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プロポーズ
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「じゃあ、どうして学生時代にそう言ってくれなかったの?」
「なんでって……、そりゃあ、祥子みたいな綺麗な子はほかにいなくて、尻込みするよ」
彼は照れくさいのか、こめかみをかく。
「昔は高嶺の花だったけど、今はそうじゃないから告白したの? それって、私が離婚したから?」
ハッと彼は表情を固くし、首を振る。
「そうじゃないさ」
「……ごめんね。責めてるわけじゃないんだけど、きっと自信がなくて、ずっと聞いちゃう気がしてるの。なんで私なの? って」
「祥子が好きだからって言っても堂々巡りだよな。どう言ったら納得する? 態度で示すしかないのかな」
「態度……」
私は考え込む。
どうしたら、私は納得するんだろう。啓介が好きって言ってくれるから、付き合ってもいいって、きっと思ってる。だけど、裏切られるのは怖い。そんな気持ちに寄り添える答えなんかあるんだろうか。
「好きって気持ちだけじゃダメなのかな……」
「どういう意味?」
「私はね、好きな人とは精神的につながってたいよ。大切に思う気持ちがあったら、ほかの人に嘘でも好きだなんて言えないと思う。いくら遊びだった、本気じゃなかったって言っても、私を傷つけたのは変わらないんだよ」
「祥子……」
「あの人のことはもうなんとも思ってないけど、どうして結婚までしたのに傷つけたの? って思ってる。あんな思い……もうしたくない」
涙で、困り顔の啓介がかすむ。
「祥子はまだ傷ついてるんだな。そりゃ、そうだよな。でもさ、俺は絶対傷つけないって思ってるし、付き合いたくてしょうがない」
「プラトニックじゃ……だめ?」
思わぬ言葉が口から出て、自分でも驚いた。
「え……、プラトニック?」
啓介も目を丸くする。思ってもない提案だったようだ。
「お互いに大切に思いながら生きていけたら、それだけでいいのにって思って……」
そんな気持ちが言わせたのだと思う。
「俺もそう思うよ。でもさ、いつかはキスしたり抱き合いたいって思う日が来るよ、俺は」
「私は思わないかもしれない……」
啓介に魅力を感じないわけじゃない。ただ、そういう気持ちにはまだなれない。この気持ちがどれほど伝わっているかはわからないけれど、彼は頼りなく眉を下げて言う。
「今は傷ついてるから、そう思うだけだよ。祥子が嫌だって言うならしないし、無理強いもしない。それでもやっぱり、チャンスは欲しい」
「チャンスって?」
「祥子が俺と付き合ってもいいって、少しでも思ってくれてるなら、結婚しよう」
「えっ、結婚?」
唐突な話だ。驚くが、彼は生真面目な顔をする。
「それだけの覚悟をして、祥子に告白してる。それをプラトニックな関係だけで終わらせる気はないよ」
「だからって、いきなり結婚なんて」
「ご両親が籍を入れるにはまだ早いって反対するのが心配なら、事実婚にしよう。結婚式も仲間内だけでやろう。結婚の案内も最低限で。俺は祥子とつながってるんだって、確かなものが欲しいから」
だから、人は抱き合うのだろうか。唯一無二の存在だと、お互いを確かめるために。
だとしたら、将司のしたことはやっぱり最低で、啓介は私がいいと言うまで待ってくれるという。ただ、それではフェアじゃないから、事実婚という形でつながりを持ちたいというのだ。
「事実婚って、一緒に暮らすの?」
「もちろん。同棲っていうか、同居みたいだけどな。引っ越す予定だって言っただろ? 一緒に新居探そう」
そう言って、啓介はからりと笑う。
「前の夫との生活と比べちゃうかもしれないのに? 嫌でしょ? そういうの」
「比べてもいいよ。俺との生活の方が幸せだって思わせる自信あるから」
「待って。ちょっと戸惑ってる」
「あたりまえだよ。でもさ、お互いの気持ちをすり合わせたら、この選択になった。それでいいんじゃないか?」
どうする? と啓介は私の顔をのぞき込む。
こちらを愛おしそうに見つめる彼に釘付けになる。私はきっとこの表情に弱い。私だけを見つめてくれると信じさせるほど、彼の瞳はまっすぐで、純粋だ。
「えっと、あの……前向きに考えてみる。それでもいい?」
「もちろん。じゃあ、次に会う日はマンションを探しに行こう。すぐには一緒に暮らさなくても、いつかはふたりで住める部屋を探そう」
「ゆっくりでいいんだね」
「ああ、無理強いはしないって約束しただろ? ……なんか、速攻でふられると思ってたから、急にお腹が空いてきたな」
わざとらしくお腹をさする彼に、私は尋ねる。
「いつものオムライスにする?」
「祥子は?」
「じゃあ、私も啓介と同じオムライスにする」
そう言うと、啓介はうれしそうに笑む。
私の一挙手一投足で、彼は一喜一憂する。なんでもない言動が誰かに影響を与えてると思うと、私は私で誠実でいなきゃいけないと思う。大事なことを思い出させてくれる人だ、彼は。
このままずっと一緒にいたら、傷ついた心も癒えて、プラトニックな事実婚では満足できない日が来るかもしれない。
