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約束の場所で待ってる
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蓮に会って話したいことがある。
そう思う時ほど、会えないものだった。
ラルゴの前を通りがかり、店内に蓮の姿を探した。だけど、彼の姿はどこにもなかった。
カフェオレ、飲んで帰ろうかな。
運が良ければ、蓮に会えるかもしれない。
期待を胸に店内へ入り、カウンターでホットカフェオレを購入すると、窓際の席に座った。ここからなら、駅の改札を出てきた人たちの顔が見える。
カフェオレがなくなる頃になっても、蓮の姿は見つけられなかった。
12月はじきに終わる。もうこのまま会えないかもしれない。一抹の不安がよぎったけれど、彼のマンションを訪ねる勇気はなかった。
私は三浦さんとお見合いした。
その言葉が自戒となっていた。
あきらめて席を立ち、ラルゴを出た。蓮のマンションの前を通ると、エレベーターに乗り込む彼の背中がちらりと見えた。
あっ、と小さく声をあげたけれど、閉まるドアを見送るしかなかった。
蓮はもう帰宅していたのだ。会えないはずだ。
何やってるんだろ。
苦笑して、アパートに帰った。集合ポストを開き、伸ばしかけた手を止めた。
化粧品のDMと重なるようにして、白い封筒が入っていた。その封筒には、『佳澄さんへ』と見慣れない女性らしい文字が書かれている。
バッグの中のスマホが唐突に音を立てる。びっくりしてあわてて取り出すと、蓮からメールが届いていた。
『奈緒からの手紙、ポストに入れたよ。見たくなかったら、捨てて』
いつもの蓮らしい、素っ気ない文面だった。さっき彼がマンションに帰ってきたところだったのは、私のアパートを訪ねた帰りだったのだろう。
まっすぐ帰ってきていたら、蓮に会えたのかもしれない。つくづく私たちは縁がない。
返信はせず、スマホをかばんに入れて、ポストに目を戻した。
捨てて、と言われて捨てられるはずもなく、白い封筒を手に取る。
封筒には封がしてなかった。蓮は読んだのだろうか。奈緒さんも、彼に読まれてもいいと思ってのり付けしなかったのだろう。
部屋に入り、早速ソファーに座ると、びんせんを取り出し、目を通す。
いつも気さくに声をかけてくれた奈緒さんらしからぬ、丁寧な言葉が書き連ねられていた。
_______
佳澄さんへ
突然のお手紙、お許しください。
あなたに迷惑をかけるつもりはなかったのだけど、思い返すと、たくさんのうそをついてしまいました。
何がうそだったのか、一つずつあげる必要はないと思っています。だって蓮は一つもうそをついていないのだから、彼の言葉には真実がつまっているのです。
私が言えたことじゃないけれど、彼を信じてください。
どうしてうそをついてしまったのだろうと、後悔ばかりしてしまうのに、どうしても佳澄さんに会うとうそをついてしまうんです。
あなたに会うたびに、私だけ過去に立ち止まってるような気になってしまって、苦しかったからかもしれません。
良の結婚を知って、何年かぶりに蓮の近況を耳にしました。
蓮がまだ幸せになってないと知って、ほっとしました。蓮も私と同じように、過去に立ち止まってるんじゃないか、と思い込もうとしていたのかもしれません。
でも、全然違いましたね。蓮があなたを好きなこと、すぐにわかりました。
蓮にふられて不幸になった私だけが幸せになれないなんておかしいって思ったんです。蓮が幸せになるのは許せなかったのかもしれません。
良や蓮の幸せを願えない女だったから、私は過去から抜け出せずにいたんだと思います。でも、蓮にいいかげん前を向くように言われ、目が覚めたような気持ちでいます。
自分の幸せは、自分でしか見つけられないんですよね。
私より先に蓮が幸せになるなんて許せなくて、あなたを巻き込んで、いじわるしてしまいました。ごめんなさい。
今の蓮を幸せにできるのは、佳澄さんしかいないのだと思います。あなたは否定するかもしれないけれど。
この手紙は蓮に預けます。
蓮とはもう会わないと約束しました。蓮があなたにこの手紙を届けてくれるかはわからないけれど、あなたが読もうが読まなかろうが、誤解はとけていくと信じています。
小嶋奈緒
_______
手紙を読み終えると、そっと封筒にしまって、テーブルの上に乗せた。ソファーにもたれ、クッションを抱きしめて目を閉じた。
蓮の言葉には、真実が詰まってる。
私はどれだけ、彼の真実を否定してきただろう。奈緒さんの言い分ばかり信じて、彼を誤解してきた。
なぜ、蓮を信じなかったのだろう。こんな私が、彼を愛する資格などあるのだろうか。
