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そこに息づくものたちの行方
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芽依と那波は昨日学校を休んだ。飛流姉妹がそろって学校を休むのは初めてのことらしい。
学園のマドンナであり、常に注目の的である二人のことだ。
今日は来るだろうか。今日も休みだったら、いよいよ何か問題が起きたのではないかとざわつくB組の教室に、一人の男子学生が飛び込んでくる。
「来た、来たよっ」
誰がとは言わないが、飛流姉妹のことだろう。
ホッと胸をなで下ろしつつ、那波に会いに行きたい気持ちもこらえ切れずに立ち上がった。
ガタンっと椅子が鳴る。クラスメイトの奇異な視線が集まるのを感じながら、俺は教室を飛び出す。
そして、すぐに目に飛び込んできた那波の姿に胸を踊らせる。
廊下に吹き込む温かな風で、さらさらと流れる黒髪をなびかせている那波の横顔があまりに綺麗で。
「那波っ」
A組の教室に入っていこうとする彼女を呼び止めた。
「あら、木梨くん、おはよう」
「もう大丈夫? 昨日休みだったから心配した」
「まだ少し慣れないこともあって変な気分よ。でも大丈夫なの。不思議なぐらい、迷いがないの」
「わかる気がするよ」
今日の那波は、今まで出会ってきた彼女の中で一番美しい。真っ白だった頬はわずかに色づいていて、表情も優しく和らいでいる。
何もかもが自然だ。彼女を取り巻く大気も、ふわふわと舞う綿毛のように柔らかで。
「今日、部活はある? 朝さ、安藤先生に放課後、職員室に来るように言われたんだけど」
まるで用事があって呼び止めたんだと体裁を取り繕う。
期末試験を終えた後、運動部以外の部が活動していないことは、安藤先生から聞いてもう知っていたのだが。
「部活は休みよ。私も一緒に行こうかしら」
「そうしてもらえるなら助かるよ。部活のことは、やっぱり部長じゃないとわからないことが多いから」
「わかったわ。他に気になることはなかったかしら? 木梨くんも転校してきたばかりでわからないことも多いのに、不親切だったわね」
「そんなことないよ。でもちょっと気になってることがある」
「なにかしら?」
「紅茶。すぐには必要ないかもしれないけど、紅茶買いに行かないと」
「紅茶? 木梨くんっておかしいのね。気になってることが紅茶だけだなんて」
口元に手を当てて笑う那波の姿を初めて見た。
可愛い。そう思うけど、少し彼女が意地悪にも見える。
「そうじゃないよ。気になってるのは、那波と出かけれるかどうかだよ。本当は、紅茶なんてどうでもいい……、っていうか、まあ、そんなとこ」
急に周囲の視線が気になって口ごもる。嫌がる那波にしつこくしてるみたいだ。
「木梨くんって素直なのね。紅茶は今日買いに行きましょう? 父にも許可はもらったの。近くならこれからも出かけても大丈夫だって」
「そうなんだ?」
パッと笑顔になる俺を、那波は愉快げに見上げてくる。
「でもわからないことが多すぎるから、あまり出かけないと思うわ」
「大丈夫だよ。俺がいろいろ教えるから」
「いろいろってどんなことかしら? なんだか楽しみね」
「あ、まあ、いろいろは……、いろいろだよ」
やけに胸がドキドキする。何を期待してるんだ、俺は。
「そう。じゃあ、木梨くん。もう朝礼が始まるわ、行くわね」
そう言って、那波は教室の中へと入っていく。
純真無垢な那波は今まで通りだ。それに比べ俺は……。やましい気持ちを悟られたら嫌われるんじゃないかなんて思いながら、俺は彼女の背中を見送った。
放課後、那波とともに職員室を訪れた俺は、安藤先生から渡されたプリントを目にし、絶句した。
