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好きじゃなきゃしない
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「えー、全然なの? ますますきれいになったから、絶対、彼氏できたと思ったのにー」
「変わったかな……」
「変わった変わった。ね、紀子もそう思わない? 雰囲気が柔らかくなったよね」
ほおに手をあてる私の顔を、紀子までのぞき込んでくる。
「うん、そうだね。肌もすごくきれい。仕事大変そうだったけど、気持ちに余裕でもできたの?」
紀子もそう思うんだ。
「あー、どうなんだろ。今の部署に変わってから、だいぶ仕事には慣れたけど……そうかな、余裕ができたのかな」
男を知るときれいになる、なんて都市伝説かと思ってたけど、蓮との出会いで変わったのだろうか。なんだかそれも恥ずかしい。
「佳澄はどんどんきれいになるよね。やっぱりサク美のジムに通おうかなぁ。佳澄は週1で行ってるんだっけ?」
「今はそんなに行ってないよ。毎日のストレッチは欠かさないけど、食べすぎたなぁって思ったときにジムに行ったり、ジョギングしたりしてるだけ」
「大してやってないように聞こえて、ちゃんと体のケアしてるんだもんなぁ」
「習慣になっちゃってるかも」
昔はおっくうに感じてたことが、今ではやらないと落ち着かないぐらいになってる自覚はある。
サク美に就職しなかったら、ダイエットに興味はあっても、何をやったらいいかわからなくて今でも悩んでたかもしれないけれど。
「それが大変なんだって。そんなにきれいなのに、男がいないなんてもったいない。もっと人生楽しまなきゃ」
楽しまなきゃ、か。
「結婚相談所とか、登録してみようかな」
出会いが待ってても来ないなら、自分から探すしかない。
私を本気で好きになってくれて、私も好きになれる人。そんな人に出会いたい。
「結婚相談所でいいのー? 晃の友だち関係で、合コンしてもいいよ」
「合コンって、軽そうだし」
蓮とあんななりゆきで関係を持ってしまったくせに、及び腰になる。
「佳澄は潔癖だねー。あっ、そうだ、佳澄さ、大学時代、伊達先輩が好きだったよね?」
「えっ!」
思いがけない懐かしい名前を聞いて、驚いてしまう。
誰にも話してないのに、なんで加奈江は知ってるんだろう。
そう顔に書いてしまっていたのか、彼女はふふんと鼻を鳴らして笑った。
「見てたらわかるよ。佳澄、先輩が近づくと目をそらすくせに、遠くにいるとずっと追っかけてたもん」
伊達孝明先輩とは、大学の写真サークルで知り合った。
サークルに入るつもりはなかったけれど、写真が好きだった加奈江に誘われたのがきっかけだった。
伊達先輩は3つ年上で、優しくてカッコよくて、人気者だった。別の大学に通う女性と付き合っていて、いつも幸せそうにしていた。
私はそんな幸せそうな先輩を見ていられるだけで幸せを感じていた。
先輩の彼女になりたいなんて思ってなかったから、必要以上に落ち込まなかったし、加奈江にも相談しなかった。
「そんなにわかりやすかった?」
「わかるわかる。みんな、気づいてたけど、知らないふりしてたもん」
「うそっ」
じゃあ、伊達先輩も私の気持ちに気づいてたんだろうか。
「先輩、大学卒業しても、たまにサークルに来てくれてたでしょー? 佳澄のこと、妹みたいにかわいがってたよねー」
「かわいがるって、就職の相談に乗ってもらっただけ」
「そうだっけー? やたらと佳澄の心配するなぁって思った記憶だけはあるんだよね」
加奈江の記憶はどこかで誇張されちゃってるんだろう。
先輩は誰にでも、分け隔てなく優しかった。私が特別だったわけじゃない。
「ドジだったからだよ、きっと」
苦笑いしながら言うと、加奈江もすんなりうなずいた。
「佳澄はお人好しだもんねー。心配で仕方なかったのかもね。あ、でさ、だいぶ話それちゃったけど、伊達先輩、今はフリーなんだって」
