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約束の場所で待ってる
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「tofitは仮のプロジェクト名だったけど、そのまま正式採用されることになりました。企画書も係長から太鼓判いただきました。紆余曲折あったけど、私たちの要望がしっかりまとまった企画書は、手応えじゅうぶんなものになりました。御園さん、あかりちゃん、莉子ちゃん、それに菜乃花ちゃん、本当におつかれさまでした」
一礼すると、第三企画のみんなから、「おつかれさまでした」と拍手が起きる。
こんなに充実した企画は初めてかもしれない。達成感を味わうたびに、私はこの仕事が好きなのだと実感する。
「それでは、午後から新しい企画の説明があるから、気を引き締めてお願いします。じゃあ、解散で」
会議室を出ていくあかりちゃん、莉子ちゃん、菜乃花ちゃんを見送り、御園さんに目を移す。
「御園さん、コーヒー飲む?」
あと10分もしたら、お昼休憩になる。コーヒーでも飲んで、一息つこうと誘うと、御園さんも、いいわね、とうなずいた。
「花村さんはブラック?」
「私が淹れるわ。御園さんはどうする?」
「カプチーノがいいわ。最近、ハマってるの」
「私もそうしようかな。すぐ用意するわね」
コーヒーメーカーでカプチーノをふたつ淹れると、向かい合って座る。改めて、おつかれさまでした、と紙コップで乾杯する。
「お見合い、うまく言ってるのかしら」
唐突に言われて、どきりとする。
「御園さんにまで知られてるの?」
「第一企画の子が憶測で話してるの聞いたのよ。お相手は開発の三浦さん?」
「ええ、そう。その様子だと、結構知られちゃってるのね」
「知られたら困るって思ってるのね」
カプチーノをひと口のんで、御園さんはあいかわらずの無表情で言う。
「お見合いって言っても、すぐに結婚するわけじゃないし、お付き合いしてみてダメになる可能性もあるじゃない?」
「その可能性を感じてるのね、花村さんは。私は黒瀬さんとお付き合いするって思ってたわ」
「黒瀬さんをすすめてくれたのは、御園さんだものね」
蓮は私に合う、と断言したのは彼女だった。その言葉に背中を押されて、私も大胆な行動に出たのではなかったか。
「黒瀬さんはダメだったの?」
「……わからないわ」
「わからないって?」
「私の気持ち一つなんだとは思うの」
「お見合いがダメになるかもって思ってるのは、黒瀬さんがらみって言ってるように聞こえるわよ」
「そんな風に聞こえた?」
御園さんはなんでもお見通しみたい。何も隠せないのだと思う。彼女に言わせてみたら、花村さんはわかりやすい、なんだろうけれど。
「聞こえるわよ。黒瀬さんと三浦さんで迷ってるの?」
「複雑な気分なの。私はきっと、黒瀬さんと……って思ってるんだけど、彼をずっと傷つけてきたから、私じゃダメな気もしてる」
これから先、蓮を傷つける何かが起きるかもしれない。そのたびに、彼は一つずつ誤解をといていくのだろう。
最初は愛し合っていても、いつかは別れが来ることもある。その覚悟が、まだ私にはできてないのだと思う。
「黒瀬さんはそれでもいいって言ってくれてるの?」
「そこまでは話してないの。でも、彼に会ったら、きっとまた流されちゃう」
蓮に会うと、覚悟なんていらないって、感情的になってしまうのだ。
「たしかに流されそうね。黒瀬さんの方がうわ手そうだもの。でもそれって、きちんと話し合ったらわかり合えるんじゃないかしら?」
「わかり合ってもいいと思う?」
私にはもう一つ、大きな懸念がある。
「三浦さんに遠慮してるの?」
「三浦さんとはまだ一度お食事しただけだから」
「次のデートはいつなの?」
「……クリスマス」
小さな声でぽつりと言う。
クリスマスは恋人にとって特別な日だろう。その日を選んだ彼の気持ちをむげに出来ない。
「もう、すぐじゃない。クリスマスを一緒に過ごすなら、三浦さんも期待するわね」
「やっぱり、そうよね」
「そうよ。そうなったら、黒瀬さんは花村さんをあきらめるんじゃないかしら。それでいいの?」
「わからないわ。仕方ないとも思うし、いやだとも思うの」
「答え、出たじゃない。やっぱりいやなのよ、花村さんは。仕方ないなんていうのは、きれいごとよ」
ぴしゃりと言われて、心が傾く。
「やっぱり、そうなのかな」
「そうよ。花村さんって優しいから、三浦さんにも気をつかってるんでしょう。中途半端な優しさはみんなが苦しいだけよ。そうね。こうしたらどうかしら? 三浦さんとのクリスマスデートは私が行くわよ」
「えっ? 御園さんが?」
突拍子もない彼女の提案には驚かされてばかりいる。
「三浦さんってすてきよね」
「冗談やめて」
思わず笑ってしまうと、御園さんもうっすら笑んだ。
「幸せになって、花村さん。思うようにならない恋なんてたくさんあるでしょう? 思うようになるときぐらいは、素直になればいいのよ」
「素直に……」
御園さんは力強くうなずく。
「三浦さんとのデートは第三企画のみんなと行くわ。想像以上に楽しいクリスマスになると思う。もし、三浦さんが第三企画の誰かと結ばれても、うらみっこなしよ」
