強欲御曹司の溺愛

水城ひさぎ

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強欲な甘い過去

付き合ってた ※佑磨side

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 バスルームから出ると、つばさはソファーに座ってスマートフォンをじっと見つめていた。その思い詰めた横顔に、眉をひそめる。

 すぐにつばさは思い悩む。俺の知らないところで、また何かあったんだろうか。

 今日はエマと心ゆくまで話し合って、ウェディングドレスの注文が順調にできたと喜んでいたのに。

「つばさ」

 声をかけると、つばさはハッと顔をあげ、スマートフォンをポケットにねじ込んだ。

「あっ、お水、用意しますね」

 風呂上がりに必ず、水を一杯飲む俺を気遣って、彼女はあわててキッチンに駆け込んでいく。

 俺も後を追い、グラスを持って戻ってきたつばさの手首をつかむ。

「何かあったか?」
「えっ、どうして?」
「何か悩みがあるのか? あるなら、聞く」

 そう聞けば、すぐに悩みは解決すると思った。

「あ……、そう見えたなら、違うの」
「エマか?」
「……ほんとに違うの」
「じゃあ、何を見てた」

 ジーンズのポケットからのぞくスマートフォンに視線を落とす。

「あっ、エマ……エマさん、モデル業もしてるんだなって、ネットを見てただけ」
「モデル? ああ、そうだな」
「赤ちゃんのときからモデルやってたんだね。やっぱり、才能ある人は違うんだなって思ってただけなの」

 そんなことか。そのわりには深刻そうだったが。

「エマに言われたこと、気にしてるのか。デザイナーになれるって話」

 エマは簡単に言ったが、つばさだってその道を探ってきたのかもしれない。その上で、リトルグレイスに就職したなら、エマの期待は重いだろう。

「ううん、気にしてない」
「俺も、つばさには才能があるんじゃないかと思うけどね。まあ、無理強いはしない。ほかにしてもらいたいこともあるしな」
「ほかにって?」
「俺たちの子どもがほしい」
「え……、あ、はい」

 つばさは赤らんで、小さくうなずくが、そわそわと落ち着かない様子で後ずさる。

 今夜も……なんて、警戒してるんだろうか。もっと大胆になってくれてもいいと思うが、消極的な彼女もまた、初々しさが残っていてかわいらしい。

「私、お風呂入ってきますね」

 そう言うと、彼女はバスルームに駆け込んでいく。

「今夜はやめておいてやるか」

 慣れない場所に出かけたんだ。疲れてるだろう。元気がないときのつばさは、そっとしておいてやりたい。

 グラスの水を飲み干し、ソファーに腰かける。

 テーブルの上の新聞に手を伸ばしかけたが、やはり、つばさが何を見ていたのか気になって、スマートフォンを開いた。

『本宮エマ』

 と検索してみる。上位に表示されるのは、ティアラデザイナーとして活動するエマのサイトばかりだ。

 彼女がモデルを本格的にやっていたのは、大学時代の話だ。活動拠点は海外だったし、日本で人気のあるモデルだったわけでもない。

 今は、デザイナーとしての活動が有名で、モデルの情報は、ほとんど検索に引っかかってこない。

 ざっと確認したが、特に気になる記事は見つからなかった。

「気のせいか」

 サイトを閉じたあと、ふと思い立ち、『元カレ』と追加して検索してみた。

 本宮エマの名前を検索していただけなら、つばさがモデル活動をしていたエマにたどり着くのは容易じゃない。その上、思い悩むような情報は俺でも見つけられなかった。

 だったらなぜ、彼女がエマの過去を知り、悩みを抱えたのか。それはきっと、つばさが『本宮エマ 元カレ』と検索したからだ。

 そう思い立ったのは、直感に等しい。しかし、杞憂ではなかったようだ。

 検索結果に表示されたタイトルを見て、ため息をつく。

『大手リゾート会社御曹司の恋人は、モデルの本宮エマ。留学先のおしゃれなカフェで、手つなぎデート』

 クリックすると、俺とエマが手をつないで並んで歩く姿が掲載されている。

 親父がテレビに出演し、もてはやされた時期があった。あの頃、俺にも妙な注目が集まって、こんな記事が出たこともあったか。すっかり忘れていたが、エマは覚えていたのだろう。

「エマのやつ、余計なこと言ったな」

 あきれつつ、スマートフォンをテーブルに戻したとき、バスルームのドアが開く。

 濡れた髪をタオルでぬぐいながら、ほおを上気させているつばさは、俺と目を合わせると、気まずそうに目をそらした。

 やっぱり、か。

 何か思うところがある、と言ったようなものだ。

「つばさ、話がある」

 彼女は肩をびくりと揺らしたが、駆け寄ってくるなり、俺の胸に飛び込んできた。

 そっと抱きとめる。彼女が不安がるなら、俺も話すしかないだろう。

「話って、なに?」
「まあ、なんだ。エマに何を聞かされたか知らないが、全部昔の、終わったことだ」

 そう切り出すと、つばさは頼りなげにこちらを見上げた。

「終わったって……」
「俺たちは子どもの頃から一緒に過ごしてきて、親戚連中には結婚するんだろうと思われてた」
「……そうなの」
「短い期間だが、エマの通ってた海外の大学に、俺も留学してたことがある。付き合ってたか? と聞かれたら、そうだとは答える。そうは言っても、つばさが気にするような付き合いじゃない」

 サイトに残る画像は、留学時のものだ。手をつないでデートした。そんなことぐらい、あっただろう。

 エマが、付き合ってよ、というから、数回、カフェへ遊びに行ったぐらいだ。彼女も、彼氏ができたと自慢したい年頃だったのだ。

 すぐに俺はふられて、エマには別の男ができた。今となっては、好きな男の気を引くために俺を利用したんじゃないかと思えるぐらいの出来事だ。

「……うん」

 つばさは小さくうなずいただけだった。

 うまく伝えられただろうか。いくら、肉体関係はないと言ったところで、それを証明するすべはない。つばさにしてみれば、聞きたくない話だっただろう。

 しかし、エマは何と言ったんだろう。本宮家の人たちはフレンドリーすぎて、時に余計なひとことを言う。

 やっぱり、エマに会わせる前に俺が説明しておくべきだったか。

「エマの担当が嫌なら、別の人にしてもらうよ」

 ハルカ・モトミヤのドレスも嫌だというなら、別のデザイナーに変えてもいい。

 しかし、つばさはすぐに首を横に振った。

「エマさんがいいです。だから、変えないでください」
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