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那波と輝を繋ぐ悲憤
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学生の手作りとは思えないほど滑らかな食感のチーズケーキは、舌鼓を打つに値するほど美味しい。
美味しいものを食べると不思議と心が和らぐのは、私が幸せだと感じている証拠なのだと、祖父に教えてもらったものだ。
輝には半ば強引に部室から連れ出されてしまったけれど、凪の姿を見つけた途端、溢れた不思議な感覚は、それと同じだろうか。
私はチーズケーキが好きで、同様に凪を好ましく思っていると。
「あんた、チーズケーキ好きなのか?」
半分ほど食べ進めたところで、輝が言う。
「好きなんだと思うわ。でもそうでもなかったのかもしれないとも思うの」
「そうでもない? 屈折した言い方するんだな」
「本当のことを言ってるだけよ」
「じゃあ、素直に屈折してるんだな、那波は。俺も同じだ」
「樋野さんは同類だとおっしゃるけど……」
「ちょっと待った。そのさ、樋野さんって呼び方は慣れない。輝って呼べよ。あんたならかまわない。それに敬語もいらない」
輝は先輩だが、呼び捨てしてかまわないという。その名を呼ぼうとして、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「ヒカルってどんな文字を書くの?」
「輝くだよ」
「そう。あなたらしい、と言ったらいけないかしら」
輝の左目に視線を向ける。
彼がその目を隠すのは、少なくとも自信家に見える彼が劣等を感じるほどのものだからだろう。
つまり彼は、唯一の弱点とも言える弱みを、私に見せてくれたのだ。
輝はなぐさめて欲しいと私に言ったが、いまだに彼の心を癒す言葉は見つからない。
「俺らしいか。でもな、この目は生まれつきってわけじゃないんだ」
「いつから?」
「小学生の頃らしい。俺はよく覚えてないんだ。あまりの高熱で記憶が飛んだんだろうな」
「高熱を出してそうなったの? そんなことあるのかしら」
輝は肩をすくめる。
「医者はお手上げだ。眼帯さえしていればどこにだって就職できるとは言われたが、出来ることなら元どおりになることを望んでいる」
「だから私の力で治して欲しいと? 前にも言ったけれど、そんな力はどこにもないの」
「本当か疑わしいと俺は思ってる。高熱を出したのは、俺が江井見家の裏山へ遊びに行った時らしい。親父から聞いた話だが、その点はまず間違いない。この目のせいで進学先が決まらない俺をこの学園に入学させたのは、前学園長の罪滅ぼしだと親父は話した」
祖父と輝のつながりを聞いたのは初めてのことだ。
「罪滅ぼし? その話は祖父に確かめたのかしら?」
「いや、前学園長が亡くなった後に聞いた話だ。亡くなったからこそ、親父は話す気になったのかもしれない。そしてあんただ」
輝は私を人差し指で指す。
「私?」
「俺の目がこうなった後だ、江井見家が人を寄せ付けなくなったのは。あんたがこの町で目撃されるようになったのも、その頃。飛流芽依はそれまでにも何度か目撃されてるのに、双子である那波の存在は知られてなかった。そのあんたが、突然現れたんだ。これは偶然か?」
私は微動だにせず、輝の目を見つめ返す。
「あなたの目と私の存在に何か繋がりがあるというの?」
「あんたの身体は尋常じゃなく冷たい。俺の目と同様、ありえないことだろう?」
「だから同類と?」
「ああそうだ。俺の目がこうなった時、あんたの身体にも異変が起きた。関連がないとは思えない」
「……そう。あなたの話を聞いて少し思うことがあるわ。だけど何度も言うように、私はあなたの目を治してはあげられない」
どうにも出来ないことはある。私自身がそうなのだから、他人を救う力など私が持ち合わせているはずもない。
ため息を吐き出すと、輝は目を細めてフォークを握る私の手をつかむ。
周囲がざわついた。そこでようやく、私たちはたくさんの生徒の目にさらされていたのだと気づく。その中に凪の姿はない。
「どこを見てる?」
教室の入り口の方へ向けた目を戻すと、輝は私の手のこうに唇を寄せた。
「治らないなら癒してもらえるだけでもいい。あんたにはそれが出来る」
「それは恋人になれと言っているの?」
「そうだ。傷を舐めあいながら生きるのも悪くはないな、あんたとなら」
「そんな必要ないわ。輝なら、ちゃんと生きていけるわ。理解ある人に必ず出会えるはずよ」
私と輝は同類かもしれない。けれど、決定的に違うことがある。
私はこの学園以外で生きられる場所は一つしかない。だが輝は、いくつもの世界を切り開くことがいつでも出来るだろう。
「あんたに言われると本当にそんな気がしてくるな」
そう言って、輝はそのまま手のこうにキスを落とす。
