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寝室までの距離
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お酒を飲んだ翌日は、少しだけ頭が痛い。ちょっと気だるくて、ベッドから出たくないなと枕に頬を当ててぼんやりする。
布団の感触が気持ちいい。素肌に触れる柔らかなシーツはさらさらしている。その心地良さに目を閉じかけて、私はふと、あることに気づいて目を開いた。
シーツに触れているのは素肌だ。それも手だけじゃなくて。昨夜はパジャマを着て眠ったはず。
いや、それはおとといのことか?
昨日はどうだっただろう。昨日は忘年会で、ちょっと飲み過ぎて帰ってきた。
浅田主任が送ってくれて、エレベーターに乗った時のことまでは覚えている。その後、私はどうしただろう。
「私……」
思い出せなくて髪をくしゃりとつかんだ瞬間、小さな悲鳴をあげていた。
いきなり後ろから回された腕に抱きしめられたのだ。それは暖かいたくましい腕。男性のものだとすぐにわかる。
「沙耶、起きたのか……?」
眠たげな声。それは湊くんの声。
「湊くん……、私……」
「ん? もう少し寝ててかまわないよ。今日から休みだしね」
「あの、そうじゃなくて……」
「なんだ?」
「私、なんで……。服……」
湊くんに抱きしめられている身体に力が入る。
布団の中をちょっと覗いてしまった。安堵していいものかわからないけど、下着以外は何も身につけていないのだ。
そして、私の背中にぴたりとくっつく彼の胸も、やはり素肌で。
「ああ、脱がせたよ。君の肌は気持ちがいい」
さらっと告白する湊くんは、私の肩に唇をつけて、耳元でくすりと笑った。
「君が俺のベッドに連れていけと言ったんだよ。俺は君に従ったまでさ」
「うそ……っ、私そんなこと……」
身体を反転させて、異議を唱えようとした私は、間近にある湊くんの顔に驚いて身を引いた。
彼との間に出来た隙間から覗く素肌を目にすると、恥ずかしくなって両腕を胸の前でクロスさせる。
「嘘なんて言わないよ」
湊くんはくすくす笑いながら、スッと私に眼鏡をかけた。はっきりとした視界に広がるのは見慣れない部屋。間違いなく湊くんの寝室にいるのだ。
「メガネがないとなんにも見えない。歩けないからベッドに連れていけって、君がダダをこねるから」
「ほんとにそんなこと? でも……、服を脱がせることないじゃない」
「君はコートも着たままだったんだよ? 外を歩きまわってきた服のまま、俺のベッドで寝かせれると思うかい?」
「それはそうかもしれないけど……」
「だったら何も問題ないよね?」
湊くんは無邪気な笑顔を見せる。
「問題ないって、そんなことないよー」
「俺たちは夫婦なんだから、過ちなんて起こりようはないんだ。たとえ何があったとしてもね」
「……何か、したの?」
不安になって湊くんを見上げる。彼は上半身を起こして、私の髪や頬をくすぐるように撫でていく。
「何かしようとはしたけどね、すぐに寝てしまったから未遂だよ」
それを聞いてひとまず安堵した私を見て、湊くんは不満げだ。しかし、すぐに気を取り直したようで、私の頬を両手で包み込んでくる。
「キスしたら嬉しそうだったな、昨日は。酔った君もなかなか可愛かったよ。そろそろ認めてもいいんじゃないか?」
「な、なにを……?」
「俺を好きだってことをさ。そうしたら、もっと素直に受け入れられるよ」
「え……。湊くん、ま、待って……」
「こんな美味しい状況で待てると思う?」
かぶさってくる彼を慌てて押さえるけれど、手のひらに触れるのは彼の素肌で。戸惑って手を離せば、彼との距離は縮まってしまう。
「この間よりは触れさせてくれよ……」
ふと切ない目をした彼に気を取られているうちに唇は優しく重なる。そして、昨夜は彼の優しさで脱がされることのなかったブラに指がかかる。
「待って……っ」
切羽詰まった声をあげた私の口を塞ぐように、湊くんはまた優しいキスをして。
「や……っ」
「あんまり可愛いとやめられなくなる。少しだけだ……、少しだけ、触れたい」
「……湊くん、待って。待って……、お願いだから」
「ああ……、わかってる」
触れたい彼と、それ以上はまだ無理だと拒む私。彼の長い指は、私の心を開かせるように、優しく優しく胸に触れていく。
「かわいいな……」
湊くんの恍惚とした表情は綺麗で。このまま彼の思う通りにされてしまってもいいのかもしれないと心は揺らぐ。
「そんな目をするな、本気になる」
「湊くん……」
湊くんが本気になってくれるなら、と思う。
彼に触れられた体が熱い。本当にこのまま、とも思う。でも、足りてない気持ちに今気づく。
湊くんは私が上條じゃなくても、同じように好きになってくれただろうか。結婚したいと思ってくれただろうか。
「湊くんが後悔しないなら……、いいよ」
それが私の今の気持ちだ。後悔するのは、私じゃなくて、きっと湊くんだと思うから。
湊くんはしばらく沈黙した後、ベッドの脇に置かれた椅子にかかるシャツを羽織った。
「湊くん……」
ベッドから降りる彼の背中に指を伸ばす。しかし、彼の背中は私を拒絶して。
「君の心ごと欲しいから、今は抱かない」
湊くんはそう言うと、少し頭を冷やしてくると、寝室を出ていった。
お酒を飲んだ翌日は、少しだけ頭が痛い。ちょっと気だるくて、ベッドから出たくないなと枕に頬を当ててぼんやりする。
布団の感触が気持ちいい。素肌に触れる柔らかなシーツはさらさらしている。その心地良さに目を閉じかけて、私はふと、あることに気づいて目を開いた。
シーツに触れているのは素肌だ。それも手だけじゃなくて。昨夜はパジャマを着て眠ったはず。
いや、それはおとといのことか?
