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告白
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しおりを挟む「今日はありがとう。なんか、元気出た」
帰り道、活力が戻ってきているのを感じた私は、啓介にそう告げた。綾からの手紙に思いのほか傷ついていて、弱気になっていたと思うのだ。
いつもアパートまで送ってくれる彼は、心配そうに身を屈めてこちらをのぞき込んでくる。
「元気がなくなるような何かあった?」
「あっ、ううん。仕事で疲れただけ。なんでも話せる友だちに会うのって、大事なんだなって思って」
「友だちか……」
「そうだよ。高校生のときはあんまり話したことなかったけど、10年経ってこんなふうに仲良くなれるなら、もしかしたら、高校時代も仲良くできたかもしれないね」
もっとも、男の子と気安く話すような生活は送ってなかったけれど。
それがいけなかったのだろうか。将司に出会い、何度もアプローチされて、好きだの愛してるだの言われてるうちにお付き合いしてもいいかもしれないと思ってしまった。まさか、釣った魚にエサをやらないタイプの男の人だなんて思ってもなかった。
「なあ、祥子」
気づくと、アパートの前まで来ていた。どこか重たい気持ちを抱えたようなまなざしで、啓介がこちらを見下ろしている。
「どうしたの?」
「高校時代に祥子と話せなかったのは、祥子が学校一の美人だったからだよ」
笑えないような、まじめな顔でそう言ってくる。
「そんなことないよー」
軽口ですぐに否定するが、啓介は笑い話にする気はないようだ。意を決したように唇を引き締めたあと、口を開く。
「あるよ。ずっと好きだったけど、俺なんかと付き合ってもらえるわけないなって思ってた」
「なに言って……」
「一年前に祥子がこっちに帰ってくるって芹奈から聞いて、会わせてほしいって頼んだのは、俺。再会してみて、やっぱり祥子が好きだって思った」
胸がドクンと音を立てる。
うれしいのかなんなのかわからない。将司に傷つけられてから、苦しみや恐怖で胸が張り裂けることばかりで、誰かに好意を見せられて高鳴る胸との違いがわからなくなってしまっている。
「啓介……、ごめん。そういう話は私……」
「迷惑?」
「……迷惑っていうか」
迷惑じゃない。それははっきりとわかる。だけど、喜んでいいとも思えない。
「俺、祥子と付き合いたい。絶対、つらい思いさせない自信があるから」
絶対なんてあるのだろうか。
真剣に告白してくれているのに、そんなふうにしか受け取れない自分に途方にくれる。
まぶたを伏せると、伸びてくる手が視界に入ってくる。その指先が、ほんの少し指先に触れてハッとする。
急に現実に引き戻されて、めまいを覚える。
綾がどこからか見ているかもしれない。
消印のない手紙。あれは、彼女が直接ポストへ投函した証拠。見ている、と宣戦布告してきた彼女が、見ていない確証はない。
啓介を巻き込みたくない。とっさにそう思って、サッと身を引く。
もう遅いかもしれない。綾が見ていたら、私たちを特別な関係だって思ったかもしれない。でも、啓介にどう話せばいいかも思いつかない。
傷ついた表情の彼に何も言えず、私はエントランスに逃げ込んだ。
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