「今でも会うの? 先輩と」
加奈江が先輩と連絡取り合ってるなんて知らなかった。
「ううん。たまたま会ったの。晃と旅行に出かけた先で、偶然。って言っても、桜が有名なところだったから、先輩も写真撮りに来てたみたいだけど」
「加奈江も先輩も、今でも写真続けてるんだね」
「私はたまにだよ。旅行に行くときぐらい」
「私は全然、写真うまくならなかったから」
写真サークルに所属しながら、私はお菓子を焼いては差し入れしていただけだった。
「佳澄は美味しいお菓子、よく作ってくれたもんねー。すっごくきれいなケーキとか、写真撮ったの覚えてる」
「そんなこともあったね。懐かしい」
「あ、また話が脱線。でさでさ、結婚したって話したら、先輩、先越されたなって言ってて。流れで、今はフリーで彼女募集中だって知ったの」
加奈江は社交的で、誰のふところでも簡単に飛び込んで、デリケートな話題もさらっと聞き出しちゃうからすごいと思う。
「元気そうだった?」
「うん。先輩も懐かしがってた。サークルの仲間は結婚してる子が増えてなかなか会えないけど、いつかみんなが落ち着いた頃に同窓会やろうって。連絡先交換したから、先輩となら連絡取れるよ」
「そうなんだー。同窓会かぁ……」
それほど写真が好きじゃなかっただけに、気後れしちゃう。そんな私を見て、加奈江はあきれてる。
「そうなんだ、じゃないでしょ。伊達先輩の連絡先、知ってるの、私。ねー、佳澄、先輩に会ってみない? 昔と全然変わってないよ。カッコいいままだし、佳澄は元気にしてる? って覚えてくれてたよ」
「えぇ、会うって……」
どきっとしてしまう。昔好きだった人に会う心がまえなんて全然ない。
「大丈夫大丈夫。私がうまいこと言っておくから。ふたりで会ってきなよー」
「急に言われても」
「じゃあ、先輩に連絡してみる。先輩が佳澄に会いたいって言うなら、会ってみなさいよ。土曜日の夜なら空いてるよね? 決まったら連絡入れるから」
早口でまくし立てる加奈江についていけなくて混乱してしまう。そうしてるうちに、彼女はスマホを取り出して、早々に伊達先輩にメールを送ってしまったみたいだった。
「変わったかな……」
「変わった変わった。ね、紀子もそう思わない? 雰囲気が柔らかくなったよね」
ほおに手をあてる私の顔を、紀子までのぞき込んでくる。
「うん、そうだね。肌もすごくきれい。仕事大変そうだったけど、気持ちに余裕でもできたの?」
紀子もそう思うんだ。
「あー、どうなんだろ。今の部署に変わってから、だいぶ仕事には慣れたけど……そうかな、余裕ができたのかな」
男を知るときれいになる、なんて都市伝説かと思ってたけど、蓮との出会いで変わったのだろうか。なんだかそれも恥ずかしい。
「佳澄はどんどんきれいになるよね。やっぱりサク美のジムに通おうかなぁ。佳澄は週1で行ってるんだっけ?」
「今はそんなに行ってないよ。毎日のストレッチは欠かさないけど、食べすぎたなぁって思ったときにジムに行ったり、ジョギングしたりしてるだけ」
「大してやってないように聞こえて、ちゃんと体のケアしてるんだもんなぁ」
「習慣になっちゃってるかも」
昔はおっくうに感じてたことが、今ではやらないと落ち着かないぐらいになってる自覚はある。
サク美に就職しなかったら、ダイエットに興味はあっても、何をやったらいいかわからなくて今でも悩んでたかもしれないけれど。
「それが大変なんだって。そんなにきれいなのに、男がいないなんてもったいない。もっと人生楽しまなきゃ」
楽しまなきゃ、か。
「結婚相談所とか、登録してみようかな」
出会いが待ってても来ないなら、自分から探すしかない。
私を本気で好きになってくれて、私も好きになれる人。そんな人に出会いたい。
「結婚相談所でいいのー? 晃の友だち関係で、合コンしてもいいよ」
「合コンって、軽そうだし」
蓮とあんななりゆきで関係を持ってしまったくせに、及び腰になる。
