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二度あることは三度ある?
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「ラルゴのカフェオレ、美味しいわよね。私は好きよ」
「つっこむところ、そこ?」
「つくづく花村さんって優しいのねって感心してもいるわね。もう会わないって啖呵きっておいて、カフェに誘われたら乗っちゃうなんて」
「ちょっと声、大きいわ」
表情がわかりにくい御園さんだけど、ああ美味しい、ってカフェオレを飲む姿は、あきれてるというより、楽しそう。彼女はカフェオレが好きらしい。
ビジネス街にあるランチタイムのカフェは混雑していた。
誰もが短い休憩時間を有意義に使っていて、私たちの会話になんて興味を持ってない。そうとわかりつつも、誰かに聞かれてるかもしれないと、小声になる。
「反省してるのよ。きっと軽い女だって思われてる」
「相手があなただから軽いのよって言ってみたら? 花村さんにほれてるなら落ちるわよ」
こともなげに言う。
「彼、恋人つくる気なんて全然ないの」
「じゃあ、いっそのこと、付き合うなら抱かせてあげるって言ったらどう?」
「心にもないのに、付き合うって言ったらどうするのよー」
「花村さんは付き合いたいわけじゃないの?」
そう聞かれると、戸惑う。
処女喪失にこだわりすぎてて、後先考えずに蓮と関係を持ってしまったから。
「そういう目で見たことないから」
「恋には慎重なのね」
「恋には……って」
否定もしにくくて黙ると、御園さんは優しげに目尻を下げる。
「とんでもなく突っ走ることもあるけど、交際は真剣に考えてるのねって思って。やっぱり花村さん、すごく真面目でいい人」
「そんなこともないけど……」
「連絡先は消してもらったんだっけ?」
「うん、そう。お互いのために消しましょうって、目の前で消しあったの。でも彼、よくラルゴのカフェに行くみたい。会いたくなったら、ラルゴに来てって言われちゃった」
連絡先を消去したって、都合よく抱かせてくれる女として、蓮にインプットされたままになってしまった。
「興味ないなら行かなきゃいいじゃない?」
「ラルゴはよく利用してたの。休みの日とか。もう行けなくなっちゃった」
最寄駅の目の前にあるラルゴは、休日のブランチにちょうどいいカフェだったのに。
「ラルゴのカフェオレ、美味しいものね」
「結局、そこに行きつくのね」
あきれたように言うと、御園さんはすました表情で口もとをぬぐって、財布を手に取った。
「話してても、らちがあかないから、戻りましょう」
「いつも話聞いてくれてありがとう」
「いいわよ。花村さんって不器用だから、見てると応援したくなるのよ。それに、楽しいし」
「楽しいって……」
動物園の珍獣を見てるような感覚みたい。奇怪な行動をとる私はおもしろくて仕方ないのだろう。自覚があるだけに、反論も出てこない。
御園さんに続いてカフェを出た。オフィスに戻るとすぐにデスクについて、パソコンを立ち上げる。そのとき、係長のデスクの電話が鳴った。
環さんが電話に出ると同時に始業のチャイムが鳴って、彼女は送話口を押さえた。
そして、チャイムが鳴り止むと、「わかりました」と短く言って、立ち上がる。
「花村、御園、ちょっと。今から開発に行くからついてきて」
「はい」
私と御園さんは同時に返事をして立ち上がり、顔を見合わせて、一つうなずく。
今日は11月いっぴ。開発の研究部門に配属された理学療法士の資格を持つ社員と顔合わせがあると、前もって知らされていた。
オフィスを出ていく環さんの後に続く。
開発部は一つ上のフロアにある。
エレベーターに乗って移動すると、環さんから第二会議室で待つように指示があり、私と御園さんは誰もいない会議室に入った。
「理学療法士の資格もってる人なんて、いつ配属になったの? 知ってる?」
席に座るなり、御園さんに尋ねると、彼女は平然と答える。
「中途採用よ。社内報に載ってたから」
「え、うそっ。全然気づかなかったわ」
「10月採用で、ふたりよ。理学療法士と作業療法士、一人ずつ」
御園さんはなんでもよく知ってる。観察力が高いのだろう。
「中途採用取るなんて、珍しいよね」
「そうね。アプリ開発のためだったのかしらって、今なら思うわ」
「あ、そっか。それね」
納得、とうなずいたとき、廊下の方で話し声が聞こえて、会議室のドアが薄く開く。
素早く立ち上がると、環さんが入ってくる。そして、彼女に続いて現れたひとりの青年を見て、私はぽかんと口を開けていた。
「紹介します。開発部所属の研究員で、理学療法士の黒瀬蓮さん」
蓮は私を見ると、おかしそうに口もとがゆるむのを引き締め、ゆっくりと頭を下げた。
「はじめまして、黒瀬蓮です。花村さん、御園さん、よろしくお願いします」
「ラルゴのカフェオレ、美味しいわよね。私は好きよ」
「つっこむところ、そこ?」
「つくづく花村さんって優しいのねって感心してもいるわね。もう会わないって啖呵きっておいて、カフェに誘われたら乗っちゃうなんて」
「ちょっと声、大きいわ」
表情がわかりにくい御園さんだけど、ああ美味しい、ってカフェオレを飲む姿は、あきれてるというより、楽しそう。彼女はカフェオレが好きらしい。
ビジネス街にあるランチタイムのカフェは混雑していた。
誰もが短い休憩時間を有意義に使っていて、私たちの会話になんて興味を持ってない。そうとわかりつつも、誰かに聞かれてるかもしれないと、小声になる。
「反省してるのよ。きっと軽い女だって思われてる」
「相手があなただから軽いのよって言ってみたら? 花村さんにほれてるなら落ちるわよ」
こともなげに言う。
「彼、恋人つくる気なんて全然ないの」
「じゃあ、いっそのこと、付き合うなら抱かせてあげるって言ったらどう?」
「心にもないのに、付き合うって言ったらどうするのよー」
「花村さんは付き合いたいわけじゃないの?」
そう聞かれると、戸惑う。
処女喪失にこだわりすぎてて、後先考えずに蓮と関係を持ってしまったから。
「そういう目で見たことないから」
「恋には慎重なのね」
「恋には……って」
否定もしにくくて黙ると、御園さんは優しげに目尻を下げる。
「とんでもなく突っ走ることもあるけど、交際は真剣に考えてるのねって思って。やっぱり花村さん、すごく真面目でいい人」
「そんなこともないけど……」
「連絡先は消してもらったんだっけ?」
「うん、そう。お互いのために消しましょうって、目の前で消しあったの。でも彼、よくラルゴのカフェに行くみたい。会いたくなったら、ラルゴに来てって言われちゃった」
連絡先を消去したって、都合よく抱かせてくれる女として、蓮にインプットされたままになってしまった。
「興味ないなら行かなきゃいいじゃない?」
「ラルゴはよく利用してたの。休みの日とか。もう行けなくなっちゃった」
最寄駅の目の前にあるラルゴは、休日のブランチにちょうどいいカフェだったのに。
「ラルゴのカフェオレ、美味しいものね」
「結局、そこに行きつくのね」
あきれたように言うと、御園さんはすました表情で口もとをぬぐって、財布を手に取った。
「話してても、らちがあかないから、戻りましょう」
「いつも話聞いてくれてありがとう」
「いいわよ。花村さんって不器用だから、見てると応援したくなるのよ。それに、楽しいし」
「楽しいって……」
動物園の珍獣を見てるような感覚みたい。奇怪な行動をとる私はおもしろくて仕方ないのだろう。自覚があるだけに、反論も出てこない。
御園さんに続いてカフェを出た。オフィスに戻るとすぐにデスクについて、パソコンを立ち上げる。そのとき、係長のデスクの電話が鳴った。
環さんが電話に出ると同時に始業のチャイムが鳴って、彼女は送話口を押さえた。
そして、チャイムが鳴り止むと、「わかりました」と短く言って、立ち上がる。
「花村、御園、ちょっと。今から開発に行くからついてきて」
「はい」
私と御園さんは同時に返事をして立ち上がり、顔を見合わせて、一つうなずく。
今日は11月いっぴ。開発の研究部門に配属された理学療法士の資格を持つ社員と顔合わせがあると、前もって知らされていた。
オフィスを出ていく環さんの後に続く。
開発部は一つ上のフロアにある。
エレベーターに乗って移動すると、環さんから第二会議室で待つように指示があり、私と御園さんは誰もいない会議室に入った。
「理学療法士の資格もってる人なんて、いつ配属になったの? 知ってる?」
席に座るなり、御園さんに尋ねると、彼女は平然と答える。
「中途採用よ。社内報に載ってたから」
「え、うそっ。全然気づかなかったわ」
「10月採用で、ふたりよ。理学療法士と作業療法士、一人ずつ」
御園さんはなんでもよく知ってる。観察力が高いのだろう。
「中途採用取るなんて、珍しいよね」
「そうね。アプリ開発のためだったのかしらって、今なら思うわ」
「あ、そっか。それね」
納得、とうなずいたとき、廊下の方で話し声が聞こえて、会議室のドアが薄く開く。
素早く立ち上がると、環さんが入ってくる。そして、彼女に続いて現れたひとりの青年を見て、私はぽかんと口を開けていた。
「紹介します。開発部所属の研究員で、理学療法士の黒瀬蓮さん」
蓮は私を見ると、おかしそうに口もとがゆるむのを引き締め、ゆっくりと頭を下げた。
「はじめまして、黒瀬蓮です。花村さん、御園さん、よろしくお願いします」
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