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強欲な甘い結婚
ふたりで婚姻届を
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***
胸もとでキラリと輝くダイヤモンドは、佑磨さんから私への、二つ目のプレゼントだった。
「おかしくないでしょうか?」
これから、佑磨さんのご両親に会う。
この日のために購入したフレアスカートのワンピースとパンプスは、オフホワイトで清楚なもの。母が用意してくれたオーダーメイドのバッグには、ちょっと背伸びしたような気品がある。
母はどこに出しても恥ずかしくないと太鼓判を押してくれたけど、佑磨さんのお眼鏡にかなうのか、ちょっと不安だ。
「つばさはいつも綺麗だ」
「あ……」
ほおが赤らんだ。佑磨さんならそう言ってくれるとわかっていたのに、つまらない質問をしてしまった。
「何も心配しなくていい」
腰に両腕を回してきた彼に、抱きしめられる。
「口紅がついちゃう」
真っ白なシャツに触れそうになって言うのに、彼はおかまいなしにますます抱きしめてくる。
「必ず守るから、何があっても俺を信じてればいい」
「……うん」
佑磨さんに守られなきゃいけないようなことがあるの?
不安になるけど、大丈夫って言い聞かせる。結婚は反対されてないって聞いた。
もしかしたら、スピード結婚にあきれてるかもしれないって佑磨さんが笑ったのは、昨日のことだ。
「つばさ、キスがしたいな?」
まるで、同意を求めるように甘えてくる。
「口紅がとれちゃうから」
「直せばいい」
「でも、もうすぐ天ヶ瀬さんが来ちゃう」
「待たせておけ」
待つのが仕事だと思ってるみたい。
「また……あとで」
「触れるだけのキスじゃ足りなくなるって心配してるなら、今夜はじっくり……」
「そんなこと言ってません」
曲解する佑磨さんに、照れ隠しでそっけなくしたとき、部屋のドアがノックされた。
「和希が来たか」
彼は残念そうに言うと、ようやく私を解放し、ドアへ向かった。
南麻布にある佑磨さんの自宅は、和風建築の大豪邸だった。既視感を覚えたのは、長野の花里家を彷彿とさせるような豪邸だったからだろう。
和風庭園を望める和室に通された私は、自己紹介を済ませ、佑磨さんのご両親と向かい合わせになっていた。
海堂リゾートの社長に会うのは緊張したけど、お父さんは佑磨さんにとてもよく似た紳士で、一見穏やかそうに見えた。
一方、お母さんは和服の似合う美しい人で、海堂家を陰で支えてきたという自負を持ち合わせたような、凛とした女性だった。
名前は秀臣さんとあやめさんだと、彼が教えてくれた。
「それにしても、驚いたよ。佑磨のお相手がこんなに初々しいお嬢さんだなんてな」
秀臣さんは意味ありげな目を佑磨さんに向けた。
彼に似合わない。彼が選んだ理由がわからない。そう揶揄したのではないかと、ひやひやしながら、私は黙っていた。
「本宮さんの試着会に来ていたんです。親父が思うより以前に、俺の方からお付き合いをお願いしました」
「ほう、前に知り合っていたとはね。話がまとまるスピードが速かったのは、それでか」
「偶然ですよ」
佑磨さんは苦く笑う。
海堂親子は普段からこうなのだろうか。奥歯に物の挟まったような会話をするのだ。秀臣さんと佑磨さんだけがわかり合ってるみたいで、居心地が悪い。