蓮に会って話したいことがある。
そう思う時ほど、会えないものだった。
ラルゴの前を通りがかり、店内に蓮の姿を探した。だけど、彼の姿はどこにもなかった。
カフェオレ、飲んで帰ろうかな。
運が良ければ、蓮に会えるかもしれない。
期待を胸に店内へ入り、カウンターでホットカフェオレを購入すると、窓際の席に座った。ここからなら、駅の改札を出てきた人たちの顔が見える。
カフェオレがなくなる頃になっても、蓮の姿は見つけられなかった。
12月はじきに終わる。もうこのまま会えないかもしれない。一抹の不安がよぎったけれど、彼のマンションを訪ねる勇気はなかった。
私は三浦さんとお見合いした。
その言葉が自戒となっていた。
あきらめて席を立ち、ラルゴを出た。蓮のマンションの前を通ると、エレベーターに乗り込む彼の背中がちらりと見えた。
あっ、と小さく声をあげたけれど、閉まるドアを見送るしかなかった。
蓮はもう帰宅していたのだ。会えないはずだ。
何やってるんだろ。
苦笑して、アパートに帰った。集合ポストを開き、伸ばしかけた手を止めた。
化粧品のDMと重なるようにして、白い封筒が入っていた。その封筒には、『佳澄さんへ』と見慣れない女性らしい文字が書かれている。
バッグの中のスマホが唐突に音を立てる。びっくりしてあわてて取り出すと、蓮からメールが届いていた。
『奈緒からの手紙、ポストに入れたよ。見たくなかったら、捨てて』
いつもの蓮らしい、素っ気ない文面だった。さっき彼がマンションに帰ってきたところだったのは、私のアパートを訪ねた帰りだったのだろう。
まっすぐ帰ってきていたら、蓮に会えたのかもしれない。つくづく私たちは縁がない。
返信はせず、スマホをかばんに入れて、ポストに目を戻した。
捨てて、と言われて捨てられるはずもなく、白い封筒を手に取る。
封筒には封がしてなかった。蓮は読んだのだろうか。奈緒さんも、彼に読まれてもいいと思ってのり付けしなかったのだろう。
部屋に入り、早速ソファーに座ると、びんせんを取り出し、目を通す。
いつも気さくに声をかけてくれた奈緒さんらしからぬ、丁寧な言葉が書き連ねられていた。
_______
佳澄さんへ
突然のお手紙、お許しください。
あなたに迷惑をかけるつもりはなかったのだけど、思い返すと、たくさんのうそをついてしまいました。
何がうそだったのか、一つずつあげる必要はないと思っています。だって蓮は一つもうそをついていないのだから、彼の言葉には真実がつまっているのです。
私が言えたことじゃないけれど、彼を信じてください。
どうしてうそをついてしまったのだろうと、後悔ばかりしてしまうのに、どうしても佳澄さんに会うとうそをついてしまうんです。
あなたに会うたびに、私だけ過去に立ち止まってるような気になってしまって、苦しかったからかもしれません。
良の結婚を知って、何年かぶりに蓮の近況を耳にしました。
蓮がまだ幸せになってないと知って、ほっとしました。蓮も私と同じように、過去に立ち止まってるんじゃないか、と思い込もうとしていたのかもしれません。
でも、全然違いましたね。蓮があなたを好きなこと、すぐにわかりました。
蓮にふられて不幸になった私だけが幸せになれないなんておかしいって思ったんです。蓮が幸せになるのは許せなかったのかもしれません。
良や蓮の幸せを願えない女だったから、私は過去から抜け出せずにいたんだと思います。でも、蓮にいいかげん前を向くように言われ、目が覚めたような気持ちでいます。
自分の幸せは、自分でしか見つけられないんですよね。
私より先に蓮が幸せになるなんて許せなくて、あなたを巻き込んで、いじわるしてしまいました。ごめんなさい。
今の蓮を幸せにできるのは、佳澄さんしかいないのだと思います。あなたは否定するかもしれないけれど。
この手紙は蓮に預けます。
蓮とはもう会わないと約束しました。蓮があなたにこの手紙を届けてくれるかはわからないけれど、あなたが読もうが読まなかろうが、誤解はとけていくと信じています。
小嶋奈緒
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手紙を読み終えると、そっと封筒にしまって、テーブルの上に乗せた。ソファーにもたれ、クッションを抱きしめて目を閉じた。
蓮の言葉には、真実が詰まってる。
私はどれだけ、彼の真実を否定してきただろう。奈緒さんの言い分ばかり信じて、彼を誤解してきた。
なぜ、蓮を信じなかったのだろう。こんな私が、彼を愛する資格などあるのだろうか。
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