんじゃないかって心配してるなら、気にする必要はないわ。三島さんたちの魂胆に振り回される時間がもったいないだけよ。貴重な時間は有意義に使いたいじゃない」
淡々と言って、彼女はコーヒーカップを口もとに運ぶ。
「あかりちゃんも莉子ちゃんも、協調性にかけるのは、前から感じてたのよ」
第三企画はまだ新しい部署だから、小うるさい先輩はいない。私がその役割を果たさなきゃいけないのだろうけど、仕事にまじめな彼女たちを叱りつける必要なんてこれまでなかった。
「合わせてばかりじゃいい企画は生まれないから、彼女たちは今のままでいいんじゃないかしら」
「御園さんにそう言ってもらえると心強いわ」
私の心をすくうように言ってくれるから、ほっとする。
一方、御園さんは珍しく破顔して笑う。
「まあ、正直言うと、私が苦手なのよ、彼女たちみたいな人。お互いさまよ」
誰しもがお互いに苦手意識を持っているのだ。
そういう私も、こうして御園さんと本音を交えて話す日が来るなんて思ってなかった。
「菜乃花ちゃん、お任せしちゃってよかった?」
話を変えて、そう尋ねた。
「あの子は地味だけど、言うことないわ。馬が合うと思う」
「そうね。菜乃花ちゃん、結構いろんなこと知ってるのよ。いい意見が出ると思う」
御園さんも迷わずうなずく。私が感じてることを、彼女もとっくの昔に気づいてる。
「私は安心してるのよ。古賀係長に見込まれてるだけあって、花村さんの仕事はバランスの取れた安定型だから」
「突出した才能がないだけよ」
「そう思ってるのは、花村さんだけ。第三企画への異動が決まったとき、こんなに魅力的な人と同じ部署になれるなんてって、感動してたの」
「褒めすぎよ」
ちょっと照れてしまう。同僚にどう見られてるかなんて、はっきり聞いたことがなかったから。
「とびきり美人で仕事ができるなんて尊敬してるのよ。どんな欠陥があるのかしらって観察したりもしたけど、花村さんはどこまでも完璧よ」
「欠陥かぁ……」
私が全然モテないなんて知らないのだろう。
私にしてみたら、お堅い美人で仕事ができて……なんて、欠陥そのものだったりするんだけど。
少なくとも、私の周りにいる男性が求める妻像には当てはまらない。かといって、遊び相手にするには、まじめすぎる。
「それにしても、面白い企画ね。私もサク美アプリ使ってるの。使いにくいって思ってたのよね」
ペラペラとめくる企画書には、すでにいくつかの案がメモされている。
「御園さんも? 機能がありすぎるわよね」
「そう。ダイエット初心者はまず使わないわね。tofitはダイエット初心者向けと考えていいのよね?」
「いいと思う。ダイエットを始めたい方、ダイエット経験はあるけれど、どうしても継続できなかった方、健康維持はしたいけれど、何をやったらいいのかわからない方の道しるべになるような」
「健康維持、いい言葉ね。ダイエットって言葉は好きじゃないの、私」
「そうなの?」
「何かをすり減らしていくような気がするのよ。スタイル維持って、幸福を増やした上にあってほしいって思ってる」
確固たる強い思いを伝えるように私をまっすぐ見つめる御園さんには、感嘆の声が出る。
「素敵な考え方」
うれしそうに笑む彼女は想像以上に透明感があった。
彼女に彼氏がいるのは当然だろうと思えた。
「花村さんがきれいに痩せてるから余計に、そう思うようになったのよ」
「御園さんって、本当に褒め上手」
御園さんに褒められると悪い気がしない。
「ただあなたに興味があるだけ。どうかしら。今夜、一緒に食事しない?」
「今夜?」
思わぬお誘いに驚く。
「用事ある?」
「全然ないわ。仕事終わったら、すぐでいい? レストラン予約するから」
「楽しみね。花村さんとは仕事以外の話もしてみたかったの」
金曜日の夜に何も用事がないと即答する私がおかしかったのか、御園さんはただでさえ細い目をますます細めた。
個室に移動した私は、御園さんにホットコーヒーを差し出しながら、頭を下げた。