周囲のざわめきはどよめきに変わる。ますます教室を覗く生徒は増えるのに、その中に凪の姿を見つけることは出来なかった。
学生の手作りとは思えないほど滑らかな食感のチーズケーキは、舌鼓を打つに値するほど美味しい。
美味しいものを食べると不思議と心が和らぐのは、私が幸せだと感じている証拠なのだと、祖父に教えてもらったものだ。
輝には半ば強引に部室から連れ出されてしまったけれど、凪の姿を見つけた途端、溢れた不思議な感覚は、それと同じだろうか。
私はチーズケーキが好きで、同様に凪を好ましく思っていると。
「あんた、チーズケーキ好きなのか?」
半分ほど食べ進めたところで、輝が言う。
「好きなんだと思うわ。でもそうでもなかったのかもしれないとも思うの」
「そうでもない? 屈折した言い方するんだな」
「本当のことを言ってるだけよ」
「じゃあ、素直に屈折してるんだな、那波は。俺も同じだ」
「樋野さんは同類だとおっしゃるけど……」
「ちょっと待った。そのさ、樋野さんって呼び方は慣れない。輝って呼べよ。あんたならかまわない。それに敬語もいらない」
輝は先輩だが、呼び捨てしてかまわないという。その名を呼ぼうとして、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「ヒカルってどんな文字を書くの?」
「輝くだよ」
「そう。あなたらしい、と言ったらいけないかしら」
輝の左目に視線を向ける。
彼がその目を隠すのは、少なくとも自信家に見える彼が劣等を感じるほどのものだからだろう。
つまり彼は、唯一の弱点とも言える弱みを、私に見せてくれたのだ。
輝はなぐさめて欲しいと私に言ったが、いまだに彼の心を癒す言葉は見つからない。
「俺らしいか。でもな、この目は生まれつきってわけじゃないんだ」
「いつから?」
「小学生の頃らしい。俺はよく覚えてないんだ。あまりの高熱で記憶が飛んだんだろうな」
「高熱を出してそうなったの? そんなことあるのかしら」
輝は肩をすくめる。
「医者はお手上げだ。眼帯さえしていればどこにだって就職できるとは言われたが、出来ることなら元どおりになることを望んでいる」
「だから私の力で治して欲しいと? 前にも言ったけれど、そんな力はどこにもないの」
「本当か疑わしいと俺は思ってる。高熱を出したのは、俺が江井見家の裏山へ遊びに行った時らしい。親父から聞いた話だが、その点はまず間違いない。この目のせいで進学先が決まらない俺をこの学園に入学させたのは、前学園長の罪滅ぼしだと親父は話した」
祖父と輝のつながりを聞いたのは初めてのことだ。
「罪滅ぼし? その話は祖父に確かめたのかしら?」
「いや、前学園長が亡くなった後に聞いた話だ。亡くなったからこそ、親父は話す気になったのかもしれない。そしてあんただ」
輝は私を人差し指で指す。
「私?」
「俺の目がこうなった後だ、江井見家が人を寄せ付けなくなったのは。あんたがこの町で目撃されるようになったのも、その頃。飛流芽依はそれまでにも何度か目撃されてるのに、双子である那波の存在は知られてなかった。そのあんたが、突然現れたんだ。これは偶然か?」
私は微動だにせず、輝の目を見つめ返す。
「あなたの目と私の存在に何か繋がりがあるというの?」
「あんたの身体は尋常じゃなく冷たい。俺の目と同様、ありえないことだろう?」
「だから同類と?」
「ああそうだ。俺の目がこうなった時、あんたの身体にも異変が起きた。関連がないとは思えない」
「……そう。あなたの話を聞いて少し思うことがあるわ。だけど何度も言うように、私はあなたの目を治してはあげられない」
どうにも出来ないことはある。私自身がそうなのだから、他人を救う力など私が持ち合わせているはずもない。
ため息を吐き出すと、輝は目を細めてフォークを握る私の手をつかむ。
周囲がざわついた。そこでようやく、私たちはたくさんの生徒の目にさらされていたのだと気づく。その中に凪の姿はない。
「どこを見てる?」
教室の入り口の方へ向けた目を戻すと、輝は私の手のこうに唇を寄せた。
「治らないなら癒してもらえるだけでもいい。あんたにはそれが出来る」
「それは恋人になれと言っているの?」
「そうだ。傷を舐めあいながら生きるのも悪くはないな、あんたとなら」
「そんな必要ないわ。輝なら、ちゃんと生きていけるわ。理解ある人に必ず出会えるはずよ」
私と輝は同類かもしれない。けれど、決定的に違うことがある。
私はこの学園以外で生きられる場所は一つしかない。だが輝は、いくつもの世界を切り開くことがいつでも出来るだろう。
「あんたに言われると本当にそんな気がしてくるな」
そう言って、輝はそのまま手のこうにキスを落とす。
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