お仕事女子のふつつかな恋愛事情

水城ひさぎ

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二度あることは三度ある?

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「大丈夫だった?」

 横になった蓮は、穏やかな表情で、よくがんばったね、と、ほめるように私の髪をするりとなでた。

 小さくうなずいたら、腕まくらされて、抱き寄せられるままに、胸にほおを寄せた。

 汗ばんだ肌から雄々しい匂いがする。こんなにきれいな男の子なのに、やっぱり力強い青年なんだって、たくましさを感じる。

 このまま眠ってしまいたいぐらい、彼の腕の中は心地がいい。

 彼氏がいたら、仕事で疲れたときも、そうじゃないときでも、こうやっていやされたりするのだろう。

 これから先もひとりで生きていけるスキルを身につけていこうと思ってるけど、やっぱり、彼氏がいてくれたら、精神的に安らげるときもあるだろうし、彼をいやしてあげることもきっとできる。

 そういう営みを今まで知らなかったなんて、ずっと損してた。

 そして、そういう時間を過ごして結婚に至った女性に向けたアプリ開発を企画してるのだ。

 きっとみんな、いろんな気持ちを抱えて、ダイエットに励んでる。すべてを知るのは難しいけど、それぞれの悩みに寄り添えるアプリをつくりたいって情熱が私の中に生まれるのを感じた。

「佳澄さんは、彼氏つくらないの? モテないっていうけど、好きな人もいないのかなって思ってさ」

 ひたいに張り付いた私の前髪をもてあそびながら、蓮が尋ねてくる。

「好きになれる人って周りにいなくて。彼氏はちょっと、ほしいなって思っちゃった。蓮くんとしたの、後悔してないけど、やっぱり……」

 その続きを言うのは、傷つけるんじゃないかと思って押し黙ると、彼はさっして笑った。

「やっぱり、好きな人としたいよね」
「蓮くんだって、好きな人としたかったよね?」

 無理をお願いしたのは私の方。

 恋に積極的に生きていたら、きっと出会いはいろんなところにあって、好きな人と付き合えなかったとしても、蓮とこうして過ごす日なんてなかったはず。

 彼を巻き込んだのは私で、後悔するとしたら、彼の気持ちまで考えてあげられなかったことだと思う。

「俺は別に。きれいな人を抱けるなら、誰だっていいんだ」

 私を見つめていた目を、無意識にか、そらした。

 ずいぶん投げやりに言うのだ。

 誰だっていいと思ってたのは私もだけど、今は誰でもいいなんて思ってない。

 蓮くんは好きな人と肌を合わせる喜びを知ってたのに、誰でもいいって言うなんて悲しいじゃないかと思う。

「あっ、蓮くんって彼女いないの? いたら、大変……」
「今さら確認? 大丈夫だよ、彼女はずっといないから」

 蓮は苦笑しつつ、私を安心させてくれるみたいに、優しく目尻を下げてほほえんだ。

「ずっと?」

 いつから?

「もう何年経ったのか忘れたぐらい、ずっと昔だよ」
「蓮くんならすぐに彼女できそうなのに」

 彼の場合は、できないんじゃなくて、つくらないのかもしれないけれど。

「そういう佳澄さんも、すぐにできるよ、彼氏」
「出会い、探さなきゃね」
「俺との出会いは探してなかった?」

 くすくす笑って、彼は言う。

 素肌を寄せ合いながら、彼氏つくりたいって話してる私がおかしいのだろう。

「蓮くんとはなりゆきだったけど、ちゃんと選んでたのかも」

 御園さんは、誰でもいいなら蓮でいいと言った。きっと、私に合うって思ってたから勧めてくれたんだと思う。

 私も、彼女みたいに人を見る目があったら、もうずっと前に彼氏ができてたかもしれない。これまで出会ってきた男性の中に、もしかしたら彼氏になってくれる人がいたかもしれない。