「嫌な思いしたんじゃないかって心配してるなら、気にする必要はないわ。三島さんたちの魂胆に振り回される時間がもったいないだけよ。貴重な時間は有意義に使いたいじゃない」
淡々と言って、彼女はコーヒーカップを口もとに運ぶ。
「あかりちゃんも莉子ちゃんも、協調性にかけるのは、前から感じてたのよ」
第三企画はまだ新しい部署だから、小うるさい先輩はいない。私がその役割を果たさなきゃいけないのだろうけど、仕事にまじめな彼女たちを叱りつける必要なんてこれまでなかった。
「合わせてばかりじゃいい企画は生まれないから、彼女たちは今のままでいいんじゃないかしら」
「御園さんにそう言ってもらえると心強いわ」
私の心をすくうように言ってくれるから、ほっとする。
一方、御園さんは珍しく破顔して笑う。
「まあ、正直言うと、私が苦手なのよ、彼女たちみたいな人。お互いさまよ」
誰しもがお互いに苦手意識を持っているのだ。
そういう私も、こうして御園さんと本音を交えて話す日が来るなんて思ってなかった。
「菜乃花ちゃん、お任せしちゃってよかった?」
話を変えて、そう尋ねた。
「あの子は地味だけど、言うことないわ。馬が合うと思う」
「そうね。菜乃花ちゃん、結構いろんなこと知ってるのよ。いい意見が出ると思う」
御園さんも迷わずうなずく。私が感じてることを、彼女もとっくの昔に気づいてる。
「私は安心してるのよ。古賀係長に見込まれてるだけあって、花村さんの仕事はバランスの取れた安定型だから」
「突出した才能がないだけよ」
「そう思ってるのは、花村さんだけ。第三企画への異動が決まったとき、こんなに魅力的な人と同じ部署になれるなんてって、感動してたの」
「褒めすぎよ」
ちょっと照れてしまう。同僚にどう見られてるかなんて、はっきり聞いたことがなかったから。
「とびきり美人で仕事ができるなんて尊敬してるのよ。どんな欠陥があるのかしらって観察したりもしたけど、花村さんはどこまでも完璧よ」
「欠陥かぁ……」
私が全然モテないなんて知らないのだろう。
私にしてみたら、お堅い美人で仕事ができて……なんて、欠陥そのものだったりするんだけど。
少なくとも、私の周りにいる男性が求める妻像には当てはまらない。かといって、遊び相手にするには、まじめすぎる。
「それにしても、面白い企画ね。私もサク美アプリ使ってるの。使いにくいって思ってたのよね」
ペラペラとめくる企画書には、すでにいくつかの案がメモされている。
「御園さんも? 機能がありすぎるわよね」
「そう。ダイエット初心者はまず使わないわね。tofitはダイエット初心者向けと考えていいのよね?」
「いいと思う。ダイエットを始めたい方、ダイエット経験はあるけれど、どうしても継続できなかった方、健康維持はしたいけれど、何をやったらいいのかわからない方の道しるべになるような」
「健康維持、いい言葉ね。ダイエットって言葉は好きじゃないの、私」
「そうなの?」
「何かをすり減らしていくような気がするのよ。スタイル維持って、幸福を増やした上にあってほしいって思ってる」
確固たる強い思いを伝えるように私をまっすぐ見つめる御園さんには、感嘆の声が出る。
「素敵な考え方」
うれしそうに笑む彼女は想像以上に透明感があった。
彼女に彼氏がいるのは当然だろうと思えた。
「花村さんがきれいに痩せてるから余計に、そう思うようになったのよ」
「御園さんって、本当に褒め上手」
御園さんに褒められると悪い気がしない。
「ただあなたに興味があるだけ。どうかしら。今夜、一緒に食事しない?」
「今夜?」
思わぬお誘いに驚く。
「用事ある?」
「全然ないわ。仕事終わったら、すぐでいい? レストラン予約するから」
「楽しみね。花村さんとは仕事以外の話もしてみたかったの」
金曜日の夜に何も用事がないと即答する私がおかしかったのか、御園さんはただでさえ細い目をますます細めた。
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