「まあ、結婚は反対しないと約束した。つばささんと呼んでよろしいかな。大変でしょうが、佑磨をよろしくお願いしますよ」
私に視線を移した秀臣さんがそう言う。思いのほか、結婚への経緯を深掘りしないみたい。結婚が許されて、ほっとする。
「それはそうと、佑磨、今夜は大切な方々をお招きして食事会をすることになってる。つばささんと一緒に顔を出しなさい」
秀臣さんがそう切り出す。
「これから婚姻届を出しに行くんですよ」
「出してから戻ればいいだろう。ほかに用事でもあるのか?」
「いえ、別に」
どことなく、佑磨さんは不服そうにしたが、食事会には顔を出すと約束した。
そのあとは和やかに会話が進んだ。
あやめさんは私がリトルグレイスで働いてると知ると、本宮さんから話は聞いていて、一度は訪ねてみたい店だったと言ってくれた。
結婚生活が始まれば、仕事はやめないといけなくなるけれど、年内は働くつもりだと伝えれば、焦らずに一つずつ進めていけばいいと認めてくれて、胸が温かくなった。
佑磨さんとの結婚生活は幸せなものになるだろう。その確信が得られるひとときを過ごした。
両親に婚姻届を提出してくると断りを入れて、いったん、海堂の邸宅をあとにした。
天ヶ瀬さんの運転する車に乗り込んだ佑磨さんは、ちょっと不機嫌そうにごちる。
「食事会なんて聞いてない。今日ぐらいしか、つばさとゆっくり過ごせないのに」
不服そうにしてたのは、そういう理由だったのか。
なんでも、明日から佑磨さんが担当する大きなプロジェクトが始動するらしく、出張も増えると言っていた。
すでに気に入ったマンションは契約してあり、入居は来週末を予定している。
佑磨さんはすぐにでも一緒に暮らしたいと思ってくれていたけれど、私の荷物をホテルへ運び込むのは効率が悪いと、一緒に暮らすのは入居と同時の来週末になると思う。
彼は後部座席に座る私の方へと体を倒してくると、「初夜はしばらくお預けだな」と残念そうにつぶやく。
しばらくって……、そんなに長い間、会えないわけじゃないのにと赤らんで目をそらすと、ルームミラーに映る天ヶ瀬さんと目が合う。
恥ずかしい。絶対、聞いていた。
落ち込む佑磨さんがおかしいのか、彼は口もとをゆるめたあと、「区役所へ行きますよ」と車を発進させた。
この日、私は無事に婚姻届を提出し、佑磨さんの妻になった。
スピード結婚だったけれど、彼と過ごした時間は嘘偽りのない愛にあふれたものだったから、何も後悔はなかった。
胸もとでキラリと輝くダイヤモンドは、佑磨さんから私への、二つ目のプレゼントだった。
「おかしくないでしょうか?」
これから、佑磨さんのご両親に会う。
この日のために購入したフレアスカートのワンピースとパンプスは、オフホワイトで清楚なもの。母が用意してくれたオーダーメイドのバッグには、ちょっと背伸びしたような気品がある。
母はどこに出しても恥ずかしくないと太鼓判を押してくれたけど、佑磨さんのお眼鏡にかなうのか、ちょっと不安だ。
「つばさはいつも綺麗だ」
「あ……」
ほおが赤らんだ。佑磨さんならそう言ってくれるとわかっていたのに、つまらない質問をしてしまった。
「何も心配しなくていい」
腰に両腕を回してきた彼に、抱きしめられる。
「口紅がついちゃう」
真っ白なシャツに触れそうになって言うのに、彼はおかまいなしにますます抱きしめてくる。
「必ず守るから、何があっても俺を信じてればいい」
「……うん」
佑磨さんに守られなきゃいけないようなことがあるの?