「なりゆき、かぁ。佳澄さんがチラチラこっち見てたから、俺に興味あるのかと思ってたけど」
「チラチラ見てた?」
「見てたよ、レストランで」

 やっぱり気づかれてた。じろじろ見られてたら、蓮でなくても気になっただろう。

「あれは……ごめんね。蓮くんが御園さんとずっと見つめ合ってたから、知り合いなの? って話をしてただけ」
「御園さんって、一緒にいた人?」
「うん。同じ会社の人なの。パールムの入り口で、ずっと見つめ合ってたじゃない」

 少し考える風にして、蓮は天井を見上げていたが、ようやく思い出したのか、「あ」と声をもらす。

「特徴のある人だよね。どっかで会ったことあるような気がして、なんかつい、見ちゃってさ。同じ会社の人なんだ」
「うん、同じ部署で働いてるの」
「へえ。佳澄さんとは全然印象の違う人だったからさ。同僚なんだね。それで、なりゆきだけどちゃんと選んでたって、なんの話?」

 興味本位で知りたそうにするから、隠すこともないかなって、正直に話す。

「実をいうと、彼女なの。彼女が蓮くんなら、私を抱いてくれるんじゃない? って。それで自信つけてって、励ましてくれたの」
「ふーん」
「あ、蓮くんを利用するつもりだったわけじゃないよ。お互いにそういう気持ちになるなら、相手としては申し分ないよね、って話になっただけ」
「それで俺は、選ばれた男なんだ。別に怒ってないよ。佳澄さんを抱けて、気持ちいい思いしたんだしね」

 胸のあたりがモゾっとする。
 さっきまでの快楽を呼び戻そうとするみたいに、蓮の大きな手が胸を包み込んでる。

 またスイッチが入っちゃったんだろうか。
 どうしよう。2回も3回も一緒だって思ってたら。

「蓮くん、ちょっと……だめ」
「真っ赤になってかわいいよね。初々しいっていうかさ。だめって、そんな色っぽい声出したら、違う意味で受け取るよ、男は。今夜、このまま泊まっていく?」

 それは、3回目の催促?

「あっ……ごめんね。私はそういうつもりなくて……」

 快楽の余韻から抜け出したのに、ずっと身を寄せ合ってるから、変な誤解をさせちゃったんだろう。

「そういうつもりって?」
「だから、蓮くんとはもう……」
「そんなはっきり決めなくてもいいよ」
「え?」

 意外なことを言うから驚いてしまう。

「また抱かれたくなったら、連絡してよ。俺がしたいって言ってもダメそうだけど」
「そんなの、もうないから」
「二度あることは三度あるっていうじゃん」
「もう会わないから」

 きっぱりと言う。

 やっぱり誤解させた。それはそう。お遊びってそういうものだ。抱きたい時だけ会って、抱いたら終わり。また抱きたくなったら会う。それだけ。

「会うよ」
「蓮くんに会いたいって言われても、もう来ないから」
「わかってるよ。でも佳澄さんは、必ず俺と会うよ」

 自信満々に言うのだ。

 私の体に与えた悦びに自信があるから。
 いつの日か、また抱いてほしくなる私を見透かしてるみたいに。

「蓮くんには感謝してる。でもこういう関係を続けたいわけじゃないから」

 ベッドから降りて、床に散らばる下着をつける。蓮の視線を感じるけど、この際、恥ずかしいとか思ってられなくて、ソファーの背に引っかかるブラウスとスカートを身にまとう。

 強固な鎧を来たような気になってかばんを手に取ると、ようやく蓮は体を起こして、ベッドの上であぐらをかいた。

「佳澄さんって真面目だよね。俺に抱かれたのって、ほんとに気の迷いだったんだ。だったら俺は、ラッキーだったな」

 そう言って、彼は「インスタントじゃ味気ないから、カフェにでも行こうよ」と、私を誘った。
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