そう言うと彼女は、らしからぬ笑みを浮かべた。
「tofitは仮のプロジェクト名だったけど、そのまま正式採用されることになりました。企画書も係長から太鼓判いただきました。紆余曲折あったけど、私たちの要望がしっかりまとまった企画書は、手応えじゅうぶんなものになりました。御園さん、あかりちゃん、莉子ちゃん、それに菜乃花ちゃん、本当におつかれさまでした」
一礼すると、第三企画のみんなから、「おつかれさまでした」と拍手が起きる。
こんなに充実した企画は初めてかもしれない。達成感を味わうたびに、私はこの仕事が好きなのだと実感する。
「それでは、午後から新しい企画の説明があるから、気を引き締めてお願いします。じゃあ、解散で」
会議室を出ていくあかりちゃん、莉子ちゃん、菜乃花ちゃんを見送り、御園さんに目を移す。
「御園さん、コーヒー飲む?」
あと10分もしたら、お昼休憩になる。コーヒーでも飲んで、一息つこうと誘うと、御園さんも、いいわね、とうなずいた。
「花村さんはブラック?」
「私が淹れるわ。御園さんはどうする?」
「カプチーノがいいわ。最近、ハマってるの」
「私もそうしようかな。すぐ用意するわね」
コーヒーメーカーでカプチーノをふたつ淹れると、向かい合って座る。改めて、おつかれさまでした、と紙コップで乾杯する。
「お見合い、うまく言ってるのかしら」
唐突に言われて、どきりとする。
「御園さんにまで知られてるの?」
「第一企画の子が憶測で話してるの聞いたのよ。お相手は開発の三浦さん?」
「ええ、そう。その様子だと、結構知られちゃってるのね」
「知られたら困るって思ってるのね」
カプチーノをひと口のんで、御園さんはあいかわらずの無表情で言う。
「お見合いって言っても、すぐに結婚するわけじゃないし、お付き合いしてみてダメになる可能性もあるじゃない?」
「その可能性を感じてるのね、花村さんは。私は黒瀬さんとお付き合いするって思ってたわ」
「黒瀬さんをすすめてくれたのは、御園さんだものね」
蓮は私に合う、と断言したのは彼女だった。その言葉に背中を押されて、私も大胆な行動に出たのではなかったか。
「黒瀬さんはダメだったの?」
「……わからないわ」
「わからないって?」
「私の気持ち一つなんだとは思うの」
「お見合いがダメになるかもって思ってるのは、黒瀬さんがらみって言ってるように聞こえるわよ」
「そんな風に聞こえた?」
御園さんはなんでもお見通しみたい。何も隠せないのだと思う。彼女に言わせてみたら、花村さんはわかりやすい、なんだろうけれど。
「聞こえるわよ。黒瀬さんと三浦さんで迷ってるの?」
「複雑な気分なの。私はきっと、黒瀬さんと……って思ってるんだけど、彼をずっと傷つけてきたから、私じゃダメな気もしてる」
これから先、蓮を傷つける何かが起きるかもしれない。そのたびに、彼は一つずつ誤解をといていくのだろう。
最初は愛し合っていても、いつかは別れが来ることもある。その覚悟が、まだ私にはできてないのだと思う。
「黒瀬さんはそれでもいいって言ってくれてるの?」
「そこまでは話してないの。でも、彼に会ったら、きっとまた流されちゃう」
蓮に会うと、覚悟なんていらないって、感情的になってしまうのだ。
「たしかに流されそうね。黒瀬さんの方がうわ手そうだもの。でもそれって、きちんと話し合ったらわかり合えるんじゃないかしら?」
「わかり合ってもいいと思う?」
私にはもう一つ、大きな懸念がある。
「三浦さんに遠慮してるの?」
「三浦さんとはまだ一度お食事しただけだから」
「次のデートはいつなの?」
「……クリスマス」
小さな声でぽつりと言う。
クリスマスは恋人にとって特別な日だろう。その日を選んだ彼の気持ちをむげに出来ない。
「もう、すぐじゃない。クリスマスを一緒に過ごすなら、三浦さんも期待するわね」
「やっぱり、そうよね」
「そうよ。そうなったら、黒瀬さんは花村さんをあきらめるんじゃないかしら。それでいいの?」
「わからないわ。仕方ないとも思うし、いやだとも思うの」
「答え、出たじゃない。やっぱりいやなのよ、花村さんは。仕方ないなんていうのは、きれいごとよ」
ぴしゃりと言われて、心が傾く。
「やっぱり、そうなのかな」
「そうよ。花村さんって優しいから、三浦さんにも気をつかってるんでしょう。中途半端な優しさはみんなが苦しいだけよ。そうね。こうしたらどうかしら? 三浦さんとのクリスマスデートは私が行くわよ」
「えっ? 御園さんが?」
突拍子もない彼女の提案には驚かされてばかりいる。
「三浦さんってすてきよね」
「冗談やめて」
思わず笑ってしまうと、御園さんもうっすら笑んだ。
「幸せになって、花村さん。思うようにならない恋なんてたくさんあるでしょう? 思うようになるときぐらいは、素直になればいいのよ」
「素直に……」
御園さんは力強くうなずく。
「三浦さんとのデートは第三企画のみんなと行くわ。想像以上に楽しいクリスマスになると思う。もし、三浦さんが第三企画の誰かと結ばれても、うらみっこなしよ」
そう言うと彼女は、らしからぬ笑みを浮かべた。
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