しかし、那波は平然とそのプリントを受け取り、深々と頭をさげる。まるでこうなることを知っていたみたいだ。
「ご苦労さんだったな、那波。部長の任は解かれるが、これからも木梨を支えてやれよ」
「はい、安藤先生にもお世話になりました。意向を汲んで下さったことに感謝します」
「いや、俺は心理学研究部の存続も願ってたんだけどな、なかなか難しい判断だったんだろう。まあでも良かったじゃないか、なあ木梨。おまえは好きな弓道を続けれるし、那波のサポートがあれば、部長もなんなくやれるだろう」
「え……、あ、急な話で、ちょっと」
前髪をくしゃりとかき乱す。
那波の手の中には、心理学研究部廃部の知らせと、それに伴い弓道部の再開を知らせる内容のプリントがある。
安藤先生の話だと、俺が弓道部の部長を務めることになっているようだ。
部員は最低二人必要なためか、名ばかりではあるかもしれないが、那波がマネージャーとして入部してくれるようではある。
「顧問の先生は? 挨拶はすぐに行かないとまずいですよね?」
「一応、顧問は俺だ。便利屋じゃないんだぞって文句の一つも言いたかったが、おまえたちの面倒を卒業まで見るのも悪くはないと思ってな、引き受けることにした。指導者は前学園長にゆかりのある方らしい。一度木梨に会ってみたいと話してたよ」
「そ、そうなんですね。なんかちょっと急で驚いたな……」
「俺もだ。あ、そうそう、ついでにこれも貼り出しておけ。指導者に県内屈指の有段者をお呼びするんだ。さすがに部員が木梨だけでは問題がある。弓道ならやりたいってやつもいて、何人かに声はかけておいた」
「あ、はい……」
安藤先生が差し出す用紙を俺は素直に受け取る。ずいぶんと前から根回しされていたようにも思うが、俺が否定する余地はなく、そうせざるを得ない。
「話はそれだけだ。もう行っていいぞ」
「それでは安藤先生、失礼します」
那波もまた、何の疑問もないようだ。すぐに職員室を出ていこうとする。
「行くわよ、木梨くん」
すぐには動けない俺を促す那波は少しばかりあきれているようで、俺は慌てて彼女の後を追いかけた。
芽依と那波は昨日学校を休んだ。飛流姉妹がそろって学校を休むのは初めてのことらしい。
学園のマドンナであり、常に注目の的である二人のことだ。
今日は来るだろうか。今日も休みだったら、いよいよ何か問題が起きたのではないかとざわつくB組の教室に、一人の男子学生が飛び込んでくる。
「来た、来たよっ」
誰がとは言わないが、飛流姉妹のことだろう。
ホッと胸をなで下ろしつつ、那波に会いに行きたい気持ちもこらえ切れずに立ち上がった。
ガタンっと椅子が鳴る。クラスメイトの奇異な視線が集まるのを感じながら、俺は教室を飛び出す。
そして、すぐに目に飛び込んできた那波の姿に胸を踊らせる。
廊下に吹き込む温かな風で、さらさらと流れる黒髪をなびかせている那波の横顔があまりに綺麗で。
「那波っ」
A組の教室に入っていこうとする彼女を呼び止めた。
「あら、木梨くん、おはよう」
「もう大丈夫? 昨日休みだったから心配した」
「まだ少し慣れないこともあって変な気分よ。でも大丈夫なの。不思議なぐらい、迷いがないの」
「わかる気がするよ」
今日の那波は、今まで出会ってきた彼女の中で一番美しい。真っ白だった頬はわずかに色づいていて、表情も優しく和らいでいる。
何もかもが自然だ。彼女を取り巻く大気も、ふわふわと舞う綿毛のように柔らかで。
「今日、部活はある? 朝さ、安藤先生に放課後、職員室に来るように言われたんだけど」
まるで用事があって呼び止めたんだと体裁を取り繕う。
期末試験を終えた後、運動部以外の部が活動していないことは、安藤先生から聞いてもう知っていたのだが。
「部活は休みよ。私も一緒に行こうかしら」
「そうしてもらえるなら助かるよ。部活のことは、やっぱり部長じゃないとわからないことが多いから」
