お仕事女子のふつつかな恋愛事情

水城ひさぎ

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二度あることは三度ある?

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「えっと……」

 戸惑うと、あかりちゃんのテンションがあがる。

「やだぁ、花村さん、かわいいー。私、はじめては彼氏との初旅行のときだったんですよねー」
「そうなの」
「18のときで」

 はやいっ。18って、高校生?

 私は18歳のとき、何やってただろう。大学受験の勉強だろうか……。

「周りの子たちの中では早い方だったかもですけど。花村さんのはじめてって、何歳のときですかー?」

 次はそうきたか。

 ある種のマウンティングだろうか。私より早くないですよね? って。

 彼女には、初体験の年齢は早い方がいいという価値観があるのだろう。

 という私も、年頃になっても彼氏の一人もいないから、自信を持てずに過ごしてきた。彼女のように10代で彼氏がいたら、違う価値観があったかもしれない。

「私、そういう話はちょっと苦手で……」
「もうほんとにシャイですね。でも、はじめての相手って、忘れられないですよね」
「あ、うん……」

 蓮の顔が浮かんで、無意識にうなずいてしまう。

 私の上にまたがって、苦しそうだけれど、甘いため息を吐いた彼は忘れられそうにない。

 特別な関係になったのは、蓮だけ。

 そこに恋心はなかったとはいえ、私の内側に触れたのは蓮がはじめてで、そのはじめてを知る人は後にも先にも彼しかいない。

 このまま一生、彼氏ができなければ、蓮のことはずっと覚えてるだろう。その自信だけはあった。

「やっぱり花村さんもそうなんだぁ。花村さんの彼氏、絶対カッコいいですよねー」
「どうかなー」

 蓮はカッコいい。あかりちゃんだって、彼を見たら好感を覚えるだろう。

「花村さんの彼氏、見てみたいですー」
「彼はそういうの、好きじゃないかも。ごめんね」
「謝らないでくださいよー。でも、機会があったら紹介してくださいね」
「機会があったらね」

 そんな機会は絶対ない。だから言える。

「絶対ですよー」
「そうね」

 笑って軽くかわしつつ、あんどの息をつく。

 私があかりちゃんのトークになんとなくついていけるのは、蓮が抱いてくれたからだ。

 仕事の役に立ったと話したら、彼も御園さんのように「よかったね」って言ってくれるかもしれない。

「花村さん、できました」

 莉子ちゃんが、まるバツをつけた機能一覧表を見せてくる。

「わあ、莉子、もう? すっごい。こういう作業は莉子向きだよね。私もがんばろ」

 私たちが仕事に関係のない雑談をしている間、黙々と作業を進めてくれていた。

 あかりちゃんは自覚があるように、細かい作業に向いてない。どちらかというと、ピンポイントで問題点を指摘し、判断に迷う私の背中を押してくれるタイプ。

「ありがとう、莉子ちゃん。頼りになる。一度、精査させて? 御園さんグループともすり合わせしたいし」

 すぐにコピーを取り、原本を莉子ちゃんに返しつつ、一部をあかりちゃんに渡す。

 あかりちゃんは莉子ちゃんの仕事を信頼している。ザッと目を通して、何も付け足す必要を感じなかったのか、うなずくだけだった。

「今日はあと何を決めますか?」
「そうね、体調に関して気になる項目を、年齢別にまとめたデータがあるから、何か盛り込めそうか考えてみる?」

 提案すると、莉子ちゃんは資料をじっくり眺める。

「更年期がダントツで気になってるみたいですね。あー、うちの親は気軽に骨密度の測定ができたらいいのにって言ってましたけど、……まあ、本気じゃないかな」

 苦々しく笑う。我が親ながら、と恥じ入ってるみたい。

「アプリで骨密度? 体組成計で測定したデータをアプリに記録するのはできそうだよね。莉子のお母さんは健康診断に行ったりしないのー?」
「全然。ご近所さんからいろいろ情報入るから、検査した方がいいかなとは思ってるみたいだけどね。なかなか腰はあがらないよね」
「そっか。ちょっと興味はあるけど、何をどうしたらいいかわからない人ってたくさんいるよね。そこの問題点をどうやってアプリに盛り込むか、だよね」

 あかりちゃんは悩ましげに腕を組む。

「難しいわね。機能はあればあっただけいいけど、それならサク美アプリが優秀だし。たとえば、生年月日入力してもらって、年代に合わせたお悩みをAIが定期的にお知らせしてくれる機能があってもいいかもしれないわね」