不安になるけど、大丈夫って言い聞かせる。結婚は反対されてないって聞いた。
もしかしたら、スピード結婚にあきれてるかもしれないって佑磨さんが笑ったのは、昨日のことだ。
「つばさ、キスがしたいな?」
まるで、同意を求めるように甘えてくる。
「口紅がとれちゃうから」
「直せばいい」
「でも、もうすぐ天ヶ瀬さんが来ちゃう」
「待たせておけ」
待つのが仕事だと思ってるみたい。
「また……あとで」
「触れるだけのキスじゃ足りなくなるって心配してるなら、今夜はじっくり……」
「そんなこと言ってません」
曲解する佑磨さんに、照れ隠しでそっけなくしたとき、部屋のドアがノックされた。
「和希が来たか」
彼は残念そうに言うと、ようやく私を解放し、ドアへ向かった。
南麻布にある佑磨さんの自宅は、和風建築の大豪邸だった。既視感を覚えたのは、長野の花里家を彷彿とさせるような豪邸だったからだろう。
和風庭園を望める和室に通された私は、自己紹介を済ませ、佑磨さんのご両親と向かい合わせになっていた。
海堂リゾートの社長に会うのは緊張したけど、お父さんは佑磨さんにとてもよく似た紳士で、一見穏やかそうに見えた。
一方、お母さんは和服の似合う美しい人で、海堂家を陰で支えてきたという自負を持ち合わせたような、凛とした女性だった。
名前は秀臣さんとあやめさんだと、彼が教えてくれた。
「それにしても、驚いたよ。佑磨のお相手がこんなに初々しいお嬢さんだなんてな」
秀臣さんは意味ありげな目を佑磨さんに向けた。
彼に似合わない。彼が選んだ理由がわからない。そう揶揄したのではないかと、ひやひやしながら、私は黙っていた。
「本宮さんの試着会に来ていたんです。親父が思うより以前に、俺の方からお付き合いをお願いしました」
「ほう、前に知り合っていたとはね。話がまとまるスピードが速かったのは、それでか」
「偶然ですよ」
佑磨さんは苦く笑う。
海堂親子は普段からこうなのだろうか。奥歯に物の挟まったような会話をするのだ。秀臣さんと佑磨さんだけがわかり合ってるみたいで、居心地が悪い。
「まあ、結婚は反対しないと約束した。つばささんと呼んでよろしいかな。大変でしょうが、佑磨をよろしくお願いしますよ」
私に視線を移した秀臣さんがそう言う。思いのほか、結婚への経緯を深掘りしないみたい。結婚が許されて、ほっとする。
「それはそうと、佑磨、今夜は大切な方々をお招きして食事会をすることになってる。つばささんと一緒に顔を出しなさい」
秀臣さんがそう切り出す。
「これから婚姻届を出しに行くんですよ」
「出してから戻ればいいだろう。ほかに用事でもあるのか?」
「いえ、別に」
どことなく、佑磨さんは不服そうにしたが、食事会には顔を出すと約束した。
そのあとは和やかに会話が進んだ。
あやめさんは私がリトルグレイスで働いてると知ると、本宮さんから話は聞いていて、一度は訪ねてみたい店だったと言ってくれた。
結婚生活が始まれば、仕事はやめないといけなくなるけれど、年内は働くつもりだと伝えれば、焦らずに一つずつ進めていけばいいと認めてくれて、胸が温かくなった。
佑磨さんとの結婚生活は幸せなものになるだろう。その確信が得られるひとときを過ごした。
両親に婚姻届を提出してくると断りを入れて、いったん、海堂の邸宅をあとにした。
天ヶ瀬さんの運転する車に乗り込んだ佑磨さんは、ちょっと不機嫌そうにごちる。
「食事会なんて聞いてない。今日ぐらいしか、つばさとゆっくり過ごせないのに」
不服そうにしてたのは、そういう理由だったのか。
なんでも、明日から佑磨さんが担当する大きなプロジェクトが始動するらしく、出張も増えると言っていた。
すでに気に入ったマンションは契約してあり、入居は来週末を予定している。
佑磨さんはすぐにでも一緒に暮らしたいと思ってくれていたけれど、私の荷物をホテルへ運び込むのは効率が悪いと、一緒に暮らすのは入居と同時の来週末になると思う。
彼は後部座席に座る私の方へと体を倒してくると、「初夜はしばらくお預けだな」と残念そうにつぶやく。
しばらくって……、そんなに長い間、会えないわけじゃないのにと赤らんで目をそらすと、ルームミラーに映る天ヶ瀬さんと目が合う。
恥ずかしい。絶対、聞いていた。
落ち込む佑磨さんがおかしいのか、彼は口もとをゆるめたあと、「区役所へ行きますよ」と車を発進させた。
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