「わかったわ。他に気になることはなかったかしら? 木梨くんも転校してきたばかりでわからないことも多いのに、不親切だったわね」
「そんなことないよ。でもちょっと気になってることがある」
「なにかしら?」
「紅茶。すぐには必要ないかもしれないけど、紅茶買いに行かないと」
「紅茶? 木梨くんっておかしいのね。気になってることが紅茶だけだなんて」
口元に手を当てて笑う那波の姿を初めて見た。
可愛い。そう思うけど、少し彼女が意地悪にも見える。
「そうじゃないよ。気になってるのは、那波と出かけれるかどうかだよ。本当は、紅茶なんてどうでもいい……、っていうか、まあ、そんなとこ」
急に周囲の視線が気になって口ごもる。嫌がる那波にしつこくしてるみたいだ。
「木梨くんって素直なのね。紅茶は今日買いに行きましょう? 父にも許可はもらったの。近くならこれからも出かけても大丈夫だって」
「そうなんだ?」
パッと笑顔になる俺を、那波は愉快げに見上げてくる。
「でもわからないことが多すぎるから、あまり出かけないと思うわ」
「大丈夫だよ。俺がいろいろ教えるから」
「いろいろってどんなことかしら? なんだか楽しみね」
「あ、まあ、いろいろは……、いろいろだよ」
やけに胸がドキドキする。何を期待してるんだ、俺は。
「そう。じゃあ、木梨くん。もう朝礼が始まるわ、行くわね」
そう言って、那波は教室の中へと入っていく。
純真無垢な那波は今まで通りだ。それに比べ俺は……。やましい気持ちを悟られたら嫌われるんじゃないかなんて思いながら、俺は彼女の背中を見送った。
放課後、那波とともに職員室を訪れた俺は、安藤先生から渡されたプリントを目にし、絶句した。
しかし、那波は平然とそのプリントを受け取り、深々と頭をさげる。まるでこうなることを知っていたみたいだ。
「ご苦労さんだったな、那波。部長の任は解かれるが、これからも木梨を支えてやれよ」
「はい、安藤先生にもお世話になりました。意向を汲んで下さったことに感謝します」
「いや、俺は心理学研究部の存続も願ってたんだけどな、なかなか難しい判断だったんだろう。まあでも良かったじゃないか、なあ木梨。おまえは好きな弓道を続けれるし、那波のサポートがあれば、部長もなんなくやれるだろう」
「え……、あ、急な話で、ちょっと」
前髪をくしゃりとかき乱す。
那波の手の中には、心理学研究部廃部の知らせと、それに伴い弓道部の再開を知らせる内容のプリントがある。
安藤先生の話だと、俺が弓道部の部長を務めることになっているようだ。
部員は最低二人必要なためか、名ばかりではあるかもしれないが、那波がマネージャーとして入部してくれるようではある。
「顧問の先生は? 挨拶はすぐに行かないとまずいですよね?」
「一応、顧問は俺だ。便利屋じゃないんだぞって文句の一つも言いたかったが、おまえたちの面倒を卒業まで見るのも悪くはないと思ってな、引き受けることにした。指導者は前学園長にゆかりのある方らしい。一度木梨に会ってみたいと話してたよ」
「そ、そうなんですね。なんかちょっと急で驚いたな……」
「俺もだ。あ、そうそう、ついでにこれも貼り出しておけ。指導者に県内屈指の有段者をお呼びするんだ。さすがに部員が木梨だけでは問題がある。弓道ならやりたいってやつもいて、何人かに声はかけておいた」
「あ、はい……」
安藤先生が差し出す用紙を俺は素直に受け取る。ずいぶんと前から根回しされていたようにも思うが、俺が否定する余地はなく、そうせざるを得ない。
「話はそれだけだ。もう行っていいぞ」
「それでは安藤先生、失礼します」
那波もまた、何の疑問もないようだ。すぐに職員室を出ていこうとする。
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