だけど今はあわてず、彼の優しさに甘えていよう。いつの日か、彼の思いに応えられる日が来るように、小さな幸せを積み重ねていくのだと思った。
「なんでって……、そりゃあ、祥子みたいな綺麗な子はほかにいなくて、尻込みするよ」
彼は照れくさいのか、こめかみをかく。
「昔は高嶺の花だったけど、今はそうじゃないから告白したの? それって、私が離婚したから?」
ハッと彼は表情を固くし、首を振る。
「そうじゃないさ」
「……ごめんね。責めてるわけじゃないんだけど、きっと自信がなくて、ずっと聞いちゃう気がしてるの。なんで私なの? って」
「祥子が好きだからって言っても堂々巡りだよな。どう言ったら納得する? 態度で示すしかないのかな」
「態度……」
私は考え込む。
どうしたら、私は納得するんだろう。啓介が好きって言ってくれるから、付き合ってもいいって、きっと思ってる。だけど、裏切られるのは怖い。そんな気持ちに寄り添える答えなんかあるんだろうか。
「好きって気持ちだけじゃダメなのかな……」
「どういう意味?」
「私はね、好きな人とは精神的につながってたいよ。大切に思う気持ちがあったら、ほかの人に嘘でも好きだなんて言えないと思う。いくら遊びだった、本気じゃなかったって言っても、私を傷つけたのは変わらないんだよ」
「祥子……」
「あの人のことはもうなんとも思ってないけど、どうして結婚までしたのに傷つけたの? って思ってる。あんな思い……もうしたくない」
涙で、困り顔の啓介がかすむ。
「祥子はまだ傷ついてるんだな。そりゃ、そうだよな。でもさ、俺は絶対傷つけないって思ってるし、付き合いたくてしょうがない」
「プラトニックじゃ……だめ?」
思わぬ言葉が口から出て、自分でも驚いた。
「え……、プラトニック?」
啓介も目を丸くする。思ってもない提案だったようだ。
「お互いに大切に思いながら生きていけたら、それだけでいいのにって思って……」
そんな気持ちが言わせたのだと思う。
「俺もそう思うよ。でもさ、いつかはキスしたり抱き合いたいって思う日が来るよ、俺は」
「私は思わないかもしれない……」
啓介に魅力を感じないわけじゃない。ただ、そういう気持ちにはまだなれない。この気持ちがどれほど伝わっているかはわからないけれど、彼は頼りなく眉を下げて言う。
「今は傷ついてるから、そう思うだけだよ。祥子が嫌だって言うならしないし、無理強いもしない。それでもやっぱり、チャンスは欲しい」
「チャンスって?」
「祥子が俺と付き合ってもいいって、少しでも思ってくれてるなら、結婚しよう」
「えっ、結婚?」
唐突な話だ。驚くが、彼は生真面目な顔をする。
「それだけの覚悟をして、祥子に告白してる。それをプラトニックな関係だけで終わらせる気はないよ」
「だからって、いきなり結婚なんて」
「ご両親が籍を入れるにはまだ早いって反対するのが心配なら、事実婚にしよう。結婚式も仲間内だけでやろう。結婚の案内も最低限で。俺は祥子とつながってるんだって、確かなものが欲しいから」
だから、人は抱き合うのだろうか。唯一無二の存在だと、お互いを確かめるために。
だとしたら、将司のしたことはやっぱり最低で、啓介は私がいいと言うまで待ってくれるという。ただ、それではフェアじゃないから、事実婚という形でつながりを持ちたいというのだ。
「事実婚って、一緒に暮らすの?」
「もちろん。同棲っていうか、同居みたいだけどな。引っ越す予定だって言っただろ? 一緒に新居探そう」
そう言って、啓介はからりと笑う。
「前の夫との生活と比べちゃうかもしれないのに? 嫌でしょ? そういうの」
「比べてもいいよ。俺との生活の方が幸せだって思わせる自信あるから」
「待って。ちょっと戸惑ってる」
「あたりまえだよ。でもさ、お互いの気持ちをすり合わせたら、この選択になった。それでいいんじゃないか?」
どうする? と啓介は私の顔をのぞき込む。
こちらを愛おしそうに見つめる彼に釘付けになる。私はきっとこの表情に弱い。私だけを見つめてくれると信じさせるほど、彼の瞳はまっすぐで、純粋だ。
「えっと、あの……前向きに考えてみる。それでもいい?」
「もちろん。じゃあ、次に会う日はマンションを探しに行こう。すぐには一緒に暮らさなくても、いつかはふたりで住める部屋を探そう」
「ゆっくりでいいんだね」
「ああ、無理強いはしないって約束しただろ? ……なんか、速攻でふられると思ってたから、急にお腹が空いてきたな」
わざとらしくお腹をさする彼に、私は尋ねる。
「いつものオムライスにする?」
「祥子は?」
「じゃあ、私も啓介と同じオムライスにする」
そう言うと、啓介はうれしそうに笑む。
私の一挙手一投足で、彼は一喜一憂する。なんでもない言動が誰かに影響を与えてると思うと、私は私で誠実でいなきゃいけないと思う。大事なことを思い出させてくれる人だ、彼は。
このままずっと一緒にいたら、傷ついた心も癒えて、プラトニックな事実婚では満足できない日が来るかもしれない。
だけど今はあわてず、彼の優しさに甘えていよう。いつの日か、彼の思いに応えられる日が来るように、小さな幸せを積み重ねていくのだと思った。
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