「佳澄は潔癖だねー。あっ、そうだ、佳澄さ、大学時代、伊達先輩が好きだったよね?」
「えっ!」
思いがけない懐かしい名前を聞いて、驚いてしまう。
誰にも話してないのに、なんで加奈江は知ってるんだろう。
そう顔に書いてしまっていたのか、彼女はふふんと鼻を鳴らして笑った。
「見てたらわかるよ。佳澄、先輩が近づくと目をそらすくせに、遠くにいるとずっと追っかけてたもん」
伊達孝明先輩とは、大学の写真サークルで知り合った。
サークルに入るつもりはなかったけれど、写真が好きだった加奈江に誘われたのがきっかけだった。
伊達先輩は3つ年上で、優しくてカッコよくて、人気者だった。別の大学に通う女性と付き合っていて、いつも幸せそうにしていた。
私はそんな幸せそうな先輩を見ていられるだけで幸せを感じていた。
先輩の彼女になりたいなんて思ってなかったから、必要以上に落ち込まなかったし、加奈江にも相談しなかった。
「そんなにわかりやすかった?」
「わかるわかる。みんな、気づいてたけど、知らないふりしてたもん」
「うそっ」
じゃあ、伊達先輩も私の気持ちに気づいてたんだろうか。
「先輩、大学卒業しても、たまにサークルに来てくれてたでしょー? 佳澄のこと、妹みたいにかわいがってたよねー」
「かわいがるって、就職の相談に乗ってもらっただけ」
「そうだっけー? やたらと佳澄の心配するなぁって思った記憶だけはあるんだよね」
加奈江の記憶はどこかで誇張されちゃってるんだろう。
先輩は誰にでも、分け隔てなく優しかった。私が特別だったわけじゃない。
「ドジだったからだよ、きっと」
苦笑いしながら言うと、加奈江もすんなりうなずいた。
「佳澄はお人好しだもんねー。心配で仕方なかったのかもね。あ、でさ、だいぶ話それちゃったけど、伊達先輩、今はフリーなんだって」
「今でも会うの? 先輩と」
加奈江が先輩と連絡取り合ってるなんて知らなかった。
「ううん。たまたま会ったの。晃と旅行に出かけた先で、偶然。って言っても、桜が有名なところだったから、先輩も写真撮りに来てたみたいだけど」
「加奈江も先輩も、今でも写真続けてるんだね」
「私はたまにだよ。旅行に行くときぐらい」
「私は全然、写真うまくならなかったから」
写真サークルに所属しながら、私はお菓子を焼いては差し入れしていただけだった。
「佳澄は美味しいお菓子、よく作ってくれたもんねー。すっごくきれいなケーキとか、写真撮ったの覚えてる」
「そんなこともあったね。懐かしい」
「あ、また話が脱線。でさでさ、結婚したって話したら、先輩、先越されたなって言ってて。流れで、今はフリーで彼女募集中だって知ったの」
加奈江は社交的で、誰のふところでも簡単に飛び込んで、デリケートな話題もさらっと聞き出しちゃうからすごいと思う。
「元気そうだった?」
「うん。先輩も懐かしがってた。サークルの仲間は結婚してる子が増えてなかなか会えないけど、いつかみんなが落ち着いた頃に同窓会やろうって。連絡先交換したから、先輩となら連絡取れるよ」
「そうなんだー。同窓会かぁ……」
それほど写真が好きじゃなかっただけに、気後れしちゃう。そんな私を見て、加奈江はあきれてる。
「そうなんだ、じゃないでしょ。伊達先輩の連絡先、知ってるの、私。ねー、佳澄、先輩に会ってみない? 昔と全然変わってないよ。カッコいいままだし、佳澄は元気にしてる? って覚えてくれてたよ」
「えぇ、会うって……」
どきっとしてしまう。昔好きだった人に会う心がまえなんて全然ない。
「大丈夫大丈夫。私がうまいこと言っておくから。ふたりで会ってきなよー」
「急に言われても」
「じゃあ、先輩に連絡してみる。先輩が佳澄に会いたいって言うなら、会ってみなさいよ。土曜日の夜なら空いてるよね? 決まったら連絡入れるから」
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