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好きじゃなきゃしない
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しばらく待ってみたけれど、既読になっても、先輩からの返信は来なかった。
連絡来たら教えるから、って加奈江に言われて、うなずきつつ、紀子を見やる。
「ごめんね。大学のときの話しても楽しくないよね」
「ううん。佳澄、好きな人いたんだーって、なんか新鮮。聞いてて楽しいから大丈夫だよ」
紀子はにこにこしながらそう言ってくれる。
「紀子はバイト先で旦那さまと出会ったんだよね?」
「うん、そう。居酒屋のお客さん。付き合ってすぐ結婚したから、デートとかもあんまりしてないし、佳澄にはたくさん楽しんでほしいな」
「ほんとほんと。同棲始めたら、全然出かけなくなっちゃったし。恋してる時が一番楽しいよー」
加奈江も同調してそう言う。
その恋に無縁だった私からしたら、同棲も結婚もうらやましいばかりだけど。
「紀子、時間大丈夫?」
食後のデザートを食べ終え、腕時計を見る。3時をすぎたところだった。
夕食の準備があるから、はやめに帰らないといけないって聞いていた。
「そろそろ帰ろうかな。ふたりはどうするの?」
「私は欲しいかばんがあるから」
加奈江がそう言う。
彼女のショッピングにはこだわりがあるから、一緒に来て、とは言わないだろうと思う。
「私も帰るよ。明日も仕事だし。紀子、地下鉄でしょ? 途中まで一緒に帰ろ」
「オッケー。じゃあ、佳澄、伊達先輩から連絡あったらメールする。紀子、また会おうね。元気な顔見れてよかった」
「うん、加奈江も佳澄も、日にち合わせてくれてありがとうね」
私たちはそれぞれにそう言って、立ち上がる。
レストランを出ると、店の前で加奈江と別れ、紀子と一緒に地下鉄の駅へ向かって歩き出した。
「楽しかったね。駿くん、もう家に帰ってるかな。大きくなったよね、きっと」
「もう来年、小学生だもん。はやい」
「えー、もうそんなになる? はやいね」
「早生まれだからねー。私さ、仕事始めようと思ってる」
さらりと言った紀子の言葉に驚いて、一瞬足が止まってしまった。
「そうなの?」
あわてて先を行く彼女に追いついて、尋ねる。
「長く続けられないかもしれないって思って言わなかったんだけど、実家の近くに新しく内科ができるの。この間、面接に行ってきて、採用してもらえるって」
彼女はそう答えたけど、加奈江が仕事と育児の両立は難しいから仕事しないんでしょって言ったから、言い出しにくかったのかもしれない。
「そっかぁ。よかったね」
「うん。実家が近いから、駿に何かあっても親が見てくれるって言うし、いい環境で働けるかなって思って」
「実家って、近いんだっけ?」
気になって、尋ねる。
「ちょっと遠いけど……、通えない距離じゃないから大丈夫だよ」
「そっか。無理しないでね。環境変わると体調崩すって聞くし。おばさんたちに頼ってね」
「佳澄ならそう言ってくれると思った。がんばるよ、私」
無意識に強ばっていた表情が和らいだ。
紀子はずっとひとりで悩んできたのかもしれない。
私に遠慮して、家庭の話をしないんじゃなくて、私が、聞くよって態度を示してこなかったから。
「紀子、忙しいかもしれないけど、いつでもメールしてね。私、時間だけはあるから」
「時間があったらダメでしょー。佳澄は賢いから心配してないけど、いい人見つけてね。私ね、高校のとき、たくさん佳澄に助けてもらったから、幸せになってほしいってずっと思ってた。加奈江の前では言えなかったけど……」
ちょっと言葉を濁して、口をつぐむ。
「うん、なに?」
促すように、私は紀子の顔をのぞき込むと、彼女はわずかにほおを緊張させていた。
「加奈江を否定するわけじゃないよ。でも、誰と結婚することになっても、籍は入れた方がいいと思う。ごめんね。古くさい考えで。キャリアを捨てずに子育ては難しいのかもしれないけど、私は籍入れて、幸せだったから。佳澄は後悔のない結婚してね」