昨日はどうだっただろう。昨日は忘年会で、ちょっと飲み過ぎて帰ってきた。
浅田主任が送ってくれて、エレベーターに乗った時のことまでは覚えている。その後、私はどうしただろう。
「私……」
思い出せなくて髪をくしゃりとつかんだ瞬間、小さな悲鳴をあげていた。
いきなり後ろから回された腕に抱きしめられたのだ。それは暖かいたくましい腕。男性のものだとすぐにわかる。
「沙耶、起きたのか……?」
眠たげな声。それは湊くんの声。
「湊くん……、私……」
「ん? もう少し寝ててかまわないよ。今日から休みだしね」
「あの、そうじゃなくて……」
「なんだ?」
「私、なんで……。服……」
湊くんに抱きしめられている身体に力が入る。
布団の中をちょっと覗いてしまった。安堵していいものかわからないけど、下着以外は何も身につけていないのだ。
そして、私の背中にぴたりとくっつく彼の胸も、やはり素肌で。
「ああ、脱がせたよ。君の肌は気持ちがいい」
さらっと告白する湊くんは、私の肩に唇をつけて、耳元でくすりと笑った。
「君が俺のベッドに連れていけと言ったんだよ。俺は君に従ったまでさ」
「うそ……っ、私そんなこと……」
身体を反転させて、異議を唱えようとした私は、間近にある湊くんの顔に驚いて身を引いた。
彼との間に出来た隙間から覗く素肌を目にすると、恥ずかしくなって両腕を胸の前でクロスさせる。
「嘘なんて言わないよ」
湊くんはくすくす笑いながら、スッと私に眼鏡をかけた。はっきりとした視界に広がるのは見慣れない部屋。間違いなく湊くんの寝室にいるのだ。
「メガネがないとなんにも見えない。歩けないからベッドに連れていけって、君がダダをこねるから」
「ほんとにそんなこと? でも……、服を脱がせることないじゃない」
「君はコートも着たままだったんだよ? 外を歩きまわってきた服のまま、俺のベッドで寝かせれると思うかい?」
「それはそうかもしれないけど……」
「だったら何も問題ないよね?」
湊くんは無邪気な笑顔を見せる。
「問題ないって、そんなことないよー」
「俺たちは夫婦なんだから、過ちなんて起こりようはないんだ。たとえ何があったとしてもね」
「……何か、したの?」
不安になって湊くんを見上げる。彼は上半身を起こして、私の髪や頬をくすぐるように撫でていく。
「何かしようとはしたけどね、すぐに寝てしまったから未遂だよ」
それを聞いてひとまず安堵した私を見て、湊くんは不満げだ。しかし、すぐに気を取り直したようで、私の頬を両手で包み込んでくる。
「キスしたら嬉しそうだったな、昨日は。酔った君もなかなか可愛かったよ。そろそろ認めてもいいんじゃないか?」
「な、なにを……?」
「俺を好きだってことをさ。そうしたら、もっと素直に受け入れられるよ」
「え……。湊くん、ま、待って……」
「こんな美味しい状況で待てると思う?」
かぶさってくる彼を慌てて押さえるけれど、手のひらに触れるのは彼の素肌で。戸惑って手を離せば、彼との距離は縮まってしまう。
「この間よりは触れさせてくれよ……」
ふと切ない目をした彼に気を取られているうちに唇は優しく重なる。そして、昨夜は彼の優しさで脱がされることのなかったブラに指がかかる。
「待って……っ」
切羽詰まった声をあげた私の口を塞ぐように、湊くんはまた優しいキスをして。
「や……っ」
「あんまり可愛いとやめられなくなる。少しだけだ……、少しだけ、触れたい」
「……湊くん、待って。待って……、お願いだから」
「ああ……、わかってる」
触れたい彼と、それ以上はまだ無理だと拒む私。彼の長い指は、私の心を開かせるように、優しく優しく胸に触れていく。
「かわいいな……」
湊くんの恍惚とした表情は綺麗で。このまま彼の思う通りにされてしまってもいいのかもしれないと心は揺らぐ。
「そんな目をするな、本気になる」
「湊くん……」
湊くんが本気になってくれるなら、と思う。
彼に触れられた体が熱い。本当にこのまま、とも思う。でも、足りてない気持ちに今気づく。
湊くんは私が上條じゃなくても、同じように好きになってくれただろうか。結婚したいと思ってくれただろうか。
「湊くんが後悔しないなら……、いいよ」
それが私の今の気持ちだ。後悔するのは、私じゃなくて、きっと湊くんだと思うから。
湊くんはしばらく沈黙した後、ベッドの脇に置かれた椅子にかかるシャツを羽織った。
「湊くん……」
ベッドから降りる彼の背中に指を伸ばす。しかし、彼の背中は私を拒絶して。
「君の心ごと欲しいから、今は抱かない」
湊くんはそう言うと、少し頭を冷やしてくると、寝室を出ていった。
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