お仕事女子のふつつかな恋愛事情

水城ひさぎ

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二度あることは三度ある?

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『あした、会える?』

 黒瀬蓮からメールが届いたのは、金曜日の夜だった。

 あれから1週間が過ぎたが、連絡が来たのは今日がはじめてだった。

 もしかしたらもう連絡はないかもと思っていた私には、不意打ちだった。

 改めて、数文字のメールを眺めた。

 恋人だったら、きっとありえないぐらい急なお誘い。ううん。本当に愛し合ってるなら、急に会いたくなったんだって、舞い上がってしまうような内容なのかもしれない。

 しかし、私はそのどちらでもないのに、蓮からのお誘いにどきりとしていた。

 これは、2回目の催促だ。

 蓮に会うという意味を考えたら、心拍数があがったみたいに、呼吸が浅くなる。

 落ち着け、私。
 と、ひと呼吸して返信する。

『ごめんね、あしたはダメなの』

 まだ生理中だし、と心の中でつけ足す。

 すぐに既読になるのに、返信が来なくて不安になる。逃げるのかって、不満を感じただろうか。

 体調不良だから、って送った方がよかったかもしれない。でも、蓮にとって私の都合なんて関心事じゃないだろう。

『いつなら会える?』

 やきもきしてるうちに、返信があった。

 スケジュール帳を開いて、空欄続きの週末を眺める。

 まばらにしか入っていない週末の予定に、男っ気ひとつないと、我がことながらあきれてしまう。

『来週の土曜日なら』
『わかった。昼過ぎに俺んちに来て』

 今度はすぐに返事が来た。

『はい。行く前に連絡いれます』

 まるで業務連絡みたいなやりとりをしてしまって反省する。色気もかわいげも何もない。

『いいよ、ずっと部屋にいるから』

 恋人じゃないんだから、まどろっこしいやり取りなんて必要ないっていうみたいに、蓮からのメールはそれで途絶えた。

 月末の土曜日、約束通り、蓮の部屋を訪ねた。

 駅前にある彼のマンションは、私の暮らすアパートからは徒歩で行ける距離にあった。

 私が一人暮らしを始めたのは、就職して2年目のとき。通勤に便利な場所を探していたから、駅前のマンションも検討した。

 蓮の部屋は1LDKだけど、私のアパートに比べたら、ずいぶん家賃はお高いだろう。私より絶対年下だし、どんな仕事をしてる人なんだろうとふしぎに思う。

「どうぞ」

 蓮はドアを内側から大きく開くと、私を部屋へ招き入れた。

 あいかわらず、きれいに整った部屋だった。どちらかというと、生活感を感じられない。引っ越してきたばかりだと言っていたから、それでだろう。

「先週は来れなくて、ごめんね。私がお願いしたことだったのに」
「ん、まあいいよ。抱かれたくないなら、それでもいいかって思ってたし」

 だから、都合が悪いと断ったとき、返信に少しの時間を要したのだろう。

 もう会わないというべきか、やっぱり私を抱きたいから約束を取り付けるべきか、と。

 つまり、少し悩んで、後者の選択をしたのだろう。

 私を抱きたいから……?

 そう思い至ったら、背中にじわっと汗が浮かんだ。急に緊張してきてしまった。

「何か飲む? コーヒーぐらいしかないけどさ」
「えっ、いいの?」

 いきなりベッドじゃないんだ。

 お客さんのように扱ってくれるんだって、驚いてしまった。

「インスタントだけどね。ソファーに座っててよ」

 苦笑まじりに、蓮がそう言う。

「私、やるよ」
「すぐできるから」
「ありがとう」
「うん」

 素直に礼を言う私がおかしかったのか、そっと口もとをゆるめた彼から目を離し、すすめられたままにソファーへ腰を下ろした。

 ぶしつけではない程度に、部屋の様子を眺め見る。

 シンプルな部屋の中に、生活感を見つけて目をとめた。テレビ横のラックに、たくさんの本がおさめられている。

 整形外科学、神経内科学、リハビリテーション医学など、専門書がずらりと並んでいる。

 医師のたまごなんだろうか。だとしたら、家賃の高いマンションに暮らしていてもふしぎではないけれど。

「すぐに抱いてほしかった?」

 いきなり、蓮が声をかけてきた。

 はっとして振り返る。コーヒーカップを差し出す蓮に気づき、あわてて受け取る。

 彼はちらりとラックへ視線をずらしたが、特にそれについて話す必要も感じなかったようで、すぐに私の隣へ座って顔を見つめてきた。

 まじまじと見つめられると戸惑う。

 蓮は冗談っぽく言ったけれど、あいにく、気のきいたセリフを返せる器量はなくて、「いい香りがするね」とごまかして、カップを口もとに運ぶ。

「のんだら、しようか」

 いきなりそう言うから、ビクッと肩がふるえてしまう。

「驚きすぎだよ」

 コーヒーの表面が大きくゆらぐのを見て、蓮はおかしそうに笑った。
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