一気に思いを吐き出して気持ちが晴れたのか、いつものように柔らかくにこりとほほえんだ。
連絡来たら教えるから、って加奈江に言われて、うなずきつつ、紀子を見やる。
「ごめんね。大学のときの話しても楽しくないよね」
「ううん。佳澄、好きな人いたんだーって、なんか新鮮。聞いてて楽しいから大丈夫だよ」
紀子はにこにこしながらそう言ってくれる。
「紀子はバイト先で旦那さまと出会ったんだよね?」
「うん、そう。居酒屋のお客さん。付き合ってすぐ結婚したから、デートとかもあんまりしてないし、佳澄にはたくさん楽しんでほしいな」
「ほんとほんと。同棲始めたら、全然出かけなくなっちゃったし。恋してる時が一番楽しいよー」
加奈江も同調してそう言う。
その恋に無縁だった私からしたら、同棲も結婚もうらやましいばかりだけど。
「紀子、時間大丈夫?」
食後のデザートを食べ終え、腕時計を見る。3時をすぎたところだった。
夕食の準備があるから、はやめに帰らないといけないって聞いていた。
「そろそろ帰ろうかな。ふたりはどうするの?」
「私は欲しいかばんがあるから」
加奈江がそう言う。
彼女のショッピングにはこだわりがあるから、一緒に来て、とは言わないだろうと思う。
「私も帰るよ。明日も仕事だし。紀子、地下鉄でしょ? 途中まで一緒に帰ろ」
「オッケー。じゃあ、佳澄、伊達先輩から連絡あったらメールする。紀子、また会おうね。元気な顔見れてよかった」
「うん、加奈江も佳澄も、日にち合わせてくれてありがとうね」
私たちはそれぞれにそう言って、立ち上がる。
レストランを出ると、店の前で加奈江と別れ、紀子と一緒に地下鉄の駅へ向かって歩き出した。
「楽しかったね。駿くん、もう家に帰ってるかな。大きくなったよね、きっと」
「もう来年、小学生だもん。はやい」
「えー、もうそんなになる? はやいね」
「早生まれだからねー。私さ、仕事始めようと思ってる」
さらりと言った紀子の言葉に驚いて、一瞬足が止まってしまった。
「そうなの?」
あわてて先を行く彼女に追いついて、尋ねる。
「長く続けられないかもしれないって思って言わなかったんだけど、実家の近くに新しく内科ができるの。この間、面接に行ってきて、採用してもらえるって」
彼女はそう答えたけど、加奈江が仕事と育児の両立は難しいから仕事しないんでしょって言ったから、言い出しにくかったのかもしれない。
「そっかぁ。よかったね」
「うん。実家が近いから、駿に何かあっても親が見てくれるって言うし、いい環境で働けるかなって思って」
「実家って、近いんだっけ?」
気になって、尋ねる。
「ちょっと遠いけど……、通えない距離じゃないから大丈夫だよ」
「そっか。無理しないでね。環境変わると体調崩すって聞くし。おばさんたちに頼ってね」
「佳澄ならそう言ってくれると思った。がんばるよ、私」
無意識に強ばっていた表情が和らいだ。
紀子はずっとひとりで悩んできたのかもしれない。
私に遠慮して、家庭の話をしないんじゃなくて、私が、聞くよって態度を示してこなかったから。
「紀子、忙しいかもしれないけど、いつでもメールしてね。私、時間だけはあるから」
「時間があったらダメでしょー。佳澄は賢いから心配してないけど、いい人見つけてね。私ね、高校のとき、たくさん佳澄に助けてもらったから、幸せになってほしいってずっと思ってた。加奈江の前では言えなかったけど……」
ちょっと言葉を濁して、口をつぐむ。
「うん、なに?」
促すように、私は紀子の顔をのぞき込むと、彼女はわずかにほおを緊張させていた。
「加奈江を否定するわけじゃないよ。でも、誰と結婚することになっても、籍は入れた方がいいと思う。ごめんね。古くさい考えで。キャリアを捨てずに子育ては難しいのかもしれないけど、私は籍入れて、幸せだったから。佳澄は後悔のない結婚してね」
一気に思いを吐き出して気持ちが晴れたのか、いつものように柔らかくにこりとほほえんだ。
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