 サク美アプリでも採用されているシステムだけど、活用するしないが極端にわかれる機能だったりする。

 それなら、日めくりカレンダーの金言のように、ホーム画面に強制的に表示されるのもありかもと思う。

「花村さん、いいアイデア。取っかかりですよね。アプリは全部をフォローできないけど、こういうこと気にしてくださいってお知らせしてくれるだけでも、全然いいと思います」
「全部スルーしちゃいそうだなぁ、うちの親」

 あきらめ顔の莉子ちゃんの言うことは、もっともだった。

 結局、やる気のある人しかアプリを使おうとも思わないだろう。

「個々の性格に合わせて、カスタマイズできるアプリになるといいわよね。じゃあ、その辺も煮詰めていこうか。明日また打ち合わせするからそれまでにいくつか提案をお願いします」
「はい、わかりました。楽しくなってきましたね。すんごいアプリ作りましょう。私、この会社に入ったの、たくさんの人に健康意識を高めてもらいたいって思ったからなんです」

 気持ちを切り替えて、莉子ちゃんが胸を張る。

「莉子、すごいー。私はサク美のジムに通ってて、働きたいってなっただけー」

 あかりちゃんらしい志望動機に、私は笑顔になる。

「どちらもいい動機じゃない」
「花村さんはー?」
「私? 私は……そうね、お料理が好きだったから、健康的にやせられるレシピの開発がしたかったの」

 株式会社サク美なんて、大学時代は知らなかった。求人を見て、私に合ってるんじゃないかと勧められたから面接を受けただけだった。それももう、懐かしい出来事だ。

「開発希望で企画配属ですかー?」
「そうなの。人生何があるかわからないよね」
「そういう私も、ジムのトレーナーになりたかったんですけどね。でも、第三企画、めちゃくちゃ楽しいから満足してます」
「私も、このメンバーで仕事ができて楽しいわ」

 就きたい職業につけたのかはいまだにわからないけれど、天職かもしれないと思ってる。

 結婚に興味がないのは、このキャリアを手放したくないって思ってるからだろう。

「花村さんは御園さんとも普通に話せて尊敬しちゃいますー。ちょっと変わってますもんね。でもなんか、頼れる感じするからいいんですけど」

 苦手意識を丸出しにするあかりちゃんがそう言うと、莉子ちゃんがはっとして彼女の腕を小突く。

「うわさをすればだよ。花村さん、御園さんが呼んでますよ」

 振り返ると、個室のガラス戸の奥で、御園さんが手招きをしていた。

 席を立ち、ガラス戸を開けると、御園さんが淡々と言う。

「係長から話があるそうよ」
「あ、係長戻ってきてたの気づかなかった。ごめんね」
「いいわよ。気にしないで」

 すぐさまふたりで、デスクに座る環さんのもとへ移動する。

「打ち合わせは順調?」

 私の顔を見るなり、環さんが進捗状況を尋ねてくる。

「はい。サク美アプリの問題点を考慮して、必要な機能をしぼり込もうと、いま精査中です。最低限の項目はベースに残しつつ、個々の必要性に応じて、さまざまな機能をカスタマイズできるようにしてみたいと考えています」

 環さんは一つうなずいて、御園さんへ視線を移す。

「御園は?」
「ダイエット目的にtofitを利用すると考えた場合、若い女性は体重が少なければ少ない方がいいと誤解しがちなので、筋量やスリーサイズを意識する構成もありかと考えます」
「うん、それで?」
「花村さんの話に準じますが、サク美アプリではストレッチや筋トレ動画が見られるようになっていますので、その動画をカスタマイズできるようにしたら、マンネリを防いで、楽しく運動が続けられるんじゃないかと思います。若い子は食べずにやせるダイエットを選択しがちですし、体に負担をかけない運動をずっと続けてほしいので」

 若い子はやせようと思えば、多少無理をすればすぐにやせるだろう。

 それを知ってる御園さんは、見た目重視のダイエットより、体の内側から健康になる体型維持の普及を願ってる。

 それは、株式会社サク美の経営理念でもあった。

「わかった。方向性はいいんじゃない? 動画に関しては、花村グループもいけそうよね」
「はい。年齢に合った運動をご提案して、ご自身の体調に合わせてセレクションしていただけるなら、どの年代の方にも有用だと思います」
「うん。いま、動画の話が出たからちょうどよかった」

 ちょうどいい? と、御園さんと顔を見合わせる。

「来月からの始動になるんだけどね、理学療法士が動画の監修にあたってくれることに決まったわ」
「理学療法士って、外部の方をお招きして、ですか?」

 サク美アプリ開発時には、東崎大学の医学部教授が監修にあたったと記憶している。

「あー、ううん。開発の研究部門所属の社員よ。協力して欲しいってお願いされることもあると思うから、そのときは、花村、御園、お願いね」
「はい、わかりました」

 私たちは声を重ねてそう言って、ますます忙しくなりそうだね、